25 もう、何も痛くない!
「それじゃあ魔法の染料も手に入ったし、今度はアナに呪紋を入れるわね」
ジムゾンの店に行って施術を行ってもらう。
服をはだけ普段はまったく見せない肌を露出し、施術の痛みに耐えるアナ。
「んっ…… あ……」
悩ましげな吐息とその表情は無茶苦茶エロかったです。
かぶりつきで見てしまって、済みません。
そうしてアナの背中、第十二肋骨の周囲にナノマシンによる呪紋が翼状に刻まれた。
副腎髄質に作用しアドレナリンを任意に分泌させる狂戦士化の呪紋だ。
一時的に心筋収縮力の上昇、心、肝、骨格筋の血管拡張、皮膚、粘膜の血管収縮、消化管運動低下、呼吸器系の効率上昇といった身体機能の強化、更に痛覚の遮断を起こす。
効果時間が限られていること、使用後は反動が出ることから常用はできない。
しかし、いざという時には有効な奥の手だった。
副作用の少ない戦闘薬をキメているようなものと思えばいい。
「緊張やストレス、怒りや恐怖といった感情状態によっても作動するから気を付けてね。発動中は休憩がまったくできなくなるし」
「だったらストレスや怒りを抱かせるような真似は慎んでください」
もっともな話だった。
翌朝、俺たちは仕上がった盾と俺の服を受け取りに行く。
「どう? 新しい絹の服は?」
俺は着替えてアナたちに披露したのだが、
「どこが変わってるんです!」
と突っ込まれる。
「どこがって、生地が変わってるんだけど」
絹糸は同じ太さの鋼鉄より強度があり、それを特殊な四層織りにした生地は俺たちの世界でも過去、防弾チョッキに使用されていた。
当然、刃物を食い止めるのにも役立つためこれを使った服は防御力が非常に高くなる。
某ロールプレイングゲームでも更にクッションを入れたキルテッド・シルクと呼ばれる防具があったし。
「だから! どうして! デザインを変えなかったんですかっ!!」
叫ぶアナ。
おーい、狂戦士化の呪紋が作動してるぞー。
……うん、新たに作った絹服のデザインは引き続き肩ひもの無いチューブトップにショート丈のスパッツという、【無課金ユーザー】のアバターらしい露出の多い格好なんだよね。
「いや、着替えが欲しかったんだけど、普通の服を二着仕立てるには生地が足りなくて」
だから面積の少ないこの衣装にしてもらったんだよな。
「せ、せっかくの絹の生地が……」
がっくりと肩を落とすアナ。
そ、そんなに駄目かな、この格好。
後は、紋章装甲、ウジャトの目の象嵌が入れられたアナの甲羅の盾+1
俺には革張りにしたタルのフタの盾(中)だ。
「勇者学園から依頼を受けた範囲は回り終えたからいったん戻りましょうか」
俺たちはジャンプ・クリスタルを使って、勇者学園のあるノビスの街のポータルゲートに跳ぶ。
「街が騒がしいですね」
人々の活気あふれる喧騒に、アナが小さく首を傾げた。
それに対し、俺は答える。
「収穫祭の準備でしょ」
ノビスの街は、秋の収穫祭の準備で賑わっていた。
勇者学園の年度始まりは、欧米と同じく九月から。
ノビスの街の収穫祭では例年、武闘大会が開催されるが、これは勇者学園の新入生が選定の儀で得たファミリアのお披露目を兼ねている。
「私たちも参加するわよ!」
武具も一通り揃えたし呪紋も入れたし、いいところまで行けるはずだ。
賞品も美味しいしな。
俺たちは勇者学園の事務局に行き、例の眼鏡美人な事務員、バベット女史にバブ・イルの塔、空中庭園低階層部の調査結果を報告する。
「なるほど。やはり上位成績者でない限り、空中庭園の探索は許可できないようですね」
バベット女史はそう言って、うなずいた。
「しかし素早い調査、助かります。王子から早く解放するよう突き上げが酷くて」
なるほど。
「功を焦っているんでしょうかね」
「そうですね。ともあれ、これなら今日中に探索開始の許可が出せそうです」
すると今日から空中庭園に向かって、収穫祭の武闘大会の本選に間に合うようにお帰りという訳か。
なかなかのハードスケジュールだな。
呪紋を得られるまで行ければ幸いといったところか。
「ついでに、収穫祭の武闘大会への私たちの出場手続きをお願いできますか?」
「ええっ、あれに出られるんですか?」
そんなに驚くことか?
「実力的には問題ないどころか優勝候補でしょうけど、残念ながら一般参加枠だとシードが付かないので、予選からになりますが」
「ええ、いいわ。問題なしよ」
「予選はジャンル選択チャレンジになります」
予選では、相手を選ぶことができた。
だから俺は、腕試しにちょうど良い対象を選ぶ。
「死霊で」
「かしこまりました。それでは、北の地下墓所で死霊を十体以上の討伐をお願いします」
「分かったわ」
こうして俺たちは北の地下墓所へと向かったのだった。
「骸骨剣士ね!」
北の地下墓所は、死霊系のモンスターが無限湧きする難所だ。
地相的に不死のモンスターを生じさせる何らかの要因があるらしい。
もっとも、ここで発生したモンスターは他には出ようとしないため、放置されている訳だが。
剣を持った骸骨たちが襲い掛かってくる。
だが、
「行くわよ!」
身体に魔力強化神経の呪紋のきらめきを走らせながら、敏捷値を倍加した俺は素早く飛びかかる。
「いい加減にしなさい!」
【ツッコミのハリセン】を使った範囲攻撃スキル【ハリセン乱舞】に特殊スキル【ボケ殺し】を重ねてお見舞いする。
これにより、俺の前に立ち塞がった数体がまとめてハリセンを受けダメージと共に弾かれた。
……【ボケ殺し】とは、犯罪行為の一種であり、漫才のボケ役を殺害することである!
いや、本当はお笑い用語で相方のボケを潰すことを言うんだが、この世界の【ボケ殺し】のスキルは通常、精神ダメージしか与えられない素手やハリセン、ピコピコハンマーなどによるツッコミで身体ダメージを叩き出すという文字どおりの意味のスキルとなっていた。
アホみたいなスキルだが、これによりネタ武器が実用的に使えるようになるので、【無課金ユーザー】には必須の特殊スキルなのだ。
骸骨剣士たちは反撃するが、俺の速度には付いて来れない。
かろうじて当たった一撃もタルのフタの盾に阻まれ大したダメージにはならなかった。
「氷結弾!」
イリィは魔力で作られた氷の弾丸を放つ。
高い威力を誇る弾丸が敵一体を確実にノックアウトする。
「はぁっ!」
狂戦士化の呪紋を発動させたアナが叫びと共に【口にするのもはばかられるムチ】による範囲攻撃スキル、乱れ打ちを放つ。
長いムチが縦横無尽に暴れ回り、その攻撃範囲に居る骸骨剣士たちをまとめてなぎ倒した。
呪紋により分泌されたアドレナリンが彼女の力を底上げし、ドーピングアイテムで能力値を強化してあったこともあって、その威力には目を見張る物がある。
無論、倒し切れずに反撃も受けるが、
「もう、何も痛くない!」
その動きは鈍らない。
甲羅の盾+1、ホーン・サークレットのお蔭でダメージを軽減されていることもあるが、分泌されたアドレナリンのせいで痛覚がマヒしているのが大きな要因だった。
「やっ! はっ! とう!」
ムチを振るう振るう。
そうしてアナは力押しで骸骨剣士たちを倒し切ってしまった。
強敵を倒したことで、彼女のレベルがぐんと上がった。
「空間跳躍の魔術が使えるようになりました!」
リターン・クリスタルと同じ働きをする魔術だ。
これで一々アイテムを消費しないで跳ぶことができる。
一方、イリィは、
「魔力球が使えるようになった」
魔力球は範囲攻撃が可能な魔術の中で最初に習得できる。
魔力を封入した手榴弾を魔術により錬成し、敵に投げ込むものだ。
「南○爆殺拳ね」
武器、防具、呪紋、ドーピングアイテム。
これらによって強化された俺たちは、本来なら強敵であるはずの骸骨剣士を相手にしても問題なく戦うことができていた。
「アンチマジック・ブレスレットも手に入ったし」
地下墓地の奥では、結構いいマジック・アイテムを得ることができる。
こうして俺たちは武闘大会本選への出場資格を得ると同時に経験値とアイテムを稼ぐのだった。




