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小話集  作者: 如月厄人
1/8

ゴリラ

 

  片肘をついて、檻の底に視線を投げる。なんて事はない、動物園のある一画、俺は、ゴリラを見ていた。


 事の始まりは彼女の一言だった。


「イケメンのゴリラがいるんだって!観に行こうよ!」


 最近話題のイケメンゴリラが近所の動物園にいる事を聞きつけたらしく、彼女は俺を誘って貴重な休日を潰して来たわけだが…。


「………、」

「………、」


 面白くない。


 そもそもカメラ持ってきてない時点でゴリラ見に来た意味がほぼ無い。つーか近所にある時点で最早皆無。これいつでも見れるって考えたら休日を潰した意味も無い。


 じゃあなんで来たんだよ。


 俺が聞きてえよ。


 そんな俺の心の内を察したのかどうなのか知らないが、ゴリラが俺をガン見している。


 俺も見返す。


 ………、あ、どっか行った。


「おもんない…」


 遂に言ってしまったよこいつ。お前が俺をここに導いたんですよー?


 こいつが言っちまったもんだから、俺も言わなかった事を口にしてみた。


「なんで来ようと思ったんだよ」


「だってー、テレビだとさ、わーきゃー言われてるじゃん?ちょっと気になるじゃん?」


「で、どうなん?実際は」


「おもんない。思ったよりおもんなかった」


「そんなもんなんだよ、流行りもんなんてそんなもんだろ」


「でもゴリラが流行った事は尊敬できる気がする」


「…何故に?」


「いや、何となく」


 ゴリラが一周回って俺らの前に戻ってきた。何も言わずに胡座を掻いて、餌と思しき木の実を片手で割って食っている。やっぱ力あるんだよなー。


「たっくん今のやってみて」


「クルミなら片手で割れるぜ」


「えっ、そうなの?たっくんゴリラじゃん」


「このガリヒョロとアレを同一にしてはいけない、恐らくゴリラに失礼」


 ゴリラがこっち見た。なんだか抗議の視線を頂戴している気がする。こっち見んな、視線くれてやるならカメラにやれ。


 でもクルミを片手で割るのは本当で、クルミを二つ使う事で簡単に割る事が出来る。やり方はまぁ、ググれ。多分やらせれば彼女にも出来るだろう。


 教えてやらねえけど。


「なんか私ゴリラに文句言われてるみたい」


「なんかずっと見てるな、こっち」


 視線を外さないゴリラに、こっちが視線を外したくなるが、それはそれでゴリラに負けた気がする。


 顔面偏差値でも負けてるのにこれ以上負けてたまるか。


 ここのゴリラがイケメンなのは本当で、ホリの深いいい顔をしている。


 だが雌だ。


 ………、心底どうでもいい。


 男でも女でもさ、いるじゃん、なんかさ、顔女っぽい男とか、お前男だろって感じの女とか。それと一緒、種族がゴリラか人間かってだけ。


「たっくん」


「なに?」


「やっぱたっくんのがカッコいい」


「………、」


 どうだゴリラめ、彼女は俺を選んだぞ。


 …くそダメだニヤける。はたから見たらゴリラ見てにやついてるおかしな野郎だぞ。


「顔赤いよ?」


「るせえ」


 体を起こしてゴリラの檻から離れる。


「どこいくのー?」


「帰るんだよ。もういいだろ」


「えー、他のところはー?」


「いいんだよ、俺でも見てろ」


「………、頑張ったねたっくん、顔真っ赤」


「るっさい」


 最後に見たゴリラが、敬礼するように手を挙げていた。


 馬鹿野郎、頑張れじゃねえよ。


「じゃあな」


 小さく言って、最後まで視線を外さなかったゴリラに手を振った。


「なんか通じ合った感じ?」


「冗談、俺はゴリラじゃあない」


「そうじゃないと困るな」


 腕に引っ付く彼女は少しだけ拗ねているようにも見える。


「………、お前が一番可愛いよ」


 驚いた顔、多分。顔見れない。


「やっぱ来て良かった」


「よかったな」


「うん」


 ゴリラに元気づけられるとは思っちゃいなかったよ、本当に。

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