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ジンの吟遊旅行記   作者: くーじゃん
第四章 龍姫と黒騎士
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21 切り札

更新が遅くなってしまい申し訳ありませんでした。本日より更新再開します。


「放て」


 その声と同時にターヘルの背後で控えていた兵から一斉に矢が放たれ統率の取れた兵士達が放つ矢はジンとカーズの逃げ道を塞ぎながら空を埋め尽くす。


「行くぞ」


 ジンはただ一言風に紛れて聞こえないほどの声でつぶやいた。それに呼応するようにカーズは頭を低くし身を構える。


 そして矢が到達する時にはすでにその巨大な黒馬の姿はそこになく放たれた矢は手入れの行き届いた庭の芝生に突き刺さっていた。と同時に助走もなくただ一度駆けただけでありながらカーズは空を飛ぶ弓矢のさらに上を飛翔しターヘルの目前までに迫る。


紫電放弾スタン・ショット撃て」


 それでもターヘルは冷静さを保ちながら自らの側に控える側近の2人に命じる。それは幼き頃から共に施設で育ちハーキムによって貴族に取り立てられた者達だった。


 彼らは自らの低い適性を薬で強化していた。それ故に本来なら扱えぬはずの紫電の光を結晶機から解き放つ。空中にいる以上その攻撃を防ぐ術はないはずだった。

 

 しかしその紫色の光も黒馬には届かない。まるで見えない何かに阻害されるようにその光はねじ曲がりあらぬ方へと飛んでいく。


 そしてカーズの勢いを落とすことなくタへ―ルの居るはずの場所へと前足を振り落とした。その一撃は地面を抉り人間の骨が砕ける音が響く。


「なに?」


 だがその身を砕かれたのはジンの知らない兵士であった。それは貴族に取り立てられた内の一人。その体はカーズの一撃を食らいもはや動けるはずがないはずの重傷を負っていた。


 しかしその男が見せた笑顔を見てジンはとっさに叫ぶ。


「退け、カーズ!!」


 その言葉が聞こえる前に男がしたことはただ一つ。唯一動く右手で導火線を引いただけ。その胸に抱えた爆薬はジンとカーズを巻き込み爆炎と轟音を響かせた。


 それはこの世界にあるはずのない物だった。地下より湧き出てくる黒い水を材料として作られた強化爆弾。それは十分な威力を持っていた。


「散会!!」


 紫電放弾スタン・ショットを放つ指示をした後タへ―ルは後ろを見ることもなく一目散にその場から後方へと走っていた。


 紫電放弾スタン・ショットは唯の目くらましに過ぎない。だからこそ紫電放弾スタン・ショットを放った後すぐにターヘルは退避行動に移っている。


 自らの身代わりとなる者を一人残して。その命令により自分がどうなるかその男も理解した上でその命に従った。


 ハーキムに救い上げられた者達は皆覚悟が出来ているのだ。自分達はハーキムの野望を叶える捨て駒にすぎないと。それが自分達を過酷な環境へと追いやった世界への復讐となり自分達を救ったハーキムへの恩返しとなると信じて。


 それでも命を投げうった攻撃もジンに通じないであろうということをターヘルはとうに理解している。あの吟遊詩人は己の迅雷の矢すらも防いで見せたのだから。


 ヘサーム達と共にジンを最初に襲った時ターヘルは間違いなくカーズを迅雷のレール・アローで貫いたはずだった。


 弓の名手たるターヘルが確信を以て放った矢が外れることなどあり得なかった。すなわちそれは何者かによって攻撃を阻害されたという事。


 それに仮に届いたところで唯の傷など奴には無意味だろう。


 ジン達がバクーの街へと潜入したあの日、裏道で襲撃の指示を出したのは偏に不確定要素であるジンを排除する為であった。


 その存在があまりにも異質すぎる故にアイシャの身にもしもの事がある可能性があった上でもハーキムから許可を取ったその襲撃は本来ならば成功していたはずだった。


 意識外からの襲撃による吹き矢による毒針攻撃はジンのその身を捉えたのだから。しかし馬をも一瞬で麻痺させる毒薬ですら大した足止めすら出来なかった。それはジンが人ならざるものである事を示しており、ハーキムの願いを阻む最大の不確定要素といえた。


 だがその攻撃は思わぬ別の収穫があった。それは吟遊詩人が本気でアイシャを守る意思があるという事。ジンは完全に吹き矢による攻撃を予期していたのにも関わらずアイシャを守る為その矢をその身に受けた。その矢を防ぐことは簡単であったであろうにあえて見えない防御をしなかったのだ。


 ターヘルはもはや神獣という存在がどういう者なのかそれを理解していた。ヘサームに初めてあの場所へ連れていかれたあの日から。


 だから神獣の加護を以て旅をするなどという吟遊詩人を最初から信頼してなどいない。人としてあり得ない力を持つことが分かるジンに至っては最大限の警戒を以てされどその真意を悟られぬように接していた。


 その存在がこれ程までにアイシャに対して執着をもって接している。それならばそれを利用することも可能だ。全て事が終わればアイシャはハーキムのいう事を聞かざるを得なくなるだろう。


 それが本人の意思とは違ったとしても。


 そうなればジンを言い含める事も可能だとそう思っていた。ジンは確かにアイシャを守る意思を見せてはいたが可能な限り自ら行動することに対して制限をしているように見えた。


 それ故にこの作戦において獣魔を呼んだあとにはジンには後方にて待機して貰うよう作戦をくんでいたのだ。全てが終わるまで傍観者であるように。


 だがそれもここまで。こうやって自分たちの前に現れたのであればこの吟遊詩人は何をおいても倒すべき障害だ。


 だからこそ自らが持つ全てを以て奴を迎え撃つ。その為の準備はしてきたのだから。


「煙が晴れるぞ。全員攻撃準備!!」


 十分な距離を取り部下たちは黒煙を中心に取り囲むようにそれぞれ退避させていた。


やがて黒煙の中心から現れたのは中心で悠然とその場に立つ黒馬とその背に跨る吟遊詩人の姿だった。


 カーズの背に跨るジンの服は爆炎により所々吹き飛ばされ少なくとも先ほどの爆発がその身に届いていた事を示していた。だが雪のように白い肌から浮かび上がったのは赤く滲んだ血の色ではない。


その肌の下にあったのは銀色に輝く金属だった。


「それがお前の真の姿か」


 そう問うたターヘルに動揺はない。それだけの覚悟はしていた。神獣と同等かもしれない相手と戦う覚悟を。


「……全く嫌な物を見せてくれる。


 あんな物は全て無くなったはずだったのだがな」


 ジンの声はかすれた様に小さい。


「残念ながら残っている所には残っているもんさ。


 だが残されていた物はあれだけはないぞ」


 その声と同時に中庭の各地にある遮蔽物の影に散らばった兵達が両手に構えたのは黒い砲身を持った武器。その武器を見てジンの表情が強張る。それは古代における技術によって作られた破壊の権化ともいえる武器であり銃と呼ばれていた。


「斉射開始!!」


 ターヘルの指示の下連続した銃声が一斉になりはじめ、無数の弾丸がジンへと放たれた。


 地下の施設に残されていたのはたった数丁のボトルアクション式の狙撃銃。その一つをハーキムの一族は分解しその構造を徹底的に解明した。遺跡の発掘後ハーキムの一族は得た知識を水路建設等に利用してきたが軍事部門の知識だけは秘匿として来た。


 それは王家に反逆を悟られないようにする為だけではない。やがてくる反攻の日に向けて人ならざる者達への隠蔽を行う為であった。


 そして今こそ反攻の狼煙を上げる日である。それ故に紫電放弾スタン・ショットを扱えぬ者全員分にその銃を今回の戦いでは準備させた。彼らは十分に狙撃の訓練も秘密裏に行ってきた。その見えない銃弾による銃撃を防げる人間などいない。


魔力風壁マナ・エア展開」

 

 だがその銃弾はジンには届かない。ジンの声に応えるようにカーズの体に光る紋様が浮かび上がり銃弾は見えない何かに阻害されるように軌道がそれ地面や壁に着弾させた


 それでも連続して鳴りやまない銃声は鉛玉を吐き出し続け、その防壁の秘密を露わにする。あの時はたった一撃だけであったのでわからなかったが絶え間なく打ち続けられる弾幕の嵐によりターヘルの眼にもその障壁が確認できた。


 カーズの周り数メートルにおいてすべての弾丸は歪められ決してジン達の身を傷つけない。その見えない障壁がジンとカーズを絶えず守って来たのだ。しかし銃弾全てを防ぐだけの障壁を維持するにはカーズは動くことは出来ないようでその場に留めさせることは出来た。


「わかっているとも。


 これだけではお前を倒せないと。


 だからこれが俺の切り札だ」


 そしてターヘルは銃声が鳴り響く中銀の弓を手に取る。その姿をジンは無言のまま見つめていた。ターヘルが何をするのか見極めるように。確かにこの一撃もあの障壁を突破できないだろう。だがそれも承知でターヘルは銀矢を放った。


 最大限の魔力を込めて放った矢は雷を纏いながら飛翔した。しかしその矢はジンをめがけて放たれたわけではなかった。その弓矢が捉えたのはカーズの足元に転がるかつての部下だった男の死体だった。


 爆発によりかつての姿の面影すらなくなったその遺骸はしかし雷の矢を受けて光輝く。


「ターヘル!!」


 ジンの叫び声が微かに聞こえた気がした。だがそれも一瞬の事。その後に続いたのは眩しいまでの光だった。


 側近の体内に組み込まれたのは魔力を暴発させる装置だった。例え死体だったとしてもその中に残された魔力だけで十分な威力を持つ。古代の技術では奴を倒せなかった。ならばその時代になかった技術を組み込むしかない。魔力という名の人ならざる者に抗う力を。


 その瞬間辺りは光に包まれ全てが吹き飛んだ。


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