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ジンの吟遊旅行記   作者: くーじゃん
第四章 龍姫と黒騎士
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3 決死の戦い



 渓谷での戦いは結末へと向かっていた。


 全ての武器を失った黄金蠍タハブ・スコルピオは、ようやく回復してきた六つの目で辺りを見渡し、自らの脅威となり得る人間たちをゆっくりと確認する。

 先ほどの攻撃の後でジンを守るように集まった三人を一人一人確かめ終わると一瞬動きを止め、そして自らの両腕を切り離した。


「なっ!!」


 一同が唖然と見つめる中、更に信じられない事が起きた。切り離された両手から一瞬で新しい両腕が生えてきたのだ。


 流石に先ほどまでの両腕よりも一回り小さいようだが、それでも十分に戦闘は出来る。それに対して三人の戦闘能力は大幅に落ちていた。


 拳士の右腕は先ほどの打ち合いで使い物にならず、弓兵ももはや銀矢は残り一本となっている。そして未だ燃え続ける大剣を持つ剣士の顔色は優れない。

 それは彼の持つ結晶機、炎刃大剣ヒート・ソードの特質によるものだった。他の二人が持つ結晶機とは違いこの熱を放つ剣は常時所有者の魔力を奪い続けていた。


「全く嫌になるね。せっかく苦労して武器を奪ったと思ったのに」


「文句言っても仕方ねぇだろ。それよりどうにかして奴を止めないとどうしようもないぞ」


「そうだな。次の一撃で全てを決めるぞ」


 そうヘサームは後ろで愚痴る二人に告げ剣を構える。そして二人もまた覚悟を固めたかのように武器を構えた。


 緊迫した空気が張り詰める中先に仕掛けたのは黄金蠍タハブ・スコルピオ。その動きは単純明快であった。両手の鋏を振り上げ交差させ鉄壁の分厚い楯としたまま全力を持って突撃してきたのだ。


 装甲を破られるならば更に厚くしてしまえばいい。そして突撃の勢いさえ失わなければどこにあたっても目の前の小さな敵を倒す事は容易い。そう黄金蠍タハブ・スコルピオは考えていたはずだった。


「あんた、少しの間目を閉じていた方がいいぜ」


 迫りくる黄金蠍タハブ・スコルピオを前にターヘルがそうジンへと話しかける。それは危機が目前に迫る現状では場違いと思えるアドバイスでジンは困惑しながら聞き返す。


「はぁ!? この状況で何言って」


 だがジンの言葉が彼に届くことはなく、三人は黄金蠍タハブ・スコルピオへと真っすぐに走り出していた。


 その先頭を走るのは拳士カウィー。そして黄金蠍タハブ・スコルピオが自らの攻撃範囲に入る前にその左拳を振り上げる。


「頼んだぞお前ら!!貫杭手甲パイルバンカー!!!」


 そしてその拳はそのまま地面へと突き刺された。同時に結晶機の共鳴音が鳴り響き地面はその場で崩れ落ちる。

 これほどまでの地面の崩壊はカウィーの結晶機の威力もさることながらこの渓谷独特の脆く崩れやすい岩石によるものであった。水分のほとんどない地では一つの割れ目からひび割れが一瞬で辺りに広がり大崩落を起こすようだった。


 先程ジンの逃げ道を塞いだあの土砂崩れもこうして拳士によって引き起こされたのだろう。狭い峡谷では左右に避ける場所もなくその崩落を躱すことは出来ない。つまりこの場所は天然の罠場と言える場所だったのだ。


 突然足場となる地面が崩れ落ちた黄金蠍タハブ・スコルピオは突撃の勢いを失うもののすぐに体勢を整えるが自らの目の前へと跳び上がる影に対しての反応が一瞬遅れる。


 それは迅雷のレール・アローを持った弓兵ターヘルの姿。ターヘルはカウィーが拳を地面に突き刺す黄金蠍タハブ・スコルピオへと全力で跳躍していた。だが結晶機にセットされていたのは銀色の弓矢ではなく木で作られたただの木棒だった。


 空を舞うその弓兵はあろうことか弓を構えたまま目をつぶっていた。その手から無詠唱で放たれた木棒は結晶機へと吸い込まれ同時にまばゆいばかりの光が放たれる。


「うわ!!」


 その光をもろに見てしまった影響でジンの視界は真っ白になり何も見えなくなる。

 

 しばらくしてやっと視力が戻って来た時ジンが見た光景は頭を縦に真っ二つに焼き切られた黄金蠍タハブ・スコルピオとその横に立つ黒い鎧を身に纏う騎士ヘサームの姿だった。


 拳士と弓兵の攻撃はいずれもただの目隠し。全てはあの黒ずくめの黒騎士の一撃の為だった。そういえば最初にジンを抑えた時も奴は視界がない中で正確の場所を把握していた。


 だからといってまばゆい光と砂煙で前はほとんど見えず、足場も崩壊する中で黄金蠍タハブ・スコルピオの懐に入れるか? 拳士と弓兵にしたってそうだ。一歩間違えば一瞬で自らの命を失う行動を平気でやってのけてみせた。


 それは恐ろしいまでの覚悟と互いに対する絶大な信頼がなせる技であったのだろう。その妙技の前にジンは未だ砂煙の残る黄金蠍タハブ・スコルピオの亡骸じっとを見つめ続けていた。


 そして静寂が場を支配する中で動く気配が三つ。その全ての視線はジンへと向けられる。獣魔を呼ぶ笛のもう一つの難点。

 それは獣魔を倒すほどの相手であった場合逃げることは出来ないという事。そのような事態が起きることなど聞いた事はなかったがそれでも現実にこの目の前の三人はその困難をやってのけたのだった。


「……で? ジンどうする?


 準備は出来ているが」


「だ、誰だ!?」


 予期せぬ第三者の声に三人の戦士はすぐさま臨戦態勢へと入る。だが声の主が誰か分からず辺りを見渡す三人だったがそれらしき人影は見当たらない。


「いや、ここはこいつらに従おう。


 どうやらただの乱暴者って訳ではなさそうだ」


「そうか。


 なら好きにしろ」


 青鹿毛の黒馬の首下を撫でながら吟遊詩人はその声の主と会話を続ける。それはつまりその声の主が吟遊詩人の横に立つ黒馬である事を示していた。


「しかしあんたらいったい何者だ?


 結晶機を持ち獣魔と互角に戦う野盗がいるとは思いたくないんだが」


 笑いながらそう言う吟遊詩人にヘサームはその言葉をそっくりそのまま返してやりたがった。

 喋る馬と共に一人で旅をするお前は一体何者だと。それでも寸での所で言葉を飲み込み代わりに自らが言うべき事を伝えた。


「それは俺達が言える事ではない。


 共に来て貰う。俺達のアジトへ」


 その言葉にジンは両手を広げながら仕方ないとでも言う様に頷くのだった。


 その後ジンは三人の男達と『偉大なる砂漠サハーラ・アクバル』を越えごつごつした岩肌が目立つ場所へとたどり着く。


 岩壁には至る所に洞穴がありそのうちの一つを進むと人工的に作られた扉にたどり着きその前には白髪の男性が待ち構えていた。執事服を見事に着こなすその姿は一分の隙もなく歴戦の戦士のような貫禄すらあった。


「皆さま無事の帰還心から安堵しております」


「カディアルさん、すいません遅くなりました」


 ヘサームを筆頭に全員がその男性に対して深い礼をする。それに軽く会釈した後ジンに対して自らの名を名乗る。


「貴方様が吟遊詩人様ですね。私はカディアルと申します。


 こちらに我らの主がお待ちです。どうぞこちらへ」


 一行はカディアルの案内の下洞穴の地下へ深くに進んでいきやがて少し広い場所へとたどり着く。


「此処で少し待って貰う。


 それとその前に」


 そう言いながらヘサームは再びジンの両手を縛る。今までは砂漠の難所を越える為に縄を縛られることはなかったのだが再び両手を縛る縄の感覚にジンは抗議する。


「おいおいここまで一緒に旅してきた仲だろうが。いい加減信用してくれてもいいだろう」


「申し訳ありません。ですがこれから会うお方には万が一のこともあってはいけないのです。もしあなたが何かする気配を見せたらその時は我らが即座に対応することは念頭に置いて頂きたい」


 そう答えたのは後ろに控えていたターヘルだった。ジンの両手を縛る剣士の反応は出会った時と同じく表情に変化はない。

 だが兜をとったその肌はこの土地で出会った人間とはかなり異なっていた。それは銀狼の国であった人々に近い雪のような白い肌。そしてその眼はもやがかかったかのように曇っていてジンの両手を縛る手元から少し離れた所を見つめ動かなかった。


「もしかして目が見えないのか?」


 ジンは驚きを隠さずにそう尋ねた。その不躾な質問に対してさして動じるでもなくヘサームは答える。


「全く見えないわけではない。それでも見えるのはぼやけた景色だけだ。


 だからといってお前の動きを捉えられないわけではない」


 そう言いながら縄を縛り終えると自らも他の二人同様にジンの後ろに立つ。それならばこの男はずっと半ば目からの情報なしで戦ってきたのか。しかしそれならば奴が視界の悪い中でも正確に動けた理由がわかる。


 奴にとってはその全てがあやふやな世界こそが日常であったのだから。


「全くとんでもない国に来ちまったもんだ」


 ジンは半分呆れた様に低い天井を見上げため息をつくのだった。


ジェットストリームアタッ…うわなにするやめr


…返事がないただの屍の用だ

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