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「愛しているわ。貴方の事を殺してしまいたい位に。逆に、貴方の手で殺されたいとも思ってる。……でも本当は、貴方の隣に居たいだけ。何も考えずに(中略)、ただただ抱きしめていて欲しいだけ」(書き出し.me)

「愛しているわ。貴方の事を殺してしまいたい位に。逆に、貴方の手で殺されたいとも思ってる。 ……でも本当は、貴方の隣に居たいだけ。何も考えずに、セックスするとかでも無しに、ただただ抱きしめていて欲しいだけ」


 先ほどまで俺の首に手をかけていたミカは、俺の上からどくと、窓の外を眺めながらそう言った。

 俺は仰向けに押し倒された状態のまま、独り言をいうかのように告げた。


「無理だな。

 悪ぃが俺は、そんなに器用な人間でもないし、優しい人間でもねぇ。

 狼に犬の優しさを求めるのはお門違いってもんだ。

 ミカ、お前もそれは、最初から分かってた筈だろ。

 お前が俺のモノになる事は有っても、俺がお前のモノになる事はないって事は」


 ミカは何も答えず、聞いているのかすら分からない様子で、ただただ窓の外を―ー今晩は曇り空で、月なんか見えねぇだろうになぁ――眺め続けていた。

 それでも俺は、構わず続ける。

 ミカの処女を奪った時に、彼女が数えていた天井の染みを、なんとなく眺めながら。


「そして俺には、美女を殺して楽しむような性癖は無い。

 本懐は無理、俺に殺されるのも無理。

 なら黙って俺の女やってくか、どこかに飛び出してくか……俺を殺すしかないだろうよ。

 まぁ、そう簡単に殺されたりなんかしねぇけどな」


 つと、ミカが俺を振り返る。

 長い黒髪が、さらりと流れる姿は、相変わらず色っぽい。


「ふーん。そうなの。

 だったら、さっき私に首に手をかけられてたのは、どうなの?

 あの時、もし私が本当に絞めていたら、貴方でも今頃死んでたと思うけど」

「ハン!

 そうなりゃ、本気で腹をぶん殴るなり、お前の目玉に指を突き刺すなり、いくらでも対処できるに決まってんだろ?

 確かに美女を殺して楽しむ趣味は無ぇが、殺されて喜ぶような異常者でもないからな。

 殺意を感じれば、迷わず殺すさ」


 冗談めかせつつも、真剣な視線を交わす。

 でもそこに込められた色は、確かに違っていた。

 本気で俺を愛し、その身を捧げてきたミカと。

 純朴な美少女に好かれて悪い気がせず、ただ単純に身体を貪ってきた俺とでは。

 情熱を抱いているところまでは同じでも、全くの別物でしかなかった。


 視線を交わす。

 つまりは、そういう事なんだろう。

 お互いを認めながらも、お互いを見つめながらも、見ている方向は真逆。

 ただただ同じ方向を向く、仲間にはなれなかっただけ。


「だったら、もし私が出て行って、違う誰かのモノになろうとしたとしても、止めてくれないんだ?」

「お前にそんな真似出来っこないだろ。

 だがまぁ、したけりゃ好きにするといいさ。

 ただ1つだけ言っとくが、他の野郎の味を知ったなら、もう俺がお前を抱くことはねぇ。

 それだけは忘れるな」

「……そこまで、私の事、どうだって良いと思ってるんだ」

「ああ。だから、こんな事だって出来る」


 そう、俺はミカの事なんて、どうなったって構わないから。

 俺は布団から立ち上がると、箪笥(たんす)から瓶を1つ取り出し、中身を全部ゴミ箱に捨てた。

 それ位しか、俺がミカにしてあげられる事が――いいや、してあげても良いと思える事は無かったから。


「な、なんで避妊薬を捨てちゃう訳?!

 それ、必要だけど安くないって、前に言ってたじゃない。

 もしかして、避妊出来ないからセックスしないって事なの?」

「いいや、勿論今夜も、明日の夜も、その次の夜も。

 生理でない時は、毎晩相手してもらうからな?」

「……それはダメ。

 だってそんな事したら、赤ちゃんできちゃうじゃないの」


 何がなんだか分からない、と訴えてくるミカの手を引っ張り、抵抗するのも無視して押し倒し、組み伏せた。

 そして抵抗するのも構わず、強引に脱がしていく。


「いやっ、駄目!!」

「はぁ。

 俺はな、さっきお前が自分で言った通り、どうだって良いと思ってるさ

 だがな、女を孕ませておいて、そのガキに対して責任を持たねぇようなクズじゃない。

 妊娠が分かったら、最低でも安定期に入るまではヤれねぇよ」

「だからっ! 私はそれが嫌なの!!

 私と出来なかったら、貴方は他の娘を抱くんでしょ?!

 それが私は――「それは無ぇよ」――え?」


 キョトンとした顔をするミカに、思わず苦笑いしてしまう。

 確かにミカと出会った頃の俺なら、そうしていただろうし、ミカの純潔を奪う前にもそんな事を言っていた気もするが。

 『今の俺』には、軽々しく寄ってくる女を抱くことなど、出来やしない。


「10年だぞ、10年。

 ガキだったお前は美女に育ったし、俺の敵もずっと増えた。

 急所を潰されるかも知れない女を抱く危険は、冒せねぇさ」

「……それってつまり、もし私が出てったとしたら」

「文字通りのメス豚でも買ってきて、獣姦しなきゃいけないところだったかもな」

「何それ。だったら、『どうだって良い』なんて、言わなきゃ良いのに」


 クスクスと、嬉しげに笑うミカが、可愛くて腹立たしくて。

 俺は強引に唇を奪うと、強く抱きしめて、その耳元でささやいた。


「俺はお前の事を、どうだって良いと思ってるさ。

 だからもう、避妊なんて面倒な事は止めだ。

 精々、孕まされるかも知れないって怯えてればいい」

「そうね、私が貴方の子を産む時に、貴方のみっともない姿を見ちゃうんじゃないかってビクビクしてるわ。

 右往左往したりだとか、子供みたいに飛び跳ねちゃったりしないか、だとかね」

「はぁ。言うんじゃなかったなぁ」

「ふふっ、もう聞いちゃったから、後悔したって遅いわよっ」


 ……全く、あの口数の少なかったガキが、こんなに口が達者な美女に育つなんてなぁ。

 俺の人生で、最悪で最低で――そして最良で最高の拾いモノを黙らせて泣かせる為に。

 俺達は生まれたままの身体で、新たな命を生む行為を再開したのだった。


********


 俺はミカの事を、決して愛してなんかいない。

 何故なら俺がミカに抱いている感情は、ただの所有欲に過ぎないからだ。

 

 ミカの笑顔に、どれだけ救われていたとしても。

 ミカが他の男のモノになったらと、考えるだけで気が狂いそうになるとしても。

 本当はずっと前から、ミカとの子供が欲しかったとしても。


 それでも、俺は今まで、あまりにも手を汚し過ぎてしまったから。

 そんな俺が抱く感情が、愛だなんてキレイな代物である筈が無い。


 だから俺がミカにする事は全て、俺がそうしたいと思った欲望に過ぎない。

 腕の中の温もりに満たされながら、俺は心地よい疲れに身を任せたのだった。

 『俺』はヤクザか何かで、『ミカ』は状況だけみればその情婦です。

 ミカの事を愛しながらも、己の犯してきた罪故に、気付けない主人公の、不器用な想いが伝われば嬉しいです。


 避妊薬については、詳しくないので間違っているかも知れません。

 ちなみに、ゴムとかが出てこないのは、昔の日本をイメージして書いたからです。

 また、まとめ買いしたゴムを捨てて~なんて、雰囲気でないと思いますしね。

 なので、効くけれど少々高価な、避妊薬を使っていたという話にしました。




 それでは、また次回にてお会いしましょう。 

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