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ジンの吟遊旅行記   作者: くーじゃん
第一章 蝙蝠の守護者
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8 捧演

 翌日捧演は7日後に行われることがダラス全土へと告げられた。捧演が行われるとなると、全土から多くの人々が城下へと訪れる。その為捧演はその後何日かに分けて行われる。

 その間人々は仕事に渡りをつけ休みを取り皆が捧演に参加できるように図っていた。捧演は娯楽の少ないこの国において、最上の娯楽である。それと共に宗教的にもその参加が進められている。


 曰く、「捧演で皆と共に祈りを捧げともに時を過ごす事、そのことは我らが父ウァミア神へのお心へと触れる事となる。ゆえに民は互いに助けあい、捧演へと参加すべし」とある。


 それ故に準備期間の間ですら城下には人があふれ、一種のお祭り騒ぎとなる。

 準備期間の間ジンはアルクの邸宅に住み込み楽団とのリハーサルや準備期間にあたりその間ヨゼフは護衛として付き添っていたが多くの場では立ち入りを禁止されて、屋外で待っているしかなかった。

 そしてほとんどジンと会えないまま準備期間は終わり捧演の開催日となった。

 城下には吟遊詩人が来た時用にステージとそれを取り囲むように太古の昔に作られた客席があり、その上に捧演用に飾り付けがされている。その円形の会場にはすでにあふれんばかりの人が捧演に参加するために訪れていた。

 すでに数千人の人が会場の中には詰めかけていたがそれでもなお訪れた人々の半数も収容できず、入場できない人々の罵声が飛び交いその場は混乱の渦に飲まれつつあった。

 しかし会場に鳴り響いた太鼓の音と共に一人の男性がステージへと上がることでその場にいた全ての人の視線は一点へと集まり一時の静まりを取り戻す。


「静まれよ!ウァミア神の御前である!」


 喧騒すら飲み込み会場の全てへと響き渡った声の主は領主バゼルその人であった。


「皆慌てずとも、全ての者が参加出来る。我らが父の面前で無様をさらすな。他を思いやり、皆でこの時を分かつそれが父たるウァミア神の望みと心得よ」


 その声は決して張り上げたものではない。しかし古代に作られたその会場は領主の声をその場の全ての人々へと届けて見せた。その後先ほどの混乱は嘘のように静まり会場の準備が整うのにはさほどの時間はいらなかった。


 領主の登場により混乱の静まった会場でヨゼフはジンと共にステージ裏で控えていた。


「すごいな。よくぞ鎮めて見せたものだ」


 このステージ裏にいるのは俺達二人だけだ。楽団はステージ下ですでに待機しており入場のタイミングはジンに任されている。それ故にこうして素直な感想も語れる。


「そりゃそうだ。なんたって俺たちの領主様だからな。皆あの方を慕っているんだよ」


「だが少し疑う事を覚えた方がいいな」


「は? それはどういう意味」


 その言葉を言い終わる前にジンはミュートを持ちステージへと上がってしまった。その言葉に少しの戸惑いを覚えながらヨゼフはその姿を見送った。

 その後捧演は全ての民が参加できるまで行われ、その間ダラスの街は宴の熱狂の渦にあった。ジンの奏でる歌の数々は多岐にわたりダラスに伝わる讃美歌から始まり、勇猛なる戦物語に人々は胸を熱くし、遠き果ての国を歌った牧歌に思いをよせ、そして祝歌に人々の幸せを祈る。

 その全てはジンの天からの贈り物とも思われる歌声で紡がれる。その歌は柔らかで、時に力強くその場の人々を包み魅了していく。


 しかしその中でヨゼフは物足りなさを感じていた。その全ては確かに素晴らしかった。だがそれでもあのダラス城で見せたあの時の演奏の迫力を感じなかったのだ。あの時の全身を貫き、身動きが出来なくなるほどに圧倒されたあの感覚、それを感じることはなかった。そのことをジンに初日の捧演後に聞くと


「あぁ、そりゃそうだろう。本来の捧演はあの時の一回だから。その後のは大衆向けの編成にしてるしな」


 そうあっけらかんと話されると返す言葉もなくなる。ジンいわく今行っている捧演は旅代を稼ぐ為に始まったものだというのだ。


「あ、これ内緒な。言った事バレたらマジで怒られる」


 そう笑って食事に戻ってしまった。思いがけぬ吟遊詩人のあくどい部分に触れたヨゼフは逆にその悪びれなさに感心してしまったものだった。


短いので今日はもう一話投稿します

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