意(こころ)
人を動かすに値するモノとはなにか。
志?心?違う。そうじゃない。そうじゃないだろう。
答えは意だ。
読めない?知るか、調べろ。
ただ、そうだな、ここでは意と読むことにしようじゃないか。
便宜上、あくまでも便宜上だ。
心と被ってる? 知ってるよ、わざとだ。
心で思うこと、頭で考えること、どちらにしても思うだけ、考えるだけで終わることなんてザラにある話さ。ところがどっこい、意がつくだけで全部ひっくり返る。
そう、全部だ。これから起こす行動も、考える指針も全部固まる。何をするべきかが見えてくる。俺は何をすべきか、それをした先に何が起こるか、わかってくる。起こした行動には全て結果が返ってくるからさ。
でも答えがわかっていてもやらなきゃいけないこともある。それを履き違えちゃいけねえ。俺は今、そいつの目の前に立っている。
脈は無い、会話も片手で事足りるくらいにしか話しちゃいない。だからわかる。君のその困惑顔は痛いくらいにわかるさ。俺だって同じ状況に置かれたら言うだろう。
お前誰だよ。
それを差し引いても俺はこの意に突き動かされている。
思いっきり失礼な事を言うぜ。君はクラスのマドンナじゃあない、パッとした特技も、別段成績が優秀ってわけでもない。人の気を引く事が人より多いかと言われれば俺からもノーと言えるくらいさ。友達との会話も当たり障りない、特にこれといった特徴があるわけでも、オタク気質とか、歴女だとか、そんな物はまるでない。多分。いや盛った。あるかもしれないけど俺は知らない。
ただ、ただ一つ言えることは、俺は君から目が離せねえって事だ。
だから言うぜ、俺は俺の意に従うぜ。
「付き合って下さい!」
「ごめんなさい!」
「知ってた!!」
「お友達から!」
「ダメです!」
「えぇっ?!」
怒涛の会話、かわす事数回、決着はついた。
「出直してくるぜ」
「あ、あの…、お友達がダメな理由って…」
俺は踵を返しながら、言った。ふんだんにカッコつけてやったさ、ふんだんにな。
「俺の意が、それじゃあダメだと叫ぶのさ」
「こころ…」
「そう、俺の意がな」
困惑する彼女をおいて、俺はその場を後にする。
これでいい、これでいいのさ。俺の意は満足してるぜ。結果は伴ったさ。
そう、俺の意はな。
「………、」
あー、なんつーか、なぁ…。
「お友達でもいいからなりたかったなぁ…」