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1 待っていたぜェ!! この瞬間をよォ!!

「公爵令嬢ブリュンヒルデ・アッヘンバッハ、貴様との婚約を破棄する!」


 はいはい、婚約破棄、婚約破棄、それから……


「ユリカ嬢への陰湿な嫌がらせの数々、彼女から確かに聞いたぞ。恥を知れ!」


 断罪ね。

 テンプレ展開おつかれさん。

 私はせいぜい悔しそうに見えるよう、オレ様第二王子レオン殿下とその隣で悲劇のヒロインぶっているピンク髪のヒロインちゃん、ユリカ嬢の顔を見返す。

 ゆるみそうになる口元は、トレードマークになっている豪奢な扇子でカバー。


 でも王子、一方からの証言だけで決めつけてしまうのはいかがなものかと。

 だから言わせてもらう。


「嫌がらせとは心外ですわ。私はただ、婚約者を持つ高貴な方に露骨に色目を使うものではないと正論をぶつけただけ」


 まぁ、金髪縦ロールにきつめの顔立ちをしたいかにも【悪役令嬢!】な自分、ブリュンヒルデ・アッヘンバッハに言われては怖かったかもしれないけどね。

 ユリカって名前のとおり、ヒロインちゃんってこの国や貴族社会の世情に疎い日本からの転生者みたいだったし。


「その忠告も、誤解の無いよう人目のある場所、それも学園の講師の方々の目の届く所で行っております。証言を取ってもらったら分かりますわ」


 貴族であるならば、他から後々攻撃されるような醜聞は避けるべくこのように安全策を取っておくのが嗜みというもの。

 この私の発言で、かたずを飲んで見守っていた周囲の人々がざわめき、私と王子に向ける見る目が変わってくる。

 あ、ヒロイン嬢の化けの皮が剥がれて、ぐぬぬ、って唸ってる。

 私の反論に不愉快さを隠さず腹を立てている様子のバカ王子は気付いていないけどね。


「黙れ毒婦! 貴様のことだ、どうせ公爵家の威光を悪用して手を回したのだろう!」


 十六歳の女の子に毒婦って……

 王子は、更に居丈高に怒鳴りつけてくる。


「そもそも貴様は……」


 それにしてもバカ王子、勇者学園の新入生歓迎パーティでやらかすとは滅茶苦茶気が早かった。

 隣で私から虐められたと被害者面している能天気ヒロインちゃんが学園に入ってからわずか一週間。

 オリエンテーリング期間に籠絡されてやんの。


 しかし、私は内心で歓喜に打ち震えていた。

 なぜなら私、いや俺の中身は元男、日本からの転生者だったのだから!

 野郎との結婚なんて考えるだけで寒気がするぜっ!

 だから確実に縁が切れるよう念押しをする!

 倍プッシュだ!


「ですが王子、そこに居る女はたかが子爵令嬢ではございませんか。王子には到底釣り合いませんわ」


 俺がヒロインちゃんをわざと貶めて見せるとバカ王子、とうとう切れた。

 この事態を察知した聖王陛下が視界の隅で駆け寄ってくるのが見えたがもう遅い!


「ならば貴様はそれ以下になるがいい! ブリュンヒルデ・アッヘンバッハ、貴様の身分を聖王家の命にて剥奪するっ!」


 キター!


「まっ!」

「ま?」

「待っていたぜェ!! この瞬間ときをよォ!!」


 聖王家の名において成された宣言には力が宿る。

 具体的には世界のことわりに干渉して事象をねじ曲げる。

 聖王家の直系のみに伝わる【宣言具象化】と呼ばれる奇跡だ。

 そして取り消しは絶対に効かない。


 俺のステータスを見れば称号が【公爵令嬢】から【無課金ユーザー】に変化していた。

 同時に身に着けていた豪華なドレスやら装飾品アクセサリーやらの所持資格が剥奪。

 それらが強制排除キャスト・オフされ周囲に弾け飛ぶ!


「ぐあっ!」


 あ、王子の顔面にオリハルコン製のネックレスが直撃。


「うぼぁ!」


 ヒロインちゃんもドレスに巻かれて強制退場だ。


 そして、


脱衣クロス・アウッ!」


 俺はアンダースーツのみの姿になる。


 フォオオオオオオ!

 気分はエクスタシー!!


「なっ、何ですかその恰好は!」


 肌にぴったりと張り付いた肩ひもの無いチューブトップにショート丈のスパッツだけといった格好の俺に、ようやく駆けつけた柔らかな栗色の髪の美人さん、聖王陛下が目を見張る。

 今上聖王陛下は聖女王陛下であらせられるのでした。


「ああ、これは運動服ですわ」


 それにしてもこのひと若けぇなぁと感心しながら説明する。

 乳でけぇし。

 すると聖女王陛下はきょとんとしてエメラルドの瞳を瞬かせた。

 無防備に素を出すのがかわいいが、為政者がそんな素直で大丈夫かとも思う。


「うんどうふく?」


 前世日本でもあった、自転車乗りのレーパンや陸上競技などで使われる競技用ウェアみたいなものだ。

 ちなみに、


「直穿き推奨ですが」


 運動服としての機能を最大限発揮するためには、レーパンなどと同様、下着は付けない方がいいのだ。

 もちろん俺も……


「それって下着と変わらないじゃないですか!」


 悲鳴混じりに聖女王陛下が叫ぶ。


「そ、そもそもおへそなんか見せて恥ずかしくないんですか?」

「見せて恥ずかしいような鍛え方はしてません!」


 見て見て、この引き締まったウェスト。

 うっすらと割れた腹筋がカッコイイでしょ。

 脂肪も適度に乗ってるから十分女らしいし。


 ブリュンヒルデは縦ロールの金髪にきつめの顔立ちといういかいにも悪役令嬢風の容貌だったけど、まぎれもなく美少女。

 俺には美少女をわざわざ醜くする趣味は無いので、自分磨きは怠らなかったのだ。

 人間、常に鍛えておかないと二十五パーセント以下の力しか発揮できなくなるしな。


 俺は両手を頭の後ろに組んで見せつけてやる。


「アブドミナル・アンド・サイ!」


 アブドミナルは腹筋、サイは脚を意味し、腹筋と脚を強調する練筋術ボディビルの基本ポーズだ。


「ううっ……」


 ブリュンヒルデの持つ肉体美に魅了されたかのように聖女王陛下が赤面する。

 今の俺は裸同然だが、ブリュンヒルデの美貌がある。

 言わば【入会イベントでもらえる悪役令嬢アバターだけ身に着けた無課金ユーザー】ってやつだった。


「それでは失礼いたしますわ!」


 俺は優雅に一礼するとその場から駆け出す。

 こうしちゃいられない。

 せっかく自由の身、【無課金ユーザー】になったんだからさっそくリセット・マラソン、略してリセマラを開始して有望な使い魔、ファミリアをゲットしないと。


「ど、どこへ行くのですブリュンヒルデ・アッヘンバッハ、待ちなさい!」


 負けじと追い縋ってくる聖女王陛下。

 ああ、光の翼まで使って飛んで来るとは必死ですね。

 聖王家は神の御使いを祖とするので直系のみに使える御業という話でしたが。

 しかし、


「どなたのことをお呼びで? 私はすでにただのブリュンヒルデですわよ」


 あなたの知っているブリュンヒルデ・アッヘンバッハは死んだのです。

 ブリュンヒルデ・パパ、そして弟よ、後のことはよろしくー。


「今の私は身分を剥奪された身。ノブレス・オブリージュ、高貴なる者の義務はもちろん、聖王国への忠誠までキレイに全部吹き飛ばされてしまいましたから」


 ゆえに何人なんぴとたりともこの俺を止めることはできん!

 割れる人垣の間を陸上競技の手本となるような華麗なフォームで疾走する。


「ちょっと待ちなさい、その格好で外に出るつもりですか!」

「市井では特別おかしな姿ではありませんよ」


 南方出身の女戦士アマゾネスなんかもこれと変わらない姿でその辺を歩いているしな。


「こんな言葉をご存知ですか?」


 俺は隣を飛ぶ聖女王陛下に告げる。


「パンツじゃないから恥ずかしくない」

「そんなバカな」

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