壱
目を開くと白い天井が映し出された。
「おにーちゃん!?」
宮間の傍らから、少女の驚きの声が聞こえてきた。
「おにーちゃん! おにーちゃん。……やっと起きたよー」
ゆっくりと声が聞こえる方向に顔を向けた。
すると少女は瞬間的に潤んだ瞳を隠すように、掌で顔を覆った。ひくひくと優しい泣き声が部屋中に響く。
「ここは……病院か……」
掠れた囁き声で宮間は言った。
ベットに横たわる宮間はゆっくりと首を動かすと、病室ということが分かった。
桃色のカーテンが天井から吊り下がり、仕切りができている。
頭付近から聞こえる、ぴーぴーという機械音。
その隣には車椅子に乗った小学生くらいの少女。
「――おにいちゃん、目が覚めてよかったよ。死んじゃったかと思ったよ」
少女は瞳の大粒の雫を指で拭う。頬を赤く染め、本当に嬉しそうな表情をしている。
「……」
宮間は朦朧とした記憶を模索した。
そしてゆっくりと口を開いた――
「君は、誰……?」
不思議なほどに冷静な面持ちで、宮間は少女と視線を合わせた。
昼時だろうか、温かい黄色い光が病室に注がれる。
宮間は上半身を起こしていた。
「僕の妹なんだね君は……」
宮間は頭に巻かれている白い包帯に手を当て、言った。"妹"は小さく頷いた。
――あれから妹は宮間の言葉を聞いて、また泣き出してしまった。しくしくと。
それから数分が経過し、よっと落ち着いた妹はぐしゃぐしゃになった顔で宮間を見た。
「おにいちゃんは……車とぶつかって病院に来たの。それで三日も寝てたの」
「そう……なんだ。やっぱり何も思い出せない」
妹は車椅子を前屈みに座り宮間の手に、小さな手を置いた。もう一方の腕で目をごしごしと拭いて、真剣な表情に変わった。
「大丈夫だよおにいちゃん。ゆっくりでいいから思い出していこー! きっと記憶も戻ってくるよ! 私も頑張るよ!」
「……それじゃーお願いしようかな」
ぎこちないと思いながらも宮間は妹に、微笑みかける。
重々しい黒い雲が吹き飛んだように妹は、首を傾げ上目遣いをする。
その、妹の顔を見た宮間はとにかく一つだけ分かることがあった。
この子の笑顔を見ると、胸の中が安堵する。
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