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肆
「おにいちゃん、はやくはやく!」
「引っ張るなよ」
晴れて退院の日を迎えた。
ベットには綺麗に畳まれ布団だけが置かれている。
「おにーちゃん、はやくー」
車椅子に座った妹は、急かすように服をぐいぐいと引っ張ってくる。
この光景を母親は、肩に手提げバッグをかけ見守っていた。
母親は表情からして、安心しているようだ。
――老人と話したのはあれっきりだった。
老人は急に寝込み、今でもその状態が続いている。
挨拶したかったな、と宮間は寂しく思う。
カーテンで遮られ老人の様子を覗えない。
宮間はカーテン越しだが、お辞儀をした。
「おにいちゃーん!」
あれから――妹は毎日のように宮間を訪れては、いろいろな話を聞かせていた。宮間の前だと甘えがあるが、基本的にはしっかりとしているらしい。
宮間は一通り病室の患者に、別れの挨拶をした。
全員を回り終えると、ゆっくりと入口のドアを開いた。
「おにいちゃん、かえろーか」
宮間は妹の小さい手を握ると、一緒に前へと進んだ。ゆっくり、ゆっくりと。
ご視聴ありがとうございました!