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ジンの吟遊旅行記   作者: くーじゃん
第一章 蝙蝠の守護者
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6 黒翼の城

 カーズに荷台を引かせての城までの道のりは大変目立った。なにせ背丈だけでも2メートルを超える見事な毛並みをした青鹿毛の黒馬を銀髪の美少年が御しているのだ。

 さらに悪いことにカーズの手綱をヨゼフにまかせジンは歌を披露しながら道を進んだものだからさながらパレードのような人だかりが出来ていた。確かに吟遊楽団は興行の為にそのようにして村にやってくることがあったがそれを一人で成し遂げてしまうのだからもはや呆れてしまう。

 まるでお祭りのような喧騒をつくりだしながら一行は緩やかな丘の上にあるバレル城へと到着した。バレル城は漆黒に全体が染められており別名【蝙蝠城】と呼ばれていた。


 その由来は主に二つある。一つはその見た目である。正面の本城と左右対称にある東塔、西塔で構成されておりその見た目は蝙蝠の羽を広げた姿を連想させるものであった。

 そしてもう一つの理由は彼らの信仰する神獣にあった。彼らが信仰する【ウァミア神】は蝙蝠の化身と信じられておりその姿は人の姿をかたどりながら、コウモリのような羽を持ち、背丈は人の2倍ほどもあり無数の蝙蝠を従えダラスの街を襲う獣魔たちから人々を守ったといわれている。

 ツペシュ家は神代の時代に【ウァミア神】から領主として認められてこの地域を支配したといわれており、地域の支配者であり宗教的指導者でもあった。

 もちろんヨゼフも小さな頃から【ウァミア神】の事は大人たちから言い聞かされていた。子供がなにか悪戯をすると、悪い子はウァミア神様の使いに連れ去れちまうぞという脅し文句がこの国での常套句だった。

 さらに収穫祭では全身を黒ずくめにした大人が小さな子供の家を訪れおどかして回るという行事もあり、ヨゼフもよく泣かされたものだった。


 しかし羊守になり村の外へ出ると【庇護の壁】の付近まで訪れるようになる。その時ヨゼフはその力を実感することとなった。初めて師と共に壁の近くに来た時に感じた余りに強大な気。それは適合者であるヨゼフであっても何もできずに殺されるだろうものであったが、その気が壁を超えることは決してなかった。

 獣魔の脅威を知っているからこそヨゼフは【ウァミア神】に対して人の生きる指針というよりももっと現実味のある存在として感じていた。そして【庇護の壁】から感じるその力と同じ気配を最も感じられる場所それがこのバレル城であった。


「それじゃあ大人しくしとくんだぞ」


「そうさせてもらう。馬使いの荒い相棒よりもここの連中の方がよっぽど優しそうだ」

 

 整備の行き届いた厩舎と艶のある毛並みで立ち並ぶ馬たちを見つめカーズは満足そうにジン達にのみ聞こえる声でそう答える。


「そうかい。ならまぁなんかがない限りはゆっくりしてな。さぁどんな飯が出るか楽しみだ」


 その言葉に処置なしといった顔で顔を振ると、待機していた馬係りの少年を無視して自分から開いている場所へと進んでいきそのまま地面に伏せてしまった。

 ジンの手から手綱が離された事、そしてなんの指示もなく厩舎の一つに入っていったカーズの姿ににしばらく呆然としていた少年だったが、慌ててカーズを繋ごうする。しかし近づこうとすると唸り声をげられ悪戦苦闘しているようだ。


「そいつはそのままにしといてくれ。そうすりゃ暴れたりしないよ。ブラッシングや質のいい欲し草をやってたら機嫌は良くなるからさ。よろしく頼むよ」


 ジンはそう言いながら少年にリコ村で貰ったいくつかの貨幣を手渡す。困惑した表情の少年であったが、カーズの様子を見て最後には納得したようで嬉しそうにその貨幣を受け取った。

 そうしてカーズと荷台を共に厩舎に預けた後、ヨゼフ達は正門前へと案内された。バレル城の正門は鉄製で出来ており、その上部には蝙蝠の紋様が描かれていた。その巨大さと各所に彫り込まれた彫刻は訪れる人々を威圧する存在感を放っている。


「吟遊詩人・ジン殿のご到着である。門を開けよ!」

 

 使者の後を追うジンを見て少し遅れながらもジンから渡された楽器を手にヨゼフは大聖堂への道を進んでいった。二人が敷地内に入ると同時に城までの道へと敷かれた赤いカーペットの左右に立ち並んだ様々な楽器を持った奏者達が演奏を始める。

 奏者たちの壮大な演奏はヨゼフ達が大聖堂の中へと進んだところで大聖堂の門が閉まると同時に止み、その場には一切の音のない静寂となる。大聖堂の中は黄土色で統一された内装となっており6本の石柱が奥へと続く通路を支えるように立っている。

 通路には騎士や文官らしき人々が数人控えており、最奥には壮年の男性が立っていた。金の刺繍で彩られた黒い司祭服を身に着け、彫の深い顔立ちには年相応のしわが刻まれている。


「よくぞ参られました。吟遊詩人ジン殿。私の名はバゼル・ツペシュ。ダラスの領主を拝命しております。神々の庇護を受けし吟遊の子よ。貴方の来訪を我らがダラスの民は心から歓迎いたしましょう」


 にこやかな微笑みをうかべ語りかけているこのお方こそ、ダラス領主バゼル・ツペシュ様だ。前領主から当主の座を次ぎ30年近くの治世をなされ領民からの信頼も厚い。その声は威厳にあふれ知性を感じさせるものだった。ジンは優雅な動作で一礼をし、ヨゼフもまたそれに続いた。


「これもまた神々のお召めきあってのこと。ダラス領主バゼル・ツペシュ殿。貴方がたの歓迎心よりお礼申し上げます」


「吟遊詩人の方々をお出迎えするは神々の子としては当然の事です。ジン殿の歓迎の宴の準備もできております。どうぞゆるりと我らが国にてお過ごしくださいませ。ヨゼフ、君もご苦労だった。ずいぶんと久しいな。娘も会いたがっておろう。ゆっくりとしていきなさい」


「いえ、滅相もございません。むしろ命を救われたのは私の方でして。そのお礼としてここまで伴をさせていただきました」


「ほう、それはジン殿には改めてお礼申し上げなくては。我が国の宝である若者をお救い頂き心より感謝いたします」


 そういうとバゼルはジンに向けてこうべを垂れた。


「いえ、完全に成り行きでそうなっただけでしたので。しかし領主様がヨゼフを知っているとは思いませんでした」


 「彼は私の直属の羊守なのですよ。壁付近の警護の傍ら放牧もしてもらっています。第二区の中程にある砦には常駐の兵がいますがそれより先は適合者以外しか進めません。


 なので、彼と同じような適合者が十人ほどそれぞれの管轄を受け持っています。ですがほとんど獣魔が壁を超えることはないですからね。ならば移動の必要のある放牧も一緒にやってもらおうという事です」


 少し恥ずかしいように笑みを浮かべながら言うバゼルはとても誠実そうに見えた。

 

「いえ、そのような国はほかにもありました。確かに折角の労働力と土地を無駄にすることもありませんからね」


 その場にいた重臣の方々とも簡単な挨拶を済ませるとジンは佇まいを正し祭壇の正面へと向かった。


「それでは、ウァミア神へのご挨拶と皆様の歓迎のお礼として一曲捧げたいと思うのですがよろしいですか?」


「ええ、それは是非とも」


 バゼルの了承を得ると、ジンは目配りでヨゼフに楽器を渡すように指示をした。ヨゼフの持っていたのは、8本の弦を持つマンドリンだった。胴の部分は卵を半分に割ったような形をしており、響板の部分は見事な装飾がなされている。マンドリンをヨゼフから受け取ると胡坐をかく格好で座り、すーと深呼吸をした。


「これより演奏いたしますのは我ら吟遊詩人が代々語り継ぎし神々との契の歌。どうか心静かにお聞きくださいませ」


 そう告げると、ジンはマンドリンを手に取りゆっくりと音を奏で始める。ジンが奏でた音楽はヨゼフが聞いたことのないものだった。おだやかにゆっくりと、そして懐かしくなるようなそんな音楽。そして一言一言をかみしめるようにジンは歌いだす。

 ジンの澄みわたるような少年の歌声は広い大聖堂の隅々まで響き渡る。ヨゼフはジンが歌いだしたと同時に目に見えない何かが体を通って行くような感覚を覚え、そして後を追うように全身に鳥肌が立つのを感じた。

 ヨゼフはジンの歌っている歌詞を理解することは出来なかった。きっと古代の言語で綴られた物なのであろう。だがその声は、透き通るように高くはかなげで、何よりも美しかった。教会のステンドグラスから降り注ぐ光は薄暗い礼拝堂の中でジンの姿をより一層神秘的な雰囲気へと引き立てていく。

 その演奏は数分間だけの短いものであった。だが、その演奏が終わっても誰一人動き出す者はいない。まるで時が止まっているかのように。それほどまでにそれは聴くものすべての心を魅了しきっていた。




「……見事な演奏でございました。ウァミア神もお喜びいただけたでしょう」


 バゼルの一言により現実へ引き戻された人々は、惜しみない拍手と喝采をジンへと浴びせた。


「ジン殿は稀代の名楽士殿でいらしたのですね。此度の捧演は素晴らしい物になりましょう。私共も持てるすべてを持ちまして準備いたしましょう。」


「はい、私も素晴らしい捧演になると思います。この国の人々はみな活気がある。こういう国は演奏をしていて気持ちがいいですから」


 こうしてバゼル様らダラスの重要な地位を持つ方々との謁見は穏やかに終わった。ジンは捧演の日程等をバゼル様と取決め、ヨゼフに対しては獣魔討伐とジンへの道案内の褒賞が与えられることとなり二人はいったんその場を離れていった。


次回から水、土曜の週2回連載にします。(あんまり量はないですが…)拙いところが多い作品かとは思いますが少しでもいい物語に出来るようご指摘等コメント頂けると嬉しいです。

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