年賀状さばいばる
あけましておめでとう。
みんなは年賀状何通きたかしら? メールで済ますのは簡単だけど、年に一回くらいは筆を握ってみるのもいいと思うわ。え、国語教師だからって、余計なお世話? あら、新年早々、説教臭いことをいうつもりはなかったんだけど、ごめんなさいね。職業病かしら?
そうそう、年賀状といえば、ちょっとおもしろい年賀状が届いていたの。ほら、この宝船の七福神、弁天様の顔が私そっくりでしょ。とてもよく描けてるとは思うんだけど、恵比寿様がちょっとね。いや、本当に笑い事じゃないんだけどね。
◆◇◆◇◆◇
放課後、教室を見回りしていると、男子生徒が一人絵を描いているのを見つけた。
「もう完全下校時間よ。早く片付けて帰りな……あれ? 森田君って美術部だったっけ?」
「いや、文芸部っすよ。って、先生! あ、わりぃ。もう、こんな時間か」
よほど集中して絵を描いていたのだろう、そこで初めて私の存在に気付いた男子生徒がバタバタと片づけを始めた。そのとき、先ほどまで彼が描いていた絵が机の上からヒラリと舞った。私の足元に落ちた1枚の葉書。それには色鉛筆でなかなか上手に宝船が描かれていた。
「ほら、落ちたわよ。ん、これって年賀状?」
「あ、あーっす。そうっす。年賀状っすよ」
思いっきり文化部なのに、なんとなく喋り方が体育会系ぽい。それにしても、最近は年賀状かく高校生なんか少ないと思ってたんだけど、やるな森田君。
「手描きのイラストなんて凝ってるわね」
「いや、半分趣味みたいなもんっすから。一応、親しい奴には皆違う絵柄で送ってるんすよ。でも、時間がかかって仕方ないっすね」
そういえば、まだ11月だ。年賀状を描き始めるには少々早い。
「それ、先生にも1枚くれない? 住所教えるから」
「別にいいっすけど、何描いてもいいっすか?」
「それって、どういう意味?」
「いや、この間の授業の時、先生言ってたじゃないっすか…………」
どういうこと? それが年賀状と何か関係あるの? 森田君は一体何を言ってるの?
「先生 来年の干支ってなんだったっすかね?」
戸惑う私に投げかけられた突然の質問。私はちょっと焦っていたのだろう。来年の干支も知らずに年賀状に絵を描いているというのは、冷静に考えればおかしな話なのに。
「(えーっと、今年はウサギ年だったから、来年は子、丑、寅、卯、辰……)辰年だと思うわよ」
ちょっと考えてそう答える。そして、答え終わった時、初めて彼の質問の真の意味に気付いた。
遅い、遅すぎる。この間5秒。いや大丈夫、きっと大丈夫。
しかし、彼はニヤリと笑った。
その顔は、明らかにアウトを宣告していた。
◆◇◆◇◆◇
「先生って、確か23歳だったっすよね。来年は年女? そういえば、来年の干支ってなんだったっすかね?」
去年、自称23歳の私は、辰年生まれ(という設定)。すぐに「辰」がでてこないうえに、「だと思う」とか言っちゃったら、流石におかしいわよね。
そう、最初に言った面白い年賀状って言うのは森田君がくれた年賀状のことね。『龍』じゃなくて『宝船』の絵が描いてあるこの年賀状。
鯛のかわり『サバ』を持ってニコリと笑う恵比寿様。私にはなぜか森田君の顔にしか見えなかった。
忙しくなってきたので、短編は一旦休止して、お仕事&連載もの再開!
と思いましたが、季節ものなので、旬なうちに書き直してみました。
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