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ジンの吟遊旅行記   作者: くーじゃん
第四章 龍姫と黒騎士
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5 はぐれ者達


「それじゃ改めて自己紹介と行こうか。


 俺はターヘル。この迅雷のレール・アローが俺の武器だ。


 あの時は悪かったな。あんたの相棒を狙って。


 償いと言っては何だが困ったことがあったら何でも言ってくれ。ここにいるほかの野郎共よりは役に立つとは思うからよ」


 ジン達は場所を移し今後の計画について話し合う事になった。当初はアイシャも参加する予定であったが表情がすぐれず一旦侍女に連れられ自らの部屋に戻った。自らの国の運命を決定づける対面であったのだから仕方あるまい。


 そしてアイシャの去ったその部屋で最初に自らの名を名乗ったのは弓兵だった。この国でよく見かける褐色の肌ではあったがその髪は金色であった。


「あぁ、外れてくれて助かったよ。カーズは俺にとって大事な相棒なんでね。まぁ馬のくせに口うるさい所が厄介だけども。


 俺はジン。短い間の付き合いにいなるとは思うがよろしく頼む」


 そう言いながら握手を交わす。それからジンはずっと気になっていたことを聞いてみた。


「一つ教えてくれないか?


 秘密なら教えてくれなくてもいいんだがあのバカでかい蠍を倒した時に使った光の目つぶしは一体どうやった?迅雷のレール・アローにあんな効果はなかったと思うんだが」


 その技名を適合者が詠唱することでいくつもの攻撃パターンを発動するレベル3の結晶機とは違いレベル2の結晶機が持つ能力は一つだけであるはずだった。


 それ故にレベル2の結晶機では威力は落ちるが無詠唱での発動も可能ではあるのだが、あの時タへ―ルは通常の迅雷のレール・アローにはない攻撃をして見せた。


「あぁ、あれな。


 簡単な話さ。こいつを銀矢の代わりに使っただけさ」


 そういながらタへ―ルはその背に背負った矢筒から乾燥した細い木棒を取り出す。その矢には鏃もなく武器として使えるとは思えない


「こいつはザカールで取れるジスファという木を乾燥させて作る。燃えやすいから薪として使われることも多いんだがこいつを迅雷のレール・アローから射ると異様に反応してあの時みたいな光を放つ。


 目くらましには最適なんだが、光が強すぎて自分も目がやられちまうから使うときは目を閉じないといけないのが難点だな」


「よくそんな使い方思いついたな。こんな使い方をする奴は初めて見た」


 ジンは手渡された木棒を見つめながら感心したようにつぶやく。


「身近に非常識な奴らがいるんでね。


 いろんな戦い方を模索した結果生まれたって訳だ」


「全く小賢しい野郎だ。


 男なら真っ向勝負するだけだろ?」


「あん?」


 タへ―ルの不機嫌な声を無視してジンの下へと続いて進み出たのは黒い肌の大男だった。


「俺の名はカウィー。


 この貫杭手甲パイルバンカーが俺の得物だ」


 そう言いながら大男は拳に嵌めた手甲を見せる。ただし今あるのは左手だけで右手はギブスで固定されていた。


「右手はあの蠍とやりあった時にやっちまってな。カディアルさんの見立てによりゃ一週間も安静にしてりゃ治るってさ。


 まぁよろしく頼むわ」


 人懐っこい笑顔を見せながら無事な左手を差し出す。小柄なジンからすると二メートル近い体格のカウィーは見上げるようでまるで子供と大人が並んでいるようにしか見えない


「お手柔らかに頼むよ」


 引きつった笑顔を見せながらジンもまたその手を握る。


「カウィー、お前はただでさえ威圧感あるんだからもう少しちっちゃくなれよ。吟遊詩人殿が怯えているじゃないか」


「何を言ってやがる。デカいのに越したことはないぞ。俺達みたいなやくざ者にとってはな。


 それよりお前みたいな細い奴に守られる方が心配ってもんだ」


「ほう、なら今ここでどちらが頼りないか決着つけるか? 」


「望むところだ。かかってこいよ」


 呆然とするジンを横目に取っ組み合いを始める。が、その二人のやり取りは今まで喋る事のなかったヘサームの一言によって遮られる。


「いい加減にしろ。俺達にじゃれあいをしている余裕なんてない。


 さっさと作戦内容を確認するぞ」


 その感情のない声に二人は取っ組み合ったまま動きを止めそして盛大にため息を吐く。


「これだからクソ真面目君は嫌だねぇ。


 これから一緒に事を為そうって相手に少しは親睦を深めようとは思わんのかね」


「俺もこいつに同意するのは嫌だが少しは愛想ってもんを覚えろよ。第一ジンに一番危害を与えていたのはお前じゃないか」


「俺が守るのはアイシャ様ただ一人だ。その結果以外に何が必要だ? 」


 結局止めに入ったはずのヘサームまで加わり二人だけであった取っ組み合いは三人での言い争いに発展する。


「あいつらはホント仲間なのか? 仲がいいのか悪いのか。というか指揮官は誰なんだ?」


 ぎゃあぎゃあと賑やかに言いあう様はまるでまとまりがなく国のトップを守る人材には見えない。ジンはその疑問を横に立つカディアルに尋ねる。


「彼らはあれがいつもの光景なのですよ。


 元ははぐれ者だった三人です。それぞれに癖のある厄介者でしたからね。ですがアイシャ様と幼い頃から共に過ごしてきた信頼のおける三人です。


 実力もこの国の中でも屈指の腕前ですし誰が上という事はありませんよ」


 そしてカディアルは簡単にではあるが三人の経歴を話し始める。カウィーはザカールの大商人の次男であったが父に反発し出奔し兵となり、タへ―ルは貴族の三男坊であったがその髪の色から家族から敬遠された事。


「特にヘサームはその肌が示す通り外の世界からの血が流れており盲目であったため孤児院においてもひどい扱いを受けていました。その彼を救い出したのがアイシャ様だったのです」


 そう話すカディアルは当時の事を思い出したかのようでその顔に影を落とす。


「アイシャ様が三人に声をかけたのは適合者だとわかっていたからではありません。ただ彼らが謂れのない差別をされていたから。


 アイシャ様は聡明な方ですのでその結果自分の立場が悪くなることはわかっていらしたと思います。ですがそれでもあの方は手を伸ばさずにはいられなかったのでしょう。


 その結果彼らがこの国そのものを守る最後の三人となるのですからわからないものです」


 そう微笑みながら三人を見つめる表情は穏やかになっていた。


「カディアルさんはアイシャ様を含めた四人をずっと見守って来られたのですね」


 それならばあれだけ癖のある三人がカディアルに対しては敬意を払う三人の態度も頷ける。


「ええ、私にとっては皆可愛い子供たち同然ですよ。あの子達を守るためのならば私はなんだって出来るでしょう。それが国そのものであったとしても」


 そう語る瞳には揺るぎない覚悟が感じられた。その姿はかつて見た男の姿に重なりジンはとっさに話題を変える。


「しかしあんな悪ガキ三人が国の最後の守り手とは。物語を奏でる吟遊詩人としてはもうちょっと英雄らしくあってほしいものですが」


「三人とも実戦になれば今のようなことにはなりませんよ。それは彼らの戦いを間近で見ていたジン殿もご存知かと思いますが」


 その言葉にジンは渓谷での戦いを思い出す。恐ろしい巨大な獣魔を前に一歩も引かず戦い抜いた彼らは確かに英雄と言えた。


「そうかもしれません」


 ジンがカディアルと共に話をしていた間に三人の議論も終わったようで結局二対一で押し切られた形となったヘサームがジンの方へ無愛想な表情をしながらやって来た。


「ヘサームだ。よろしく頼む」

 

 必要最低限の事しか言うつもりのないヘサームにやれやれこれは物語にするには大規模な脚色が必要だなと思いながらもジンは手を差し出す。


「ああ、俺はジン。ただの吟遊詩人だ。よろしくな」


 そうして黒騎士と吟遊詩人はしっかりと両の拳を握り合うのだった。



******************************


「俺は絶対にやらないぞ!!!


 なにが悲しくて女の格好なんかしなくちゃいけないんだ!! 」


 地下の一室でジンの必死の抗議の声が響き渡った。事の顛末はアイシャが部屋へと戻りこれからの作戦が話し合われる中で起こった。


「それじゃ作戦内容はこうだ。


 まずジンがメロッサ郊外の最適な地点へと侵入し獣魔を呼び王宮内の防衛部隊を壁からおびき出す。


 その隙に俺達は抜け道を使って王宮へと侵入。そこで王宮内にいる仲間と合流して3手に分かれる。マシードを襲撃するのはヘサーム、カウィー。


 壁の防衛に向かうのは俺とそれに内部にいる仲間達。そしてサヘルとカディアルさんには俺達を王宮までの抜け道を送った後アイシャ様とを護衛しながら近くの部屋で待機してもらう」


 ターヘルが地図を広げながらそれぞれの場所を示し、詳しい内容を説明するがそれを制止してジンが尋ねる。


「ちょっとまて。姫様も潜入するのか?


 危険だし正直足手まといにしかならないと思うが?」


「危険は承知の上です。ですが作戦決行時王家の抜け道を使って警備を突破するためにはどうしても私の眼が必要となるのです」


 その抜け道は正統な後継者である赤い瞳を持つ者のみにその道を示すと言われており、そこを通ったことがあるのは先王が一度だけその道を使った時に共に居たカディアルだけであった。


 それ故に戦闘能力を持たないアイシャも共に王宮へと潜入する必要があった。


「危険と言っても抜け道から先にはいきませんし、サヘルとカディアルもいます。カディアルは適合者ではありませんがこの三人の師ですから腕は確かなんですよ。それにサヘルもレベル1の適合者で崑術では並ぶ者がいないと言われるほどです」


「師と言っても皆にすぐに抜かれてしまいましたけどね。ですがこの有象無象の者達に引けはとることはないかと」


 その言葉にカディアルは謙遜するがジンも恐らくかなりの達人であろうと思っていたので驚きはない。それほどまでにカディアルの立ち姿は隙が無かったから。


そしてずっとアイシャの横に控えていた侍女サヘルは筋肉質な胸を張る。戦力的には確かに他のメンバーに劣るがアイシャの身の周りの世話をすることは他の男達では出来るはずもなかったのである意味では最も必要な人物だった


「……わかりました。


 ですがこの作戦には民が犠牲になる事はお分かりですよね?


 それは承知なされるのですか?」


 ジンのその言葉にアイシャは息を飲む。


「貴様、姫様がどれだけの覚悟をもって決断なされたと思っている!!」


 あまりにも遠慮のないジンの言葉にサヘルは怒りを露わにするがそれはアイシャの手によって制された。


「その覚悟は出来ています。


 ですがこのままただ見ているわけには参りません。


 これ以上ハーキムの圧政を見過ごすことは出来ないのです」


 アイシャの揺るぎのない言葉にジンはそれ以上の確認をすることはなかった。


 その後細やかな作戦の打ち合わせをし、カウィーの怪我が癒えるのに一週間かかる事を加味し作戦決行は2週間後となった。そしてその間に下調べとしてジンも王都の近くまで潜入することになったのだかいかんせんジンの白い肌はこの国では目立ちすぎる。


 だれもがうんうんと唸りながら妙案を考えているとアイシャから一つの案が提案された。だがそれはジンにとっては悪魔のささやきにしか聞こえないものだったのだが。


「なら女性の格好をすればいいんじゃないかしら。背も私とほとんど変わらないしこの服ならほとんどの肌を隠せるし」


 おお、それはいい。という称賛の声が上がる一方で少し遅れた形でさきほどのジンの抗議の声が上がったのである。


「そこまで嫌がらなくたっていいだろう。


 たかが女の格好をするぐらいで」


 予想外なほどの拒絶を見せたジンにターヘルが宥めようとするがそれは完全に逆効果となってしまう。


「そりゃ俺が女みたいだってことか?


 喧嘩売るっていうなら買うぞ、おr」


 恐ろしい剣幕でまくしたてるジンの啖呵は隣にいた巨大な馬に椅子を蹴り飛ばされて遮られる。


「なにしやがる!!」


「バカが、落ち着け。完全に引かれているだろうが。


 すまない、こいつは女扱いされると頭に血が上るんだ。


 それで他に手はないのか?」


「は、はい。実際問題としてこの方法しか王宮に近づく方法はないかと思います…」


 そう冷静に話す青鹿毛の黒馬に対して未だに免疫がないアイシャは戸惑いながらも話し続ける。カーズは王都潜入の作戦会議をするにあたりジンから参加を要請されたためここにいた。


 ジンはいつもカーズのことを駄馬といつも罵っているものの、重要な決定をする際にはカーズに必ず相談していた。そしてこの場にはカーズもいた方がいいと判断したのである。


 それはジンが思っていたのとは真逆の方向で効果を得てしまうわけだが。


「なら仕方ないだろう。どうせ誰とも話はしないんだ。顔も隠れる事だしお前の事なんて気にもしないさ。


 その方向で準備を進めてくれ」


「な、お前何勝手に決めてやが」


 カーズに対して反論しようとするジンだったが目の前にいる女性の表情を見て固まってしまう。その赤い光を灯した瞳には薄っすらと涙を浮かべていた。


「そうですか……


 ですがこれ以上あなたに負担をおかけするわけに参りません。


 地図上で最も妥当と言える場所を探すしかないでしょう」


 ジンは民の事を想い悲しそうな表情を浮かべるアイシャを前にすると恐ろしく自分が悪者になった気分に襲われる。周りの奴らは親の仇を見るような目で見ているし…おいカーズお前は味方だろうがなんでそっち側につく。せめてお前だけは味方しろよ。


 え、無理? 諦めろ? そう無言で言われた気がしてジンはうなだれる。


「……わかりました。


 その服を着ればいいんでしょう」


 その言葉にアイシャの表情はぱっと明るくなりジンの手を両手で包む。


「本当ですか!! それなら善は急げです!


 あなたにあった服があればいいのだけど。さぁこちらへ」


 先ほどの憂いを帯びた表情はなんだったのか。そのままジンの手をとり勢いよく部屋へと向かっていくアイシャにジンは不意打ちを食らったかのように拉致されていった。


「姫様はなかなかな食わせ者だな。


 ありゃジンじゃ対処できんわ」


 ようやく事態に気付いたのか未練たらしく抵抗を続けるジンの嘆き声が虚しく響くがその全てはアイシャによって完全論破され奥の部屋へと連行されていく。その姿を楽しそうに笑いながらカーズは見送った。


「全くな。俺たち全員姫様には太刀打ちできん。


 未だにあれが計算なのか天然なのかわからん」


 カーズに同意するようにカウィーがその横に立ち頷く。


「……ああなったら帰ってくるのは当分先だ。俺は部屋に帰って眠っておく」


 ヘサームの言葉に同意するように他の男達も自分の部屋へと帰っていった。そしてカディアルとカーズだけを残し静かになった部屋でカーズは呟く。


「…血は争えないか」


 その声はあまりに小さく隣にいたカディアルにすら気付かれることはなかった。そしてカーズもまた先ほどまでいた自らの寝床に向かうのだった。



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