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ジンの吟遊旅行記   作者: くーじゃん
第一章 蝙蝠の守護者
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5 帰還

「見えたぞ。あれが俺の村、ナビ村だ」


 そう言いながらヨゼフは初めて心から安心したような気がした。前回町を離れてからまだ3日しかたっていないのにもかかわらず、長い旅を終えた後の心地だ。

 ヨゼフの村は簡易な木の柵で覆われ、木と藁で出来た家が何件か寄り添うように密集しているこの辺りでは典型的な集落といえた。村の入り口では何やら人が集まっている。そのうちの一人がヨゼフに気付き、駆け寄ってくるのが見えた。

 その見慣れたいくつかの顔を見てヨゼフは緊張がほどけていくのを感じた。ああ本当に帰ってこれたんだ。そう自らの幸運に感謝しながら近いづいてくる友人たちに手を振りながら応えた。


 村に入ると村の住民が大勢迎えに来てくれた。本来なら昨日帰ってくるはずだったが、ヨゼフが帰ってこなかった為に捜索隊を出そうかという話になっていたらしい。

 最初にジン達の姿を見たときにはその見慣れぬ姿に驚きを隠せていなかった住民たちだが、ヨゼフが事の経緯を説明するとジンに口々に感謝を述べ宴の準備をし始めていた。

 一通りの挨拶を済ませた後、ジンはヨゼフの家に戻っていた。村長の家にも招待を受けたが、ヨゼフの傷の治療を理由に断っていた。だが傷は適合者であるヨゼフの回復能力により自力で歩けるぐらいには回復している。それに最初にあった時以来治療などされていない。この様子を見るに村長との話がめんどくさくなったのだろう。


「えらい変わり身だったじゃないか。一瞬誰かわからなかったぞ」


 村につくとジンは今までのぶっきらぼうな話し方から、村長ら年配の者には礼節をわきまえた話し方をするようになり、女性に対してはにこやかな笑顔を振りまいていた。

 ヨゼフとの初対面の時とはえらい違いだ。それにカーズは一言も喋っていないように見えた。それならばジンは神秘的な雰囲気を持った吟遊詩人に見えるだろうし大きな混乱にはならないだろう。


「長い旅をしていると自然と身に付くものさ。それにしてもずいぶん住民達に慕われているのだな。まるで英雄の帰還のようだったぞ。」


「それはおまえが来たからだろう。吟遊詩人が来ることなんてめったにある事じゃないし。それに凄かったのは俺の親父さ。みんなは親父の幻影を俺に重ねているだけだよ」


「そんなに謙遜することはない。レッドリンクス三匹相手に生き残ったのは十分に称賛されるべきことだ。ましてや一匹は鬣付だったらしいじゃないか。俺はお前の父上の事を知らんが、それでもお前は守り人たるに相応しい人物と思うぞ。」


 そうまっすぐに見据え称えられ、ヨゼフはなんだかむずかゆい気持ちになった。羊守の職についてから村や羊たちを守る事ようになってから感謝されはすれど、褒められるということに慣れていなかった。


「うっせえ。チビに褒められても嬉しかねえわ」


 反論してくるかと思ったが、こちらが照れ隠しでそういったのが分かっているようでジンはなにも言い返してこなかった。見た目は年下に見えるのに、全て見透かされているような感じがして面白くない。そう思いながらもなぜか安心できる気がしていた。

 日が落ち、辺りに暗闇が広がっても宴はむしろ盛り上がりを見せていた。序盤こそ、厳かな雰囲気から始まったものの、羊を一匹絞め、この地の香草を使ったスープや酒が振る舞われ酔いが進むにつれ陽気な笑い声が広がりどんちゃん騒ぎとなるのに時間はかからなかった。

 その中心にはジンが演奏をしながらジョセフの武勇伝を曲に乗せて語っていた。ジョセフの戦闘の様子など一瞬とて見ていないのにも関わらず、まるで見てきかたの様に奏でる物語はスリルにあふれ人々を魅了していた。まぁ全く内容は違っているのだが。

 レッドリンクス30体を撃退するとかどこの軍隊だそれは。どうやらジンは吟遊詩人として演奏や歌の能力だけでなく創作の才まで持っているらしい。なかば呆れながらもジョセフはその喧騒を心から楽しんでいた。



 宴から1週間後、ヨゼフはポーラを引き連れジンと共にダラスの中心部へとたどり着いていた。ジンは数日の間広場や酒場で演奏を行い、路銭を稼いでいたが、ヨゼフの体の傷が癒え領主に報告にダラスに向かうということで一緒についてきたのだった。


「ナビ村の英雄の護衛があれば心強い。それに道案内も欲しかったしな」


 との事である。ヨゼフとしてもカーズの引く馬車に乗せて貰えれば仕留めたレッドウルフを運ぶことも容易であったので渡りに船の話だった。ダラスの入り口となる城門は鉄壁と言える強固な石壁で囲まれていた。正門を潜ると、中には多くの人であふれかえっていた。

 家屋は石造の二階か三階建てとなっており、一本の大きな道沿いには多くの露店が開かれている。その道の先には遠目から見ても他の建物とは大きさ、造形の異なる城がある。

 それこそがダラス領主バゼル・ツペシュ様の居城バレル城だ。何度もダラスの街には来たことがあるがやはり人の多さとバレル城の存在感に圧倒される。一呼吸を置き連れにジンに問いかける。


「さて、俺は仕留めたレッドについて報告に行くとするよ。ジンはこの後どうするんだ?」


「まずは領主様へ挨拶をして、捧演の準備をお願いする必要があるな」


 捧演は詩人たちにとって最も重要な儀式と言われている。特別な場所で演奏をささげることでそれは神獣へと届き、その演奏の褒賞として彼らは神獣の加護を受けているのだという。

 また外界を自由に行き来できる彼らは唯一の交易の手段でもある。その為、詩人はどの国においても最上級の客人として扱われている。現に今も門にて吟遊詩人として名乗ったジンには領主からの使者を門の入り口で待っている所だった。

 その間に役人がジンの持つ積荷と武器の調査を行っていた。積荷の多くは香辛料や薬草などでありジンは身に着けた短剣以外にこれといった武器は持っていなかったので検査に時間はかかりそうになかった。


「それじゃ、ここでお別れだな。短い間だったが楽しかったぜ」


 そういって手を差し出すヨゼフ。だがその手が握られることはなかった。ジンは不思議そうな顔をしたままヨゼフを見つめていた。


「何を言っている。獣魔の報告なら領主殿に直接言った方が覚えもいいだろう。城まで一緒に来い。それともこの辺の守護者は恩人をほっぽりなげるような不義理者なのか?」


「はっ?いやいや、俺みたいな一般人が謁見なんてできるかよ」


 動揺しながら必死に拒否するが、全く聞く耳持ってない。そうだった。こいつ基本的に人の話聞かない奴だった。こうしてやってきた使者と共に城へと向かうことになったヨゼフは思いをその城に今も住む古い友を思い出す。


「……もう二度と行く事はないと思っていたのにな」


 誰にも気づかれないような小声でヨゼフがひっそりと呟いた言葉は風に運ばれ、かき消されたように思えた。


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