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DROP OUT  作者: カタコト
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平日の昼とリツイート

【お祈りメールをプリントアウトして裏に一万円と書いてみた。この大金を何に使おう】

 そうツイートしかけて、これでは流石にあからさまだと、打ち込んだ文字を一気に消した。お祈り千羽鶴だとか、お祈り白線流しとか、今まで散々書き連ねてきたけれど、そろそろ自虐ネタで生き延びるのは限界らしい。ここらで路線を変更しよう。

 浩太が画面上で指を持て余しながら胡坐を組み直すと、右足がテーブルにぶつかった。積んである映画関係の専門誌が、音を立てて崩れると、表紙でポーズを決めている長身の俳優が目に入った。そう、これからは、ちょっと意味深な雰囲気のある映画キャラ。海外映画はあまりにもミーハーな感じがぬぐえないから、昔っぽいレトロな作品をピックアップして、当たり障りのないような文言を考えるのが鉄板だ。間違っても、語るキャラになってはいけない。

【こちら、山村警察署。めっちゃ面白かった。樋口巡査、昇進おめでとう(笑)】

 結局、最近公開した映画のネタバレをKY風にツイートすると、誰かが突っ込みを入れてくれるのを待った。正人は今頃バイトのはずだから、ツイッターを見ているとしたら啓介だけだ。一人暮らしの五畳半では、仲間の反応だけが楽しみで、スクロールを止められない。

 投稿してから十分は確認をしないと決めて、立ち上がろうとした瞬間に、タイミング良く携帯が震えた。あわてて画面に表示されたメッセージを見ると、ホットペッパーのお得情報だと分かった。さわやかなお日和を背に浴びながら、赤字で示されたオトクの文字で、午後のひとときが過ぎていく。昔だったらこんな日は、校庭の真ん中で両手いっぱいに体を伸ばしていた。部活帰りで、ファミレスに向かって歩く道のりが、幸せとか充足感とか、今となっては欲しくてたまらないものを、当たり前のことのように体現していた。

 盛者必衰?

 諸行無常?

 輝いていたあの頃に戻れるのなら、何物も惜しみはしない。それがたとえプライドだとか仲間みたいな、傷つけちゃいけない類のものだとしても。

 浩太はのっそりと床に横たわると、世の中にせしまなく流れる時間の流れが、自分の周りだけを避けて通っていくような感覚に襲われた。三月半ばの半端なぬくもりがしみてきて、このままずっと目を閉じたまま、起き上がらずに済むような気さえしてしまう。


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