伍
休日明けの学校への登校は憂鬱だ――
そんな感情も抱けないでいる宮間は、生徒で賑わう教室にいた。
皆、知らない顔ばかりだ、と教室内を一通り見る。
「ここがお前の席だ」
窓際の前から二番目の席。その位置を案内したのは、毛谷だった。
さっぱり記憶が戻らないでいる宮間に、毛谷は指を立てて教えた。
宮間は毛谷と一緒に登校していた。と、いうのも彼とは近所の中で、朝早くに宮間家に上がり込み、朝食を同じくしていた。
毛谷はとにかく好友的に接してくれた。退院して二日間、記憶を気にしないで良いほどに。
「ありがとう毛谷。ここが僕の席か……」
宮間はしんみりとした表情で、机に掌を置いた。何も思い出せないか、と思いながらも、椅子に座った。
「じゃーわかんねーことあったら聞きに来いよ」
毛谷はそう言うと、教室から出て行ってしまった。毛谷は宮間の隣のクラスらしい。
背負っていたリュックサックを机に下ろすと、チャックを開け、中から教科書や筆箱を取り出し机と入れた。
窓の外からは小鳥の囀りが聞こえてきた。
「宮間君、おはよー」
すると綺麗な声色が背後から聞こえてきた。小鳥にも負けない優しい声だ。
宮間は振り返ると、長い黒髪が印象的な女子生徒が静かに座っていた。
「お、おはよー」
ぎくしゃくとした返事だと宮間自身、思った。
「宮間君、記憶喪失になったって毛谷君から聞いたんだけど大丈夫?」
「う、うん。分からないことだらけだけど。生活に支障とかはないから大丈夫だよ」
「なら良いんだけど……やっぱり私の名前も忘れてるよね?」
「……ごめん。思い出せないや」
「いいのいいの、責めてる訳じゃないし。私は"山音"だよ。えっとー、改めてよろしく。でいいのかな?」
「うん。よろしく」
事情を知ってて貰えるだけで気が楽だ、内心では宮間はほっとしていた。
「それより、宮間君も気をつけた方がいいよ。今年が『呪いの年』らしいから。って、それも知らないよね」
宮間は首を左右に振った。
「知ってるの、なら話は早いね! やっぱり宮間君は呪いだと思う? それとも誰かの仕業だと思う?」
「えっと……」
キーン、コーン、カーン、コーン
チャイムと共に教室の入口から、担任が「皆席につけー」と言いながら入ってきた。
「じゃっ、また後で話そっ」
山音の言葉を聞くと、宮間は前へと体を向けた。
可愛い子だなー、と宮間は頭に山根を描きらがら、外に目をやった。
宮間からは校庭や校門が見えていた。そして校門の横にひっそりと座った真っ白の――『猫』も見えていた。
宮間は真っ白な猫が見ている先がすぐに分かった。
僕だ――
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