11 空虚な葬儀
10、11話は一話でまとめていましたが、場面が変わるので二つに分ける事にしました。
ですので11話は短くなってしまいましたがご了承ください。
防衛隊の姿に警戒しながら、羊守の仲間に連絡をつけられたのは翌日になってからだった。
「お前の葬儀は明日に決まったよ。どうだい自分はまだ生きているのに葬儀が行われる気分は?」
そう笑いかけてくる仲間たちに悪態をつきながら、明日の襲撃について作戦を練る。アルク達は手際の良いことにすでにヨゼフの葬儀の準備を終えていた。
どうやら死体が出なかったのいいことに死亡扱いとしたらしい。襲撃は遺体の無い棺桶が墓地へと埋葬されるその瞬間と決まった。葬儀の際ならばアルク達は武器を持てない。そして野外に出て最も無防備になる瞬間、その時を狙ってアルクを殺す。
考えてみるとまるで暗殺者だな。こそこそ隠れて相手の死角から狙う。しかも2回続けて失敗している。一度目は鬣付、二度目はアルク、三度目は外さない。
そう覚悟を決めると運命の日に向けてけして快適とは言えぬ寝床へと向かう。中々寝付けなかったのは、なにかヨゼフ自身釈然としない部分があったからなのだが、結局その正体はわからぬまま深い眠りについていった。
翌日、ヨゼフの葬儀は予定通り行われた。仲間たちには怪しまれないよう式には参加してもらっている。それ故に実行するのはヨゼフ一人、墓地近くの建物の屋上で狙撃のタイミングを計る為、その様子をずっと見つめていた。
その顔触れは皆ヨゼフのよく知った人達であふれていた。ナビ村の村人たちやダラスで共に学んできた学友たち。皆一様に涙を流し、俺の死を悲しんでいる。
彼らを騙すことに対して申し訳なく思う。それでもこの事だけはやり遂げなくてはならない。例え、この目の前の光景が現実のものとなったとしても。
その後ろに続くのは防衛隊のメンバーたち。その顔からは緊張が見て取れる。当然だろう。彼らは俺が死んだのか確認していない。いつ襲撃があるか内心は不安でたまらないのだろう。その中で唯一表情を変えない男はただ一人。その顔を見ると手に力が入ってしまうが、それをなんとか抑え込む。
葬儀は終盤に差し掛かり、バゼル様が先導する空の棺が地面に掘られた穴へと運ばれていく。完全に地面へと埋められた無人の墓の前でバゼル様が最期の別れを告げる。
「この様な形でお別れを言わなければいけない事は、本当に残念でならない。
ヨゼフ君は正しく国の宝だった。強く、優しく、誰からも愛された。
未来ある君のような若者でなく老いゆく者達がその責任を果たすべきであったのに。
だがどれだけ嘆いても君は帰っては来ないのだろう。
ならばヨゼフよ。安らかに眠ってくれ。
その眠りに幸あらんことを切に願う」
その言葉に堰を切ったかのように咽び声が響き渡る。ヨゼフもまた涙を堪えていた。バゼル様にこの様な仕打ちをしなければいけない自分の不甲斐なさに。
だがふとその光景に違和感を覚えた。いるはずの人がいないのだ。それはダラス領主バラスの後継者であるバゼル・ツペシュの一人娘リゼ・ツペシュである。出来ればこのような形で彼女を無用に悲しませたくない、そう思っていた。
彼女は病弱ではあるが芯は強い方だ。もし知り合いの葬儀があったのなら何が何でも参加される、そういう人なはず。その時ずっとヨゼフの頭の中に引っかかっていた言葉が浮かび上がる。
「もうこのような小さな塀の中で、獣魔や病魔におびえて暮らしていたくはない。
〝そしてその影はわが国の宝にすら近づいている。″
もう我らには時間がない。それでもなお断るというのならば…」
今まではアルクに対する怒りでその言葉がかき消されていた。しかしその考えが浮かんできた瞬間、ずっと持っていた疑問の最後のひとかけらがかみ合った。
なぜアルクが禁忌を犯すような危険をしたのか。アルクは嫌な奴だが慎重で大きなリスクを冒すような奴ではない。吟遊楽団を襲い、一人でも逃した際に伝令を飛ばされる事が想像できないような奴ではないのだ。それでもそれ程のリスクを背負ってなお禁忌を犯す理由、一度目は母君の時、そして二度目は…
ヨゼフは装備していた【迅雷の弓】を外し、空を見上げる。その空は雲一つない真っ青な晴天だった。
「すまん、父さん、母さん、みんな、敵は討てそうにない」
そうつぶやくと、静かに建物を降りて行った。




