参
夕方になり、病室は茜色で染る。
毛谷が帰った後、すぐに母親が来て少し話をした。どうやら後二日で退院できるらしい。そして窓辺に方にあるコンパクトな机に、果物やお菓子などを置いていった。
母親といっても母親なのかすら分からない宮間。だが、母親を見ると妹と同じ温もりを感じてた。
多分、母親なのだ。宮間は自然とそう思えた。
夕日をベットから眺めていると、隣からカーテンのレールを滑る音が聞こえた。
「少し話をしないかい、少年」
顔を反対に向けると、白髪の老人が宮間を穏やかに見ていた。
「こっ、こんにちわ」
宮間は恐る恐る一礼をした。同じく老人も一礼をした。
「長い間、病室にこもっていると暇で仕方なくてな。話し相手を探しているのだよ」
「はっ、はー」
たわい無い話が続いた。
老人の過去の武勇伝。病院の生活のこと。挙句は、釣りの話し。老人は釣りが趣味らしいが、もう何年もやれていないそうだ。
すると老人は毛谷の話題に移った。
「君は良い友達を持ったね。大事にしなさい」
「はい」
老人は柔かに言った。
「ところで、彼はあの事件の話をしていなかったかい?」
「えっと心臓刳り貫き事件でしたっけ?」
「そうそう。――今年がその年だったのか……忘れておった」
老人の顔からは笑顔が消えた。
宮間はまだ記憶の一割も思い出していない。そのため彼らの話す『心臓刳り貫き事件』の詳細を一切、理解できないでいる。
それよりも毛谷の声やっぱり聞こえてたか、と宮間は苦笑気味になる。
「あの、こんなこと聞くのは無粋かもしれませんが――その事件ってなんなんですか」
すると老人は目を細め夕空を見つめ、話しだした。
「三年に一度起きるんだよ、この事件が。いつから始まったのかは知らんが、ワシが生まれる前から起きているんだよ。最初は誰かの仕業と皆は言ったが、結局は犯人、証拠すら見つからなかったらしい。」
すると一拍置いて、老人は話を続けた。
「すると皆は言い始めた――呪いだと」
「呪い?」
宮間は思わず話に割り込んでしまった。
老人は小さく頷いた。
「犯人が分からないとして、同じことが同じ周期で起きたらどう思う少年」
「えっと……それで呪いですか」
「そう。しかし呪いといってもそれは自己暗示かもしれないがね。でもこれだけ分かっていることがあるんだよ……」
突然、強風が病室に入ってきた。窓ガラスを揺らし、カーテンを仰ぎ。
奇妙なことにカラスの鳴き声まで聞こえてきた。
「しっ、閉めますね」
そう言うと宮間はゆっくりと立ち上がり、窓を閉めた。
するとタイミング良く看護師が、「元気ですか、皆さん」と明るい声で部屋に入ってきた。
「……今日の話はここまでにしよう」
老人は静かに言うと、看護師の方へ顔を向け、話しだした。
宮間は窓ガラスに触れ、老人が言いかけたのって、という心に蟠りを作り出していた。
まーまた聞けば良いのかな、宮間は自分に言い聞かせ納得した。
ふと、外から見上げる視線を宮間は感じた。
目を向けると人間ではない、茶、黒、白の模様を描いたそれと視線が合った。
ベンチに座るそれは――『猫』だった。
ご視聴ありがとうございました!
アドバイス、感想をお待ちしています!
よろしくお願いします!