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作者: 早川 奏一
掲載日:2026/03/13

押入れの中を掃除していると、時々、思いがけない宝物が見つかる。

失くしたはずのお金。

ほこりまみれの昔のアルバム。


今日、私が拾ったのは――手紙だった。


さかのぼること三か月前。

私は、勉強の合間に押入れを整理していた。

別に理由があるわけではない。

上で挙げたような楽しみがあるわけでもない。

ただ、テスト期間に机に向かうのが嫌で、時間をつぶす口実として押入れを開けたのだ。


埃をかぶった箱の隙間に、折れた紙が挟まっているのが目に入った。

手に取ると、少しざらついた感触。紙の端は黄ばんでいて、長い年月を物語っていた。


なんだろう――


手紙には心当たりがない。

これほど黄ばんだ紙なら、もうずっと昔の出来事なのだろう。


勇気を振り絞って、私はその手紙を開いた。

そこには、ただ一つ、連絡先だけが書かれていた。

名前も何もない。


怪訝に思った。

それでも、退屈な午後に少しだけ冒険心が湧き、私はついその電話番号にかけてしまった。


もしもし――

電話は、家じゅうに響き渡る。

出てほしい、でも出てほしくない。

そんな矛盾した気持ちが、ほんの数秒の間に心を支配する。

数秒でしかないはずなのに、時間はまるで永遠のように長く感じられた。


「はい、もしもし……どちら様でしょうか?」

声を出す手が少し震える。


しばらく沈黙。相手は何も言わない。

そして、かすかに聞こえた声――


「久しぶり。元気にしてた?」


思わず息を呑む。

誰だろう……?

聞き覚えのある声のような気がするのに、どうしても思い出せない。


胸がざわつく。出るべきか、いや、出るべきじゃないか。

その葛藤の間にも、相手はゆっくりと話を続ける。


「わかるよね、俺のこと……?」


その言葉に、私の心は痛んだ。

わからない。

電話の向こうでは、返事を今か今かと待っているのに、私は答えられない。


「ごめんなさい。誰かわかりません。もしよろしければお名前を言ってもらってもいいですか」


自分から話しかけたのに、相手が誰だかわからない。胸の奥がひりつく。


「大丈夫だよ。俺、一方的に連絡先渡したからね。それよりも、電話かけてくれてありがとう。ずっと電話かけてもらえないんじゃないかって、少し心配してたんだ」


胸が締めつけられる。

名前も知らないのに、どうしてこんなにも心が揺れるのだろう。


「……あの、でも……あなたは誰ですか?」

声が震える。


沈黙のあと、相手は小さく笑ったように聞こえた。


「名前は、今はまだ言わない。でも、君のことは知ってるよ。ずっと前から――」


ずっと前から……?

その言葉に、遠い記憶の扉をノックされるような感覚が胸に広がった。


「わからなくてもいいんだ。君に、直接会いたいだけだから」


胸の奥が熱くなる。

恐怖でも不安でもなく、ただ不思議な期待で心がいっぱいだった。


「……会いたい、ですか?」

小さな声で返す。

相手は頷くことすらできないのだろう、電話越しの沈黙の先に、確かな温度を感じる。


「じゃあ、明日――会える?」


その瞬間、手が震えた。

でも、怖いなんて思わない。

わからないことだらけなのに、どこか懐かしく、安心できる気持ち。


翌日、待ち合わせの場所。

心臓の音が耳まで響く。


遠くから、あの声がする。

「久しぶり」


振り返ると、目の前に立っていたのは、電話の向こうの人――でも、初めて見る顔でもある。

声だけが、ずっと記憶の中に残っていた。

私はその声を頼りに、ゆっくりと歩み寄る。


「覚えてる?」

「うん……覚えてる」


名前も知らない、でも心のどこかでつながっていた存在。

手紙と電話が、私たちをここまで導いてくれたのだと思う。


手を差し出すと、相手もそっと手を重ねた。

小さな笑みが交わされる。

すべてはここから始まる――そう感じた、初めての瞬間だった。

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