フェア・アンフェア 解答
2話目にして、実は一番難しいんじゃないかという疑惑が掛かっております。
ええ、否定はしませんとも。
ノリノリで書いた覚えがありますし‥‥‥。
「うー‥‥‥。」
悩め悩め。
内心でほくそ笑んでいることなど知らずに、イツキは頭を抱えている。流石のイツキもこの問題はお手上げだったかしら。まあ、それも仕方の無い事ね。これは"理不尽"と言われても仕方無さそうだもの。
ああ、勘違いしないで。だからと言って解けないように作った覚えは無いわ。
「じゃ、解答を発表するわ。」
「くそ、時間切れかよ‥‥‥。」
「一応、どこまで推理したか聞きましょうか。」
準備は出来てる?
この話は‥‥‥そうね。まずは密室の形成から紐解いて行くと良いわ。
「それじゃあ、密室について説明してくれる?」
「え、いきなりか?」
「これを解きながら全体を理解するの。まずは状況から。ほら早く!」
私がイツキに解答を促すと、渋々としながらも口を開く。正直な所、渋々する必要は無いと思うのだけれど。
「えーと‥‥‥午後9時の時点では、恐らくまだ殺人は行われていない筈。警備員が確認・施錠して回ってるからな。‥‥‥、待てよ、窓の鍵は?」
確か、盗み聞きした情報の中にヒントが有った筈。
『廊下から部屋を覗いて、施錠した』!
これの何処がヒントなの? なんて愚かな質問をする人は居ないと信じるわよ。
「講義室内には進入していない。つまり窓の鍵は確認していないな? ならばその時点では窓が施錠されていなかった可能性がある!」
「そうこなくっちゃ。」
「犯人は恐らく槙奈がやったのと同じルートで窓から侵入し、藤原教授を殺害‥‥‥あれ?」
警察は、"事件発覚時"に窓の施錠も確認しているわ。犯人が後に窓の施錠も行ったとすると、犯人が密室から出られなくなる。ここまではあなたも理解しているわよね?
それはつまり‥‥‥どういう事かしら?
「第一発見者である嘉納は、現場に進入して遺体を見ているのだから、犯人を見ていてもおかしくない筈。」
「『扉の鍵を解錠、入室後奥で人が血を流して倒れているのを目撃』、だったかしら?」
「‥‥‥奥で人が血を流して『倒れている』?」
『倒れている』、よ。ああ、気が付いたようね。
そう。第一発見者は遺体をちゃんと確認していないわ。ちゃんと確認したなら『死んでいた』とはっきり言う筈だものね。
「血を流して倒れている事があまりにショックで、警察へ通報する人はそう珍しくないわよ。」
その直後、第一発見者により警察へ通報される訳だけど‥‥‥嘉納君には、ちょっとした特徴が有るわよね? それも、かなり致命的な。覚えてるかしら?
「それにしてもどこから通報したのかしらねえ?」
「どこって、通報ならその場で携帯でも使えば‥‥‥、ぁ‥‥‥あぁーっ!?」
「美鈴が言ってるわ。学内使用禁止、って。ついでに、希沙の証言に少しだけヒントを混ぜておいたわ。嘉納は朝、しかも一限が始まる前から、講義室に入るくらい真面目な性格。その事は学内にいる誰もが知っている‥‥‥つまり。」
「まさか、元々携帯を持ち込んでいない?」
幾ら何でも、殺人が起きたと思われる非常事態に、携帯で緊急連絡を取らない馬鹿は居ないわよ。真面目さ故に持ち込まなかったと考えるべきね。ならば、彼が取る行動は一つに絞られる。
「通報には学内の公衆電話を使用した。その間、講義室に居た犯人が脱出していたのか‥‥‥。」
でも、ね。
遺体より先に犯人が見つかっていた可能性だってあった筈よね。そう都合良くは行かないのが世の常よ。
「そう。まさにそれこそが、犯人が誰なのかを示しているわ。ヒントは沢山散りばめたつもりだったのだけど。イツキには解らなかったみたいねぇ? うふふふふ。じゃあ訊くけど、槙奈はどうして直人と同じ苗字なの?」
「は? 兄妹なんだろ? そんなの当たり前、」
「私はどうしてイツキと同じ苗字なのかしら‥‥‥。」
「嫌そうに言うな! 双子なんだから仕方無‥‥‥‥‥‥『同じ』、苗字?」
さて。犯人の目星は付いたのかしら? ここからは一気に行くわよ。‥‥‥主にイツキが。
「‥‥‥犯人は見つかる前に、自分で死体の振りをする。そしてそれを見た嘉納は『部屋から追い出された』形になった。」
「やっと気付いたようね? そう、犯人は‥‥‥『藤原教授』よ。」
この場合、被害者と加害者を一瞬だけ見ても、第一発見者には判断が付かなかったと考えるべきね。つまり、一卵性双生児か、またはそれくらいにそっくりな兄弟である事を疑えるって訳。
「は、謀られた‥‥‥! 大体藤原教授が二人も居るだなんて、そんな記述何処にもなかったぞ!」
「直接は書いていなくとも、ちゃんとそれを仄めかす様な事は書いたわよ。槙奈と美鈴の会話文に。」
え? 何処だか解らない?
仕方無いわねえ‥‥‥じゃあ本文中から抜粋よ。
『‥‥‥藤原教授って、昨日馬鹿兄貴をこってりと絞ってた?』
『そう、その藤原教授よ!』
「槙奈は『どっちの』藤原教授かを確認したかっただけよ。美鈴も『その』藤原教授だと言っているじゃない。ま、学生達にとっては藤原教授が二人居る事は周知の事実だから、話題に上らないのも当然ね。」
「さ、詐欺だ! ペテンだー!」
「ふっ‥‥‥うっふふふふふあはははははっ!」
あーおっかしい。
騙されてくれた方には感謝を。見事に謎を打ち負かした強者には拍手を送るわよ。
これぞペテンの真骨頂!使い古しの古典ネタですね!
あ、どうでも良い?
‥‥‥デスヨネー。