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たくちゃんと星

作者: 綾香

たくちゃんと森にいったこと

二年四組 そのだあやね

たくちゃんは、一つ大きい おとなりの、男の子です。

昨日、たくちゃんと、ちかくの森に行きました。

てっぺんまでいこうとたくちゃんが言いました。

てっぺんは、とっても、とおかったけど 私はがんばってのぼりました。

てっぺんに、ついたとき もう空は、あいいろでした。

お日様の光も、見えなくて ちょっと、こわかったです。

でもたくちゃんは、上を見てといいました。

上を、見てみると、たくさんの、お星様が 光っていました。

とても綺麗でした。

帰ったら、お母さんに、たくさん怒られました。

でも私、悲しく、ありませんでした。

星を思い出したからです。

私は、将来、たくちゃんのお嫁さんになります。


二〇〇六年夏

部屋を掃除していたら一枚の紙切れが出てきた。

二年四組・・・? へたくそな作文。 でももうたくちゃんはいないんだよね。

私に一言のこして去って行ったっけ・・。 そう、あれは中三の夏休み。

五年前のちょうど今かな・・・・。


二〇〇一年夏

「おーい!たくちゃん」

麦わら帽子を押さえながら大声でたくちゃんを呼ぶ。

くいっとあごを上げて上をみると雲ひとつない青空。

快晴

そんな日だった。

「あ、あやね!ちょっと待って!」

たくちゃんが窓から答える。

たくちゃんは小学二年生のころは ただの喧嘩好きのお兄ちゃんだったのに

いまはモテモテでちょっと困る。

今日はたくちゃんにプラネタリウムにつれてってもらうの。

一緒に星をみるなんて 二年生のコロぶりだな〜。 すごい楽しみ!

「お〜い!たくちゃん早く〜!!」

「わーった!今行くって!」

今度は部屋の奥から声だけが聞こえる。

するといきなり足にふわっとした感触が触った。

なんだ、犬のTJだ。たくちゃんは最近犬を飼い始めた。

ティージェーって・・・。

ネーミングセンスはどうかと疑ったけど このビーグルのメス犬はかわいい。

TJも変なあだ名つけられてかわいそうね。

「おいあやね。」

「ん?」

「プラネタリウムはあきらめろ。」

「えー!なんで!」

「電車賃がないんだ。それに入場料も。」

「・・・・・・・貸す。」

「だめだよ、女から金はかりたくねぇ。」

「・・・・。」

「今日は山だ!山!歩きで山行こうぜ」

「えー!!こんな暑い中?星は?」

「なにいってんだよ。自然の星を見るんだよ。」

「へ?」

「3年前みたいに行こうぜ山。」

3年前・・・。覚えていてくれたんだ。 なんか楽しくなってきた。

たくちゃんは言いくるめるのが上手。でもそんなところにひかれる。


「げ、げひ・・・・疲れた。暑いよう」

「あ!?お前そんくらいでつかれたのかよ。」

「普通は疲れるの!もう、こんな暑い中山登りなんて・・、無謀・・。」

「こら・・あやね!無謀なんていうなよ。」

「・・・そんなこといいながら・・・じぶんもバテバテのくせに・・。」

「図星・・・、ちょっと休むか。」

まだ山の中間地点にも達してないのに こんなバテバテになっちゃって大丈夫かな・・。

  ゴクゴクゴク   

たくちゃんののどからすごい音が聞こえる。 ココまで聞こえてくるよ。

あんな強気なこといいながら すっごい疲れてたんじゃない。あーもうだめ!!!

「ふーそろそろいくか。」

「え・・もう」

「なにいってんだよ。長居してると頂上で星がみれねえぞ!」

「・・・・・・・ふあい。」

ズンズンズンズン たくちゃんが歩く。私もその後についていく。

男の人って歩幅大きいな。一生懸命歩いてもおいつけない。

「まって・・・たくちゃ・・」

「ああ、すまんすまん。」

なに言ってんのよ・・。すまんすまんじゃないわよ。

あれ・・あれれ・・くらくらする。あやね!ってたくちゃん言ってる。

でも口が動かないや・・・。 たくちゃんがボヤボヤ・・。

かすんで見えるの。どんどんどんどん意識が遠くなって・・・。


パタパタパタパタ

うちわの仰ぐ音が聞こえる。ゆっさゆっさ体が揺れて・・・・。

ん・・・ここどこ? そういえば私倒れて・・・・!!!

「たくちゃん!!!!!」

「うわ!急にうごくな!落ちるだろ?」

ふと気づくと私はたくちゃんのうえ。おんぶされてたんだ。 ゆりかごみたい。

時々大きく揺れて、気持ちいい。

「ねえ、2年生のころも最後の最後、おんぶしてくれたよね?」

「ああ、そうだったな・・、まったく俺はあやねのおんぶ係りか?」

「あははは!そのとうり!」

「否定しろよ!」

話しながらもたくちゃんは疲れてる。 息が切れてるもん。

「ありがとね、たくちゃん。」

「・・・・・・・・ん。」

素直じゃないたくちゃん。 たくちゃんは有り難うの言葉に弱いんだ。

すぐ黙り込んじゃう。 うぅ・・・やっぱ頭痛い。 もう少し・・寝よ。


「おい、あやね!」

「ふあ・・・・・。」

「ふあ・・じゃねえよ!てっぺんだぞ!」

「本当?」

「ああ、今ちょうど日が沈むんだぜ」

「綺麗・・・。」

「お前なあ、ケロっとしてんなよ。・・・・重かったぞ。」

「ばかぁ」

「ごめんなさい」

私、このたくちゃんとのじゃれあいが好き。

でも、たくちゃんあそこからあたしをおんぶして ココまで来てくれたんだ。

「重いのにありがと。」

「は?さっきは否定したくせに、変なやつ」

「えへへ〜。」

でも本当に夕焼けは綺麗だった。 私の今までで一番いい思い出になるよ・・。


 「決めた!私、たくちゃんに告白する!」

「え、あんたらってまだ付き合ってなかったの?」

「え!そんなわけないじゃない。私の片思いよ。」

「そっか?私はてっきりもう付き合ってるのかと思ってたよ。」

「そりゃ、そうなったらうれしいけどさ。」

親友の越美、でも、越美もたくちゃんのこと好きなんだよね。

たくちゃんからすれば私はただの妹分。相手にしてくれるかな・・・・。

またいつものように、がははって笑って

「冗談言うな」

って流されちゃうかな?

「まあまあ、そう思い悩むことないって。関係ないけどさ、なんたって私は今最高の気分よ。あんたら付き合ってなかったんでしょ?

あんたのおかげでたくや先輩ファンが自己完結してたのよ〜。失恋を祈ってるわ。」

「いじわる。」

「あはは、う〜そう〜そ、冗談よ。」

そういえばたくちゃんはもてるんだったっけ・・・・。どうしよう、自信なくなってきた。

「大丈夫だよ、あんたはたくや先輩と仲いいし、きっとOKだよ。」

「何よ、励ましたりけなしたり」

「まあ!人が励ましてあげているのになにその態度!」

「はははは」

「まあ、誘ってきなよ。」

「うん!」

勇気出さなくちゃ。絶対に、絶対に今日、たくちゃんにすきっていうんだ!

「た、たくちゃん!」

「な、なんだ?高等部まで来て。声裏返ってるぞ?もう昼休み終わるぞ?」

「あのさ、たくちゃん今日遊べる?」

「今日?いいけど」

「本当?じゃあ今日の四時に私の家来てね!」

「ん、わかった。」

「じゃあね!」

大丈夫かな?すきって、言えるかな?ううん、言うんだ。いわなきゃいけないんだ。

来年は私も高校生だし、たくちゃんとラブラブ高校ライフを!

私は自分に言い聞かせる。

右手でそっと胸をなでおろして深呼吸。そんなことしてるまに

  キーンコーンカーンコーン

授業を知らせるチャイムがなる。やばい、急がなくちゃ。


そろそろ、そろそろたくちゃんが来る時間だ。

どうしよう、この服変じゃないかな?

いつも会うときはこんなこと少しも気にしないのにああ〜、どうしよう。顔赤いかな?

  ピーンポーン

「あ、ひゃ、はい!」

「変な声だな、あやね。」

う・・変な声だしちゃった。


「で、珍しいじゃん。家に呼び出すなんて。いつも外なのに。」

「へ?うん、そうだね。」

「・・・・・」

「ん?会話ないな。」

「あ、あのさ!」

「なに?」

「あのさ」

「なに?」

「あのさ、あたし、たくちゃんが好き。だから付き合ってください。」

ちゃんと・・いえた。

「・・・・・・・え、本気?」

「本気よ」

「・・・・・・・・ごめん。」

「え・・・。」

「おれもすきな人いてさ、高等部の・・。髪の毛カールしてる人。」

「・・・・あ、そう!!ごめん、伝えたかっただけだから・・・うん。いいや・・。」

「・・泣くなよあやね。」

「泣かないよ・・・・。泣くわけないじゃん。」

声が震えてしまった。どうしよう。たくちゃん気づいただろうか。

私、知らないうちにうぬぼれてたんだ。なんとなく、なんとなく。

絶対に振られないって。悩んでいたときも振られるかな?なんて少しも思わなかった。

どうしよう、私。はずかしい・・・・。すっごい自己嫌悪・・・・・。


「・・・・・・その髪・・・。」

「・・・・・・どう?」

「うん、普通。カールしたんだ。」

「うん・・・・。

「ねえねえそれよりさ、昨日どうだった?」

「・・・・・・・・・振られた。」

「マジ?・・・ぃょっしゃ!」

「聞こえるよ。」

「あ、そうごめん。でもこれで私にもチャンスができたんだ!」

「好きな人いるってよ。」

「・・・・・・・・。」

「高等部の・・髪の毛カールしてる人だって。」

「ふうん・・て、だから髪の毛!」

「・・・・うん。」

「・・・がんばれよ。」

「おうよ・・・。」

「!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「何!?」

「その人、城ノ内!城ノ内賢子さんだよ!高等部でカールしてる人って彼女以外いないよ!ほら!ミス美女に選ばれてた美人の人!」

「・・・・・・・・勝ち目ないじゃん。」

「・・・・・・・へ」


そっか・・・・。二人は両思いなのかな・・・?

そうじゃないといいな・・って、私奈に考えているの?嫌な考え方。

・・・え?じょうのうち・・・・たかこ・・・・。J・・・・T・・・・・。

そっか・・・。最初から。たくちゃんは城ノ内さんをおもって、TJって名前を・・・・。

それほど思っている人に、勝ち目なんてないのかな・・・。

「越美、ちょっと行ってくるわ」

「は?いくってどこに?」

「たくちゃんとこーー!」


「・・・・・たくちゃん。」

「今度はなに?もう昼休み、終わるぞ?」

「たくちゃんの好きな人、城ノ内・・・さん?」

「・・・・うん、そうだよ。」

「やっぱり。」

「・・・・振られたけど。」

「え?」

「あやね、俺に告ったろ?みならわなきゃって。 告ったんだ。彼いるってさ。」

「・・・ふうん。」

「うち・・・かえるわ。」

「・・ん」

・・・・・・・・・・。

自然と顔がほころんでいく。だめだ、だめだ、だめだ。他人の不幸を喜ぶなんて。

しかも振られたとしても私に振り向いてくれるとは限らないし。

うぬぼれはいけないよね、うん。

「あ、たくちゃん。やっぱり今日遊ぼう。」

「・・・?いいけど。どこいくの?」

「・・・海!海いこう!」


「わー、綺麗だね。たくちゃん。」

「・・・・・ん。」

「ね、かきごおり食べよ。」

「・・・・・ん。」

「んもう、たくちゃんそればっか。」

「・・・・・ん、ごめんごめん。」

「で?」

「・・・・ん、食おっか。」

「うん!」

  シャクシャクシャク

もう季節は過ぎて十月。誰もいない悲しい海。もちろん売店もシンとしてる。

  シャクシャクシャク

かきごおりを食べる音だけが静かに響く。

「ねえたくちゃん、振られたの?」

「・・・・・・・・・・・そうだよ。」

「私と・・・つきあおうよ。」

「・・・だから、」

「いいの!心の三分の二に城ノ内さんがいても。」

「・・・・・・。」

「・・・ねえたくちゃん。」

「・・・・・・。」

「・・・・寒い・・・。」

「・・は?」

うーんくらくらする。わたし・・熱い。

「あ!?お前熱!」

「ん・・・・。」

「おい!おい!」

たくちゃんの声が小さく響く。ああ、私は。大切なときに倒れてばっかだ・・・。


「ん・・・。」

目を開けるとぴんく色の天井。私の部屋だ。頭がひんやり。

頭に何か乗ってる?目・・開けなきゃ。

「んん・・・。」

「あ、おきたか?」

「へ・・・たくちゃん?」

「・・・・・。」

「なんだ・・夢・・・?いでででで!」

びっくりした。夢の中のたくちゃんがいきなり頬をつまむから。

痛いよ。たくちゃん。ばか?ばかっていってるの?でも答えられない。

私はまた夢の中・・・。


  ピピピピピピピピピピピピ

「んもう、うるさいわね。」

ん?九時五十四分。学校は・・・。

「あら、あやね起きたの?すごい熱だったわね。今日学校はお休みしたわよ。」

「ん・・・。」

「お母さんも会社に行くからね。」

「ん・・・。」

おきなきゃ、おきなきゃ。そういって机につかまる。ん?何か手に触れた?

なんだろう・・・。机の上はいつも綺麗にしているつもりなのに。

重い頭をぐっと持ち上げて机に体をひきつける。

「昨日のこと覚えていたら今日十時上野公園で。」

・・?書置き?昨日のこと・・・。覚えてるよもちろん。

私どさくさにまぎれてすごいこと言ってたよね。・・・・・って十時!?

あと六分!急がなきゃ!


「お、遅れてごめん!」

「・・・寝起きだろ。」

「大当たり。」

「まあすわれよ。」

「すわれって・・あんたのベンチじゃないでしょ。」

「まあすわれ。」

「あ、そういやたくちゃん学校。」

「休んだ。」

「え」

「あのさ、」

「何?」

「昨日のこと覚えてる」

「あ、うん。」

「・・・・・。」

「あ、ごめん。昨日熱でおかしくなってたんだとおもう!気にしないどいて!」

「いや・・あのさ。」

「・・・ん?」

「付き合おうっていったじゃん、あれ、いいよ。」

「は!?」

「は、じゃねえよ。」

「・・・・・・・・。」

「俺学校行くから。」

「・・・・・・・・・・・。」

え・・・。夢じゃない?どうしよう、どうしよう。

あ〜、にやけちゃだめ。たくちゃんも私のことすきになってくれたのかな?

そうだといいけど。同情とかじゃ、ないといいな・・・・・・・・。


「ええええ!!!!!付き合っちゃったの?」

「ちょっ!越美声大きいよ!」

「あ、ごめんごめん・・・付き合ったの?」

「イエイ」

「ふーん良かったじゃん!オメデト」

「ははは、有り難う。」

「フ、さっさと別れろよ。」

「・・・・。」

「あはは、嘘だよ。末永くお幸せに。」

「ん。ありがとう。」

私って幸せ者だよね。たのしい越美もいるし、モテモテのかっこいい彼氏もいる。

それに今日は渋谷でたくちゃんとショッピング!自然と口元がほころぶ。

はたからみれば一人でニヤける危ない人だ


「すっごいごちゃごちゃしてんのな、渋谷って。」

「そう?普通じゃない?」

「暑い・・・。」

「うん、暑さは普通じゃないね。」

「暑い・・・。」

「中はいろっか。」

「・・ん。」

  ガヤガヤガヤ

「中はうるさいな。」

「でもいいものいっぱい売ってるのよ。」

「・・・・そうか?」 

「え!ふっちゃったの?」

「うん。」

「もったいなーい。」

女の子たちの会話が聞こえる。なん私と越美の会話みたい。心の中でそうおもう。

「あ、やっぱ彼氏がいるから?あのかっこいい太史くん!」

その名前が出たとたんたくちゃんがバッといきなり後ろを見る。私もつられて後ろを見る。・・・・・城ノ内さん?

「ううん。そのときはそうだったけど。もう別れちゃった。」

・・え?別れた。もうだめだ。

きっとたくちゃんは、城ノ内さんの彼氏の名前を知ってたんだ。太史、って・・・。

だからその名前が出てきて振り向いた。

たとえたくちゃんの心の三分の二に城ノ内さんがいてもいい。

そんなえらそうなこといったくせに。やっぱり無理だよ。

自分より多く、たくちゃんの心に、違う女の人がいるなんて。

やっぱり、つらすぎるよ。こんなかたちでつきあうのは、やめるべきだったんだ。

「たくちゃん、行ってきなよ。」

「・・・え?」

「もういい、もういいよ・・・・。」

「・・・・・。」

「たくちゃん、大好きだったよ・・・ばいばい。」

「え・・オイ!」

そういって私は走り出す。まるで逃げるみたいに。

ううん、逃げなんだ。だってあのままあそこにいたら私ないちゃうよ。

今頃二人は再会してハッピーエンドだ。私なんて邪魔者。

涙がこぼれないようにぐっと顔を上げる。

  曇り空

まるで私の心みたいに。


「ええ!もう破滅?」

「・・・・・・・うん。」

「あんた、まだ2日目ッスよ?」

「・・・・・・うん。」

「なんで?」

「城ノ内さんが別れたから。」

「で?」

「二人のために。」

「・・・・・・。」

「あんたはよくやったよ。」

「・・・・・・・ん。」

 

キーコキーコ

自転車置き場から自転車を出す。今は乗る気にもなれない、押して帰ろう。

 ガシャンガシャン

「うわ、最悪」

自転車のドミノ倒し。なんでこうゆうときって、不幸が続くのかな・・・。

  カシャンカシャン

今度は自転車を起こす音。

・・・・誰?

「・・たくちゃん。」

「あほ」

「・・有り難うございました。」

そういって私はまた逃げる。今のは冷たくしすぎたかな・・・。

でも気まずいし、あのままだったら私泣いちゃう・・・。

あーもういいや!もうたくちゃんと私は何の関係もないんだから。

  

  RRRRRRR

電話が鳴る。うるさいなあ、誰だよ。ん・・・長岡拓也。あっ、たっちゃんだ。どうしよう・・・。

「・・・はい。」

「あ・・あやね?」

「・・・うん。」

「今から外出れる?お前の家の前にいるんだけど。」

「え!?」

「窓、のぞいてみ?」

 そっとそっと窓をのぞく。

「たくちゃん・・・。」

「な、出てこいよ。」

「・・・・・・・・・うん。」

  ドキドキドキ

心臓が飛び出しちゃいそう。どうしてここまできてくれたの?ぐるぐるぐる、

頭の中でいろいろな考えが浮かぶ。

「たくちゃん。どうしてココまで来たの?何しに来たの?」

「そんないっぺんに答えられないよ。」

「あ、ごめん。」

「よそよそしくされてすごく悲しかったぞ?」

「・・・・・・だって。だってたくちゃんまだ城ノ内さん好きじゃん。」

「城ノ内さんにはお別れしてきたよ。」

「へ?なんで・・?」

「そんなの・・・あやねがすきだからに決まってるだろ?」

「は??」

「俺がお前を好きだからだよ。」

「え?」

「俺のこと嫌い?」

ううん、そんなことないよ。私はちいさく首を横に振る。

べつに悲しくなんかないのに後から後から涙が出てくる。

「明日は一緒に学校行こうな。」

「うん・・・うん。」

それから二年後だった。たくちゃんの病気が見付かったのは。


 二〇〇三年春

周りにたくさんハチがとんでいる。耳元に響くブンブンという音が心地よい。

くいっと顔を持ち上げて空を見る。いつのまにかこれが私の癖になっていた。

お気に入りの麦わら帽子をかぶって買ったばかりのサンダルを履いて。

そっと胸をなでおろしてから家をでる。今日は久しぶりにたくちゃんと遊ぶの。

歩きで山登り。春の山、登ったことはないけれどとっても綺麗なんだって。

はやくたくちゃんに会いたいな。

  ピーンポーン

ドキドキしてチャイムを押す。ドキドキドキドキ、高鳴る胸。

でも一向に返事はこない。いないのかな?

「おーい、たくちゃんたくちゃん」

  シーン

約束、忘れちゃったのかもしれない。しょうがないな。家に帰ろう。

くるっと後ろを向いてひきかえす。おもい足取りで家に帰ろうとした、そのとき

「あ!あやね〜!あやね!」

「あ、お母さん」

「あのね、今たくやくんが近所の病院に運ばれたんだって。あやねもきなさい!」

「え・・・?」

どうして?どうして?たくちゃん病気なの?

 

  ガー

病院の自動ドアが開く。どうしよう、たくちゃんが死んじゃったら。どうしよう。

「たくちゃん!」

「あ、あやね!」

「どうしたの?」

「ああ、すっごい吐き気がしてさ、軽い貧血だってさ。」

「大丈夫なの?」

「うん、ちょっとくらくらするけど大丈夫。」

「よかった。」

「紗戸川あやねさん?」

ん?お医者さん、なんだろう。

「はい、そうですが。」

「ちょっと・・。」

「?」

なんだろう。何かあるのかな?


「あなたは、長岡さんの彼女さんですか?」

「あ、はい。一応。」

「なら、話しておきましょう。」

「?」

「まだ本人には話してないのですが・・・。長岡さんは、胃ガンです」

「・・・・・・・え?」


うそだ、うそだ。たくちゃんが?帰って調べてみたけど、

胃がんは症状が出たときはすでに手遅れって・・・。

症状って、胃がんの症状は、痛、吐血、貧血、下血、食欲不振、体重減少・・・って・・。

吐き気って・・・もう症状、出てるじゃない。

たくちゃんが死んじゃったらどうしよう!いやだ、いやだ、絶対にいやだよ。

たくちゃん。絶対に死なないで・・・。


 その後、たくちゃんにも病気が知らされた。

たくちゃんは悲しそうな顔をしていたけれど、無理やり顔を崩して

「ぜったい直るって!」

と、ニコッと笑った。

たくちゃん、たくちゃん、たくちゃん。

これからたくちゃんほどすきになるひとは現れないとおもうよ。

だから・・・・しなないで。


そう願ってもしょうがない。たくちゃんはどんどんどんどん弱くなっていく。

食欲がなくてご飯もロクに食べず、ガリガリとやせ細って。毎日毎日必ず吐く。

もう吐かない日なんてなくなっていた。

もう以前のような、強気なたくちゃんはいない。この前なんて

「こんなやつが彼氏なんて嫌だろ?もういいよ。開放してやる。」

なんていっていた。許さなかったけど。以前のようにいっしょにじゃれあいたい。

いっしょに遊びたいよ。でも、どんなにあがいてもその日は来る。医師に言われた。

「最初は手術もしようとおもったのですが、もう手遅れだと。

無理に手術などせず、ゆっくりいったほうが、あのこのためにもなるかとおもいます。」

なんの感情もいれずたんたんとしゃべる医師。

もうこの人はこの瞬間を何度も、何百回も体験してきたのだろう。

でもこんな悲しい事実をたんたんとしゃべる医師に怒りがこみあげた。

「このままいけば、彼のいのちはもう半年とないでしょう。」

半年。そんな悲しいことがあるなんて。わたし、たくちゃんとまだなんにもやってない。

そんなの、悲しすぎる・・・。


この季節がまたやってきた。わたしが一年で一番大好きな季節。

でも今はしっとも楽しくない。私はたくちゃんを誘う。

「たくちゃん、プラネタリウムに連れてって。」

「金・・ないし。」

「・・・・・・・・貸す。」

「だめだよ、女から金はかりたくねえ。」

「いいの!」

「・・・・・・うん。」

どこかで聞いた会話。懐かしくて涙がこぼれる。

でも、たくちゃんも最後だと悟ったんだろう。すこしうる目になって答えた。

「泣くなよ・・・。」

「・・・泣いてない。」

たくちゃんは本当は病院からでちゃいけない。他人に移すことはないけれど、

他の菌に感染して、合併症状を起こすかもしれないから。そうなったらそれこそ命取り。

「綺麗だね。」

「・・・・・・・・・ん」

「・・・・・・。」

「あやね。」

「・・何?」

「ありがとう、今まで。死んでも忘れないでな。」

「ば、ばか。縁起でもないこといわないで!」

「でも・・。」

「でもじゃない!たくちゃんは死なない!死なないもん!。」

「あやね・・・ごめんな。」

「・・・・・・・・・・・。」

「帰ろっか。」

「・・・・・・・・ん。」

たくちゃんと久しぶりに遊んだ。でも以前のように、

たくちゃんに元気はなかった。たくちゃんってこんな人だったっけ・・・?

                                                                          

チクタクチクタク

時間がたつのがはやい。もっとたくちゃんと一緒にいたいのに。

「紗戸川さん、拓也に会ってやってください。」

たくちゃんのお父さんとお母さん。すごく弱気な顔。

でも私も、いますっごく弱気な顔なんだろうな・・・。

「たくちゃん。」

「あ・・やね。」

「大丈夫?」

「あやね・・ごめんな。」

「?」

「もっともっと・・いろんなところに、連れて行ってやりたかったけど。ごめんな。」

「たくちゃん・・・。」

「ごめんな。」

たくちゃんの顔はやせ細って、頼りがいの合った広い肩も、

ムキムキだった筋肉も、まはちっとも元気がない。

「たくちゃん、好きよ。」

「・・・・・・・・・ん。」

たくちゃんが体を起こして、きゅっと肩を寄せてくる。

当たった肩はやせて骨ばって、コツコツしていた。

「俺も、だよ。」

そういってたくちゃんは目をとじた。

  ピーーーーー 

「イヤァァァァァ!たくちゃん!たくちゃん!しんじゃ嫌ぁぁぁ!!」

思いっきり叫んだ。

のどが破れると思った。自分で言って、鼓膜が破れると思った。

リズムよくギザギザと動いていた○○(この機会の名前がわかりません、あの病院にある心臓の動きがでる機会のことです。)がまっすぐな線になってかん高い不気味な音が個室に響いた。

「たくちゃん・・たくちゃん・・。目ぇあけてよぉ・・たくちゃぁん・・。」

返事もしない。

「ふ・・・ぇ・・・」

叫んだつもりだったのに声が出なかった。頭の中が真っ白になった。

  さようなら、たくちゃん。


2003年夏 私の大好きな季節に たくちゃんは 死んだ。


 たくちゃん、今私は十九歳になったよ。もうすぐ二十歳だよ。

たくちゃんのほうが一つ年上だったのに、もう私、おいこしちゃったね。

今日はたくちゃんの命日だね。あのね、今日二年生のころの作文を見つけたの。

ここにおいとくから、読んでね。

ねえたくちゃん、見てる?私のこと。私ね、あれからたくさん恋をしたよ。

でもたくちゃんほど好きになった人はいなかったよ。

それは多分、これからも同じだと思う。

たくちゃん、私はこれからまだまだたくさん生きるけどおばあさんまで生きるけど、

ずっと見ていてね。




              たくちゃん、大好きよ。


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[一言] 最初あらすじを見て女の子の名前が自分と同じって理由で本文を読みました。(笑) けど読んでいくうちにどんどんハマっていって、目がはなせませんでした。たくちゃんとあやねちゃんの純粋な恋に、最後と…
2007/01/20 21:17 退会済み
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