プロローグ
プロローグ
世界を終わらせる剪定の鋏が、月光を反射して冷たく輝いていた。
立ちはだかるのは、歴史の闇に葬られた木こりの亡霊。
足元に転がるのは、毒に侵され、今にも消え入りそうな銀髪の少女。
「お前がその小娘に惹かれるのは、恋慕じゃない。……殺したいという欲求だ。お前は、クインガーデナーを殺す『駒』として造られたんだからな」
心臓がドクドクと、嫌な音を立てて脈打つ。
知ってはいけない答えが、無理やり耳から流し込まれる。俺が捨て子である理由。ロランヌ様に抱く、焦がれるような、けれど時折ひどく恐ろしくなるこの感情の正体。
(嘘だ。そんなはず、ねぇ……っ!)
否定したくても、体が、記憶の底が、男の言葉に「正解」だと共鳴してしまう。
視界が目眩に揺れ、男の斧が俺の肩を、背中を、容赦なく切り裂いた。
鉄の匂いが立ち込め、意識が遠のいていく。石畳に叩きつけられた俺の視界の端で、男がゆっくりと斧を振り上げた。
「死ね、ガキ。……お前が殺さないなら、俺が殺してやる」
絶体絶命の瞬間。
俺の耳に届いたのは、風のように微かな、けれど誰よりも凛とした愛しい声だった。
「ジャック」
顔を上げると、毒に侵されているはずのロランヌ様が、弱々しく、けれど真っ直ぐに俺を見ていた。
「目を閉じて、世界を見て!」
死を呼ぶ斧が、俺の眉間に迫る。
俺は抗うのをやめ、吸い込まれるように、彼女の言葉に従って瞼を閉じた。
──その瞬間、世界が、反転した。




