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19 行くとなったら行くところまで行くしかありませんな

「で、でもほら可愛らしいでしょ? これまで世話になった貴方になら、命令の一つぐらい聞いてあげても良くってよ?」


 これでもくらえ! 必殺かわいこぶりっこアピール!


「そんなことを申されましても、この後の旦那様とのお話し合いに口添えする気はこのセバスティアン、毛頭ありませんからな」

「けちっ!」


 ま、まぁ、ともかく。

 気分を切り替えていく。


「このお金があれば、いくらかまともな防具が見繕えるでしょ」

「そのお金はどこから……」


 アナの疑問にはこう答える。


「銀のナイフや【月刊筋肉の友】なんかを、セバスティアンの伝手を使って、ね」

「この王都でも滅多に手に入らない品、好事家ディレッタントには高く売れましたぞ」


 このために今まで売らずに残しておいたんだ。


「ああ、あの本ですか。よくあんなものを買う人が現れましたね」


 顔をひきつらせながらセバスを見るアナ。

 まぁ、気持ちは分かる。

 金を得る手段が金の本質を変えるとは思わない。

 とはいえ、あんな本を高値で引き取りたがる相手となんぞ、俺だって取引したくはない。

 だからセバスティアンに任せたのだが、


「アナ様、男は度胸。何でも試してみるものですぞ!」


 彼はノリノリだったりする。


「行くとなったら行くところまで行くしかありませんな」


 そう宣言する。


「ああ、ブリュンヒルデの執事さんですものね。まともそうに見えたのですが……」


 何その納得の仕方。




 そして訪れたのはカミツキガメの甲羅を使った盾の作成を依頼した武具屋。


「先ほどのお嬢さん? 盾ならまだできていませんが」

「ああ、追加で作ってもらいたいものがあるの」


 俺は【タルのフタ(中)】と【タルのフタ(小)】を渡して頼む。


「これで盾を作ってもらいたくて」


 平民、つまり【無課金ユーザー】は日用品か、日用品を加工して作った武具の代用品しか使えないので大変なのだ。


 あとは俺の武器。

 盾の制作を三つも頼んだために貯まった武具店の利用ポイントを使ってサービスアイテムを得る。


「何ですか、その大きな扇子みたいなものは」

「ツッコミのハリセン。ツッコミを入れながら叩くと精神ダメージを与えるっていうネタアイテムね」


 【無課金ユーザー】は武器を購入できず、武器にも使える日用品しか装備できないからなぁ。


「【ハリセン乱舞】のスキルを使えば複数の敵に対してダメージを与えられるしね」


 ムチほど攻撃範囲は広くないが、これがなかなか強力だ。

 ちなみに単体攻撃スキルは【ハリセンチョップ】だったりする。

 大阪名物か!

 この世界、色々とおかしい。


 一方、【口にするのもはばかられるムチ】の入手で不要になったアナがこれまで使ってきた牛追いムチだが、


「力が要らない武器だからイリィにも使えるけど……」


 しかし、


「これは売り払って、そのお金で防具を買いましょう」


 今のイリィの筋力でムチを振り回しても大したダメージは与えられないし、そもそも戦闘中は常に攻撃魔術をぶち込み続けていればいい。


 それで防具だが女性限定の装備、革のビスチェを三人分、買うことにする。

 胸から胴までを守り、服の上にも下にも着れるしゃれたデザインのものだ。

 見た目が非常に良く、乙女ゲー【ゴチック・エクストラ】そしてソシャゲ版の【ゴチック・エクスプローラー】でも女性に人気の装備だった。


 イリィも興味があるようで、無邪気に当てて品を見ているが、彼女の胸だとすっかすかで着たら隙間から胸が見えてしまいそうだ。

 だがそれがいいっていうやつも居るだろうが。

 スレンダーな女の子がビキニとか着ると、身体をひねった時に生じる隙間が色っぽいとは聞いたが、なるほど納得だ。


「イリィにはこっちよ」


 俺は、呪われたビスチェをイリィに渡す。

 邪妖精アンシーリー・コートである赤帽子レッド・キャップの彼女は、呪われた品を使うことができるのだ。

 呪いの品は金縛りなどの呪いの作用さえ無ければ、そこそこの性能のものが安価に入手できるのでお得だった。

 呪いも祝福も本質は同じ。

 彼女を見ていると本当にそう思う。


 そうして購入したビスチェを俺とイリィは服の上に着込んだのに対して、アナはシスター服に似た天使のローブの下に身に着けた。


「最大サイズでも服の上からだと胸がきついもので」


 と、アナ。

 彼女の戦力は圧倒的だからなぁ。

 普通にスタイルが良いはずのブリュンヒルデでも勝負にならないくらいだ。


「初めてのまともな防具ですね」


 アナは俺を見てそう言う。

 まぁ、金は武器に使って防具は後回しだったからな。


「でも、露出はあまり変わらないんですね」


 俺の選んだビスチェはヘソが見えるくらいのショート丈だからな。

 見た目はあまり変わらない。




 アッヘンバッハ公爵家の屋敷へと帰った俺たちだったが、そこにはブリュンヒルデ・パパ。

 アッヘンバッハ公爵が待っていた。

 ブリュンヒルデと同じ金の撒き毛に青の瞳、がっしりとした身体が頼もしい偉丈夫。

 整えられたヒゲが渋いナイスミドルだ。


「……やってくれたな」


 公爵の執務室で相対する俺たち。


「レオン殿下の廃嫡に聖女王陛下のフィランダー殿下への譲位。今、聖王国中枢は上を下への大騒ぎだ」

「それでよくお帰りになることができましたね」

「当事者と話せる機会だ。無理を言って抜けてきた」


 そう言って俺とアナを見る。

 まぁ、この場合は元聖女王陛下、アナがメインだな。

 でも、


「何を他人事のような顔をしているんですか」


 アナに怒られた。

 公爵はそんな俺たちを見てため息交じりに言う。


「お前があの婚約を嫌がっていたのは知っていたが、まさかこんな手段に出るとは」

「お言葉ですがおと…… 公爵。私だってまさか【宣言具象化】まで持ち出してくるとは思わなかったのですよ」


 うん、さすがにそこまでアホだとは思わなかったんだよ、俺だって。


「それを信じろと言うのか」

「何と言われようと真実です」


 あくまでもきっぱりと言い切る。

 公爵は再びため息。


「幸せが逃げますわよ」

「誰のせいだと思っているのだ」

「もちろん、バカ王子のせいでしょう?」


 しれっとした顔で即答する。


「お前は……」


 やれやれとばかりに首を振る。


「まぁ、良い。いや良くは無い。まったく良くは無いが、考えたところで始まらん。……終わりもしないが」


 だいぶお疲れのご様子。

 しかし考えてもどうしようもないことで延々と悩んでいるのは、利口とは言えないだろう。

 この辺は割り切って欲しい所だ。


 そんな思いが通じたか、公爵は表情を改めるとこう言った。


「ともかくこれを奇貨として例の計画は実現した」

「例の計画?」

「聖女王陛下の生前譲位は、元々陛下たっての願いで密かに計画されていたのだよ」


 俺はアナの方を確かめる。

 彼女は一つうなずいた。


「聖王国を聖王の居ない普通の国に、魔王と戦える国にする。これは国策として以前から決められていたこと。あの子の愚行も、その呼び水になったに過ぎません」


 やれやれだった。


「どおりで、聖女王陛下が私にホイホイついて来られると思いました」


 バカ王子の廃嫡にフィランダー殿下の立太子、そして生前譲位。

 普通ならアナはそれにかかりっきりになるはずだった。

 しかしそれが以前から仕組まれていた事だったとは。


 俺は体よく国の為に利用されたということか。

 まぁ、言わぬが花だな。

 俺が顔をしかめると、公爵は首を振った。


「いや、現状では聖女王陛下は王都に居ない方が良いのだ。居れば必ず担ぎ出そうとするバカが出る」


 聖王家に頼り切った貴族たちが、この話にうなずくことは難しい。

 無理やり聖女王陛下を奉りクーデターまがいのことをしかねない。


「否定できませんね」


 俺もそれには同意した。

 公爵は渋い顔のまま言う。


「実際、動いている連中は居るしな」

「分かるんですか」

「金の流れは嘘をつかんからな」


 公爵は当然のようにうなずいた。


「二重帳簿を使っていればばれないと思っているのだろうが、裏帳簿に入れるまでの流れは確実に追えるからな。見る者が見れば分かってしまうのだよ」


 さすが、聖王国の経済担当。


「そういう訳だから、お前はノビスの街に居て、今までどおり行動していれば良い」

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