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銀の瞳に映る夢  作者: 右槙ねじ
銀と、夢と、ひとかけらの願い事
6/35

5 夢と晩ご飯

 私が家にたどり着いた頃には、すっかり夕日が差し込んでいた。お土産として持たされた袋を机の上に置くと早々、ベッドの上へと体ごと倒れこんだ。


『ぐえ』


 「ばふっ」ではなく「ぐえ」と、ベッドは短い唸り声を上げた。何か柔らかい感触がそこにはあった。


 不審に思い、恐る恐る布団を剥がすと、金髪をツーサイドアップに結んだ小柄な少女が、脇腹を抑え苦悶の表情で悶絶していた。

 白いロング丈のワンピースに白無地のニットカーディガンを羽織っており、布団の白さと一体化しているようだった。


「……夢、ちゃん」


「んー! んー!?」


 なんで、部屋に勝手に入ってこれてるの? じゃなくて。


「だ、大丈夫……?」


「ん、んー……」


 何言ってるのかわからないんだけど。


 何も出来そうに無かったので、表情が元に戻るまで暫く待った。回復した夢ちゃんは起き上がると、正座を崩したような姿勢で布団をバンバン叩き始めた。


「ちょっと、夢死んじゃう所だったよ!」


「ご、ごめん。でもそもそも何で私の部屋にいるの? どうやって入ってきたの」


 その言葉を聞いた途端、布団を叩く手の動きが止まり、顔を傾げて見上げてきた。


「え? 白音さんから扉の認証キーを端末に入れてもらったけど、聞いてない系?」


「……ごめんそれ初耳なんだけど」


「マジか」


 夢ちゃんはそのままずるずると伸びるように布団に沈み込んでいった。

 そう、ママはこういう重要な事をいつもいつも言い忘れる。もっとも、昨日入学式の話をされて即日忘れてる誰かさんが言えた義理ではないのだけれど。


 私はベッドに腰掛けてから、そのまま仰向けに倒れこむ。左手に付けたブレスレット型の端末を操作し室内のシステムにアクセス。

 天井に、ベッドと同じくらいの縦横幅の透明な淡い緑のパネルが出現する。鍵の管理情報を確認すると、そこには確かに夢ちゃんの名前があった。


 他に記載されていたのは私とママとパパと、菜波先生の名前まで入ってた。知らない名前がふたつあったけど管理会社の人かな、多分。


「ホントに登録されてた」


「でしょでしょ」


 いつの間にか、潰れていた夢ちゃんも天井が見えるような姿勢になっていた。


「あ?」


「どうかしたの?」


「んー、なんでもない」


 夢ちゃんが何か気になってたみたいだけど、よくわからないし放置した。




 鍵の管理情報を閉じて出力をテレビに切り替える。丁度やっていた番組は海外のテレビドラマっぽいやつ。

 少しして、何のドラマか分かっちゃった。古い映画のリメイクドラマ。題材になっているのは<Mr.スターライト>のシリーズだ。


 実家に本やメディアが置いてあったから、ママと一緒によく見ていた。内容は、Mr.スターライトが巨悪に挑むアメコミタイプのお話。ただ、普通のアメコミとはちょっと違う。

 それは、登場する主人公、Mr.スターライトが実在しているという事。


 曰く、現代に蘇ったアメコミヒーロー。


 彼が実際に行った悪との戦いをモチーフにした、半分ノンフィクション。

 普通ではない超常的な力が宿っている、らしい。


 噂だけだと、10年程前に現れた世界の敵を倒したのも彼だなんて言われている。そんなこと学校の教科書には書いてなかったけど。


「Mr.スターライトか」


「夢ちゃんも知ってるんだ」


「逆に聞くけどあれ知らない人とかいるの? 見たことないよ?」


 確かに。それほどまでに昔からいて、世界的にも知られているスーパースター。その数々の偉業はこうやって映像になり語り継がれている。


 とは言っても映画は3DCGで再現してるだけだし、私達からしたら本物なんて見たこともないし、ホントにそんなすごい人いるの? って感じ。


「でもちょっと筋肉盛りすぎ。もっと細いっての」


「本物見たことあるの!?」


「あ、あー……うん、すごかったよ」


 前言撤回。いるらしい。


 そうこう話をしていると、ドラマの方は悪者っぽいのが出てきた所で終わっちゃった。次回予告によると来週基地に潜入するみたい。来週も絶対見よう。




 結構時間が経ってたのか、窓の外は日が沈み、近くのビルの明かりが見える。そろそろ晩ごはんかな。今日は私だけじゃなくて夢ちゃんもいるしどうしようかと思案しつつ、ひとまずは聞いてみる。


「夢ちゃん今日は何食べたいかな?」


「任せろ」


 なにを?

 そう言って夢ちゃんは起き上がると、台所へスタスタと歩いて行った。その意図が分からず後を追いかける。そこには冷蔵庫を漁り食材を取り出す姿が。

 なんだか買った覚えのない物がいっぱいあるんだけれど……。


 一頻り冷蔵庫から食材を取り出すと私の方へと向き直る。ていうか、その白いエプロンは何処から出てきたの。なんかフリルすごいし。


「本日のメニューは、クリームチーズのパスタでございます」


「ええと、夢ちゃんが、作るの?」


「任せろ」


 台所が地獄絵図と変わるイメージが脳裏を過る。ほんとに作れるの、大丈夫? 掃除するの私なんだよ?

 訝しんでいる私を見上げ、腰に手を当て軽く体を反らしたかと思うと、


「年季が違うってやつよ」


 とかなんとか言い出した。

 そんな小さな体で年季が違うなんて……と思ったが、すぐに考え直した。いくら見た目が小さくても、料理の経験は多いのかもしれない。


……かもしれない。けど怖いからちゃんと見てよう。私は頭の中で拳を握るポーズを思い浮かべた。


「後ろで見てていいかな。興味あるし」


「おー、じゃあ説明しながら作るね。紙皿と割り箸だけてきとーに袋空けといてね」




「じゃあいくよー。夢のお料理教室、はじまりはじまりー」




 なんだか軽快なテンションで始まりをつげ




「おわり」


「ちょっと夢ちゃん!?」


「じょーだんじょーだん、はいはいフライパンを炙るよー。ちなみに夢の料理コンセプトはできるだけ何もしないことだよ」


 コンロは備え付けの電熱器、所謂IHなんとか。そこの丸い目印の上にフライパンを置く。そもそもうちにフライパンとか無かったはずなんだけど。


「安物です。チューブのバターをひりだします。フライパンより油のほうが高かったです」


 私の考えを読んだかのような回答が返ってきた。


「フライパンのテンションが上がってきたら、チューブの生にんにくをびちゃあって感じで」


 びちゃあ。割り箸で綺麗に薄く伸ばしていく。


「てきとーに色味がつくまでにちゃにちゃしたら、ここで主役のベーコンだ」


 パックから取り出すと、一口大より少し大きめなそれを投下。


「うん、もうこれでよくね。ご飯で食べれるっしょ」


「ご飯ないよ?」


「許されざるよ……。じゃあ牛乳じょばあって入れます」


 じょばあ。入れた瞬間、軽く湯気が立ち上る。


「煮立ってきたら、外に出しておいた解凍済みブロッコリーをどごーんします」


 どごーん。軽く波紋を立てながら、緑は白に沈んでいく。


「ついでに缶のとうもろこしをどぼぼぼします」


 どぼぼぼ。しつこいコーンを箸で取り出していく。


「塩、てきとう。鶏ガラ、気分」


「てきとーに火が通ったら、早茹でパスタくんの真ん中を両手で握り、バキバキします。バサバサ入れます」


 バキバキ。バサバサ。麺が顔を出さないよう、軽く箸で沈めていく。


「麺の茹でが3分なので、2分くらいで火を緩めます。最後にチーズをばっさあしてちょい煮込む」


 ばっさあ。ぐつぐつことこと。


「へいおまち。紙皿に取り分けてー終わり」


 底が深めの紙皿へと、夢ちゃんは箸で麺を掴み移していく。どこから取り出したのかレンゲをさっと流しで濯ぎ、ソースとコーンを掬って上からかけていく。


「最後に粗挽き胡椒とパセリをパッパすると、それっぽい雰囲気がいいかんじになります」


 出来上がった料理の見た目は確かに美味しそう。でもなんて言うか、料理っていうか……材料をフライパンに次々入れていっただけにしか見えなかった。


「まあこんな感じだけど、どうかな」


「うん、よくわかんないけどすごい」


 よくわからない内に完成してたのがすごいと思った。


「あ、味見してないや」


「……」


 席へと皿を運び、私は、恐る恐るそれを口へと運び入れた。うわーうわー。


「すごい、ちゃんとした味してる」


「夢はもうちょっとしょっぱいのがいいかなー」


 昼夜連続でクリームパスタという所に、少し引っかかるものを感じてはいたが、どちらも美味しかったので不満はなく、お昼の事も関連付けて夢ちゃんに話すことが出来たし、どことなく満足していた。


 後片付けも比較的楽に、紙皿と箸を捨て、フライパンは軽くペーパーで拭いてからサッと洗うだけで済んじゃった。

 余った材料についても、牛乳は飲め、チーズとバターはパンに乗せろ、と言っていた。


 ただ、生にんにくはチューブ吸っとけっていうのは全く理解できなかった。


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