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魔王城

 空は、血のような赤と、闇色の雲が覆っている。湿り気を含んだ空気は生温く、じっとりと重い。死者の嘆きにも聞こえる風はねっとりと肌に絡みつき、酷く不快だ。

 大地は瘴気に腐っている様にぬかるみ、歩く度に草や木の根、板切れや金属片などが絡まり、足を取られる。


 小高い丘の上に、まるで一つの山とも思える程に巨大な城がある。朽ちた大地と違い、その城は建てられたばかりの様に美しい。


 四人の戦士はようやく目的地に到着した。


 ここは『魔王城』




 アロンダイト=ダル=レスターは、先頭を慎重に歩く。

 

 ダイア=ドレンサーはいつ敵が襲って来ても良い様に身構えながら歩く。

 

 テレス=シンファーは恐怖に駆られながらも、いつでも呪文を唱えられる様に、呼吸を整える。

 

 『サヴァン(賢者)』と呼ばれるハスターは、いつも通り、落ち着いて最後尾を歩いている。

 

「静か過ぎじゃねぇか?」

 

 やがて、ダイアが口を開いた。

 体を守る鎧に刻まれた傷が、今までの旅の過酷さを物語っている。

 女性でありながら、戦闘の際は誰よりも前に出て、果敢に魔物を倒す。

 

「気配はあるのに、攻撃する意志が感じられませんね」

 

 小柄なハスターが続く。

 二十半ばから『サヴァン(賢者)』と謳われ、三十を数えた現在、三大賢者の一人に名を連ねている。

 

「どこも同じよ。大人しいのは最初だけ。後からみんな一斉に来るつもりなのよ……」

 

 杖に縋るように、テレスはずっと強く握っている。

 細く小さな体のどこに、そんな魔力があるのか不思議なくらいの高い魔力で放つ魔法は、魔物を一気に吹き飛ばす。

 

「警戒するに越した事はない。ここは魔王城なんだからな」

 

 まだ、少年と言えるアロンダイトの高い声は、凜として響く。

 背中に背負った、装飾の美しい剣「ホーリー・オブ・ホワイト」は罪のない者を傷つければ、刃が黒くなると教えられた。

 

 四人の足音は、薄暗い廊下に反響する事なく、闇に吸い込まれた。


 アロンダイトは、今までの旅にあった出来事を思い返していた。

 

 

 

 帰って来ない父の代わりとして、自分を育ててくれた祖父のレスター八世。

 最初から一緒に居てくれたダイア。姉の様に、母の様に、師匠として、仲間として一緒に旅をして来た。

 

 旅に出てすぐに、ファンジと出会った。いや、出会ったと言うよりは、ファンジのいた盗賊団にアロンダイト達が襲われたのだ。

 仲間は足を怪我して動けなくなったファンジをは見捨てて逃げた。アロンダイト達はそのファンジを介抱し、彼らの心に触れたファンジは感激してついて来た。


 ファンジは、アロンダイトより年上だったが、どこか子供っぽく、ひょうきんで、彼がいると周囲は明るくなった。

 

 魔法使いの街で、大切にされていた魔法の球を盗まれたとの噂を聞き、アロンダイト達はすぐに向かった。

 魔法の球を探す道中で、一人、恐怖を押し殺しながら魔物の群れを倒すテレスに会った。

 アロンダイト達が駆け付けると、安堵に気を失ってしまったが、目を覚ましてからは、持てる力を使ってアロンダイト達に協力した。

 塔の最上階で、魔物が魔法の球を壊そうとしていた所を倒し、無事に魔法の球を街に返した。

 

 テレスはその後も、アロンダイト達に着いて来た。

 テレスのお陰で、戦闘は非常に楽になった。

 時々、魔物からファンジがくすねたアイテムで魔力を回復させ、次々に強力な魔法を放った。

 アロンダイトとダイアの技もメキメキ上達し、戦闘はいつも有利に進める事が出来た。

 

 呪いの歌を歌う魔物かいると言う話を聞いて、四人はあの森を訪れた。

 とても豊かな森で、虫達も動物も魔物も、穏やかに暮らしていた。

 ファンジは、その森を歩いている途中で突然倒れた。

 高熱と幻覚に襲われ、テレスの回復魔法も効果を現さず、暴れる体をダイヤが押さえた。

 

 そこに、魔物が現れた。

 剣を抜くアロンダイトに、魔物は驚いたのか、持っていた果実を落として逃げた。

 

 きっとファンジに呪いを掛けた魔物に違いないと、アロンダイトとダイアは魔物を追った。

 

 魔物は命ごいをした。

 

「ファンジを元に戻せば許してやる」

 

 ダイアの非難を背中に浴びながら、アロンダイトは言った。

 魔物は言った。

 

「それは出来ない」



 ファンジは、そのまま息を引き取った。

 悲しみにくれる間もなく、三人は旅立った。

 

 いくつかの事件を解決したが、三人の心にはファンジのいない悲しみがこびりついていた。

 食事の度、量が少ないと騒ぐファンジが、ひどく懐かしく感じた。

 

 

 

 アロンダイト達の噂を聞いてハスターが現れたのは、それから間もなくの事だった。

 

「あなたが、魔王討伐の為に世界を旅してるアロンダイト、で間違いありませんか?」

 

 一人、町を歩いて居たところを呼ばれ、アロンダイトは驚いたのを覚えている。

 

 サヴァン・ハスターの名を知らぬ者はいない。恐らくその頃のアロンダイト達よりも有名だっただろう。

 

 ハスターに促されるまま、アロンダイトは今まであった事を洗いざらい話した。

 

 アロンダイトが最後まで話し終えると、ハスターはしばらく考えた後、旅の同行を願い出た。

 最初は断った。

『三大賢者を危険な旅に同行させる訳にいかない』

 ハスターは静かに答えた。

 

「私は、君達とは別の理由で魔王に目的があるのだよ。私の仮説を確かめる為。なに、私も一人旅をする身、自分の身を守る位は出来るさ」

 

 ハスターの同行を一番喜んだのは、同じ魔導の道を歩むテレスだった。

 

 

 回復と補助を得意とするハスターのお陰で、旅は今まで以上に順調なものになった。

 

 夜には、アロンダイトとダイアの訓練を見て、的確な指示を出し、二人の技は精度を増し、戦闘も最小限の体力でこなす事が出来た。

 テレスには、魔法の基礎から改めて見直させ、結果新たに強大な魔法を作り出すきっかけになった。

 

 ハスターの旅の目的は何度聞いても、適当にはぐらかされた。

 

「この世の理に、この世の常識に、全ての理由があるのだよ」

 

 そんな事を言う位だった。

 そんなハスターが、ある日寄り道しようと言い、四人はとある泉にやって来た。

 ハスターが魔法を唱えて、泉に入って行き、三人も着いて入って行くと、そこは精霊の世界の入り口だった。

 

 精霊達に向かい入れられ、四人は精霊王に会った。

 

「主が、魔王を倒すと言う使命を帯びた人間か?」

 

 精霊王には性別がなく、声には男性・女性両方の声質が混ざり合い、神々しく響いた。

 

「はい」

 

 アロンダイトはきっぱりと、精霊王に飲まれる事なく答えた。

 

「主を育てたのは、祖父だったか?」

 

 厳かに、精霊王は語る。

 

「はい」

 

 決して臆する事なく、アロンダイトは答える。

 

「祖父の名、ランスロットだったな」

 

「はい」

 

 精霊王は長い睫毛を伏せ、何かを考えた。

 

「主に剣を与えよう」

 

 白く細い手を前に突き出すと、その手が光に包まれ、やがて一振りの剣が現れた。

 

「ホーリー・オブ・ホワイト」

 

 アロンダイトが美しいその剣を抜くと、傷一つない美しい刀身に自分が映った。

 

「この剣は、罪無き者を救う為に生まれた。罪無き者を斬れば、刀身は黒く、暗黒に包まれるだろう」

 

 アロンダイトは剣を鞘に納め、きっぱりと言った。

 

「私は罪のない者を救う為に旅をしています。この剣には、罪無き者の血を吸わせません」

 

 精霊王はニコリと微笑んだ。

 

「主の曇り無き眼ならば、見定められる。旅に幸運を……」

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