12 弟達との別れ
リコはフェンリスの下を離れ、ただひたすらにデレクの村へ向かっていた。まだ少し雪の残るその道は焦る気持ちを余計にせかす。
早く、もっと早く
森を駆けわかりる姿は、人では考えられない速さであったが、当然の事ながら人で無い獣には敵わない。
リコの横に二匹の獣が追い付くのはそう長い時間ではなかった。リコが弟たちと呼んだグレーウルフ、フレキとゲリは走りながらグルㇽという唸り声でリコに呼びかけリコは二匹を交互に見やる。
「乗せてくれるの?
でもあんた達にまで迷惑はかけられな……」
その言葉を遮るようにフレキがリコを咥え、ゲリの背に放り投げる。それと同時に二匹はその速度を上げた。言葉は通じない、それでも大切な姉の為に。
「ありがとう……」
リコはゲリの背に顔を埋めそうつぶやいた。
村が見下ろせる村まで着くと村の惨状は一目瞭然であった。至る所で煙があがり、人々の悲鳴が聞こえる。そうか、これがフェンリスが言っていた人の怖さか。
ただ壊す。生きる為でない。ただその快楽の為だけに。
「此処までで十分だ。
これからは人の領分だ。
お前たちは来てはいけない。
母さんを頼んだよ」
二匹の首を引き寄せリコは弟たちに別れを告げる。二匹もまたクゥ~ンと悲しげな声を出しながらリコの顔を舐めた。その別れを惜しむように。
「そんな情けない声を出すんじゃないよ。
あんた達がこれからはこの森のヌシとなるんだから。
それじゃあね。バイバイ」
そしてリコは丘を駆けおりる。自分にとってのもう一つの家族を救うために。
村の建物の上を影が音もなく飛び駆っていく。警戒していた手下達も、まさか建物の上を人が飛んでいくなどと想定もしていなかった。
そしてリコは遂にデレクの姿を見つけ出した。だがその姿はボロボロで、今まさに刃がその身に降りかかろうとしていた。
「間に合え!」
ほとんど無心で放ったそのナイフは見事目標へと突き刺さる。そしてその先にいたのはずっと思い描いていた大切な人の姿だった。
「待たせたな!デレク!来てやったぞ」
あぁそうだ。なんて顔をしているんだ。もうすぐにでも泣きそうな顔しやがって。だが私はこの情けない顔を見る為に来た。弱くて、バカで、優しくて、そして誰よりも強い心を持つこいつに会うために。
「ほう、こいつは思っていた以上だな」
だが二人の再会は野太い声に遮られる。その声はリコに本能的に臨戦態勢を取らせるには十分な威圧感を持っていた。
「なんだ、お前は。
私はそこのデレクと話があるんだ。
どけ」
「そう連れないこと言うなよ。
未来の旦那様によ」
「はぁ?なにいってんだこいつ?頭おかしいんじゃね?」
その見知らぬ巨漢を指さしながらリコは思いっきり顔をしかめる。が
「リコ、前向け、前!」
デレクの必死の呼びかけに振り返ると黒い塊が目の前に迫っていた。
「うわ!!」
リコは体を反って、顔ほどの大きさの石をよけた。だがその先には
「よお」
人の身長と変わらないほどの大槌を構えた男の姿があった。そのまま振り落とされた一撃は容易に地面をえぐりとる。だがリコはそのまま後ろに体重移動させ、バク転の要領でよけながら距離をとりそのままデレクの側にまで距離をとった。
「なんだアイツ、強いぞ?人間か?」
「そうだ、あいつが奴らの長らしい。
この数の人間を率いて祠から離れるなんて普通じゃ考えられない」
「そうか。
じゃああいつをやれば事は収まるってわけだな?」
そういうとデレクを庇うように構えながら倒れていた男の頭からナイフを引き抜く。
「話は済んだか?
まぁ最後の別れを待てないぐらい小さな男じゃないさ。
だがすべてが終わればそいつは殺すけどな。無能を生かす理由はねぇよ」
「やってみろ。
やれるもんならな」
そう言い終わると同時にリコは一直線にゴートンへとナイフを構え飛びかかるのだった。




