ドーナッツの穴を見たい? 引き算の創作論
「こんにちは。藤村としゆきです」
「今日の相方のマリーです」
「マリーちゃん。ドーナッツの穴って知ってる?」
「知ってるもなにも。そりゃ知ってるでしょう」
「僕はさ、あれが腹立つんだよね」
「は? そんなの、としゆきさんだけですよ」
「なんで何もない穴に、お金払わなきゃならないのか、ってね。責任者、出てこい!」
「そんなしょうもない話をしにきたんですか?」
「……実を言うと、映画でカットされたシーンってあるよね。これは『ドーナッツの穴』に例えられるんだよ。マリーちゃん」
「どういうことです?」
「つまり、それが『無いから完成』ってことなんだよ」
「無いから完成? 別に有ってもいいんじゃないですか?」
「いや、それは、『要らない部分』なんだ。それを削って完成なんだよ」
「あ~、そういえば、ブルーレイとかの特典で、『カットされたシーン』ってありますよね」
「そうだね。今回は、『ターミネーター2』の特別編を例にしようと思う」
「『ターミネーター2』ですか? あたしもあの映画大好きですよ。特別編っていうのは、通常版もあるってことですか?」
「この映画はね、まず劇場公開版があって、しばらく後に『特別編』といって、カットされたシーンを追加したバージョンがあるんだ。今、観られるのは、この特別編なんだ」
「へー、それで、としゆきさんは両方見たんですか? どっちがよかったです?」
「さあ、それなんだ。この特別編が、監督のジェームズ・キャメロンの言う、『ドーナッツの穴』なんだよ」
「え~? でも、あたしは観ててもとくに違和感なかったですよ。どのシーンがカットされたんですか?」
「じゃあ、2つのシーンにしぼって説明しよう。まず、終盤で、敵の『T-1000』が、床や手すりと同化するシーンがあるね?」
「あるある! あたし、あのシーン好きなんですよ」
「あれは、劇場公開版には無かったんだよ」
「え~? でも。あれがあるから、無敵のT-1000も弱ってきてるとわかるんじゃないですか?」
「だから、それが『いらない』んだよ。監督にはね」
「どうしてですか?」
「そのほうが、最後までT-1000が恐ろしい敵だ、ってことになるのさ。敵は強いほどいいからね」
「あ~、なるほど」
「それに、そのほうが、ジョンが母親のニセモノを見破ったことになるじゃない?」
「あ、そういわれれば。あたしが見たのは、足元の変形で見破ったんですよね」
◆◆◆ ( ´・ω・)_且~
「さて、次は、冒頭で、サラが夢の中でカイルと会うシーンがあったね?」
「あ、あのシーンも、あたし大好きです。サラの切ない気持ちが描かれてますよね。泣けてきちゃいますよ」
「あのシーンも、もともとなかったんだよ」
「ええ~? 嘘でしょ? あんな大事なシーンが」
「あそこは、大事なシーンだけど、映画のテンポが悪くなるのと、情緒的すぎるんで、監督は泣く泣く切ったんだ」
「ですよね~。あそこは大事ですよね」
「マリーちゃん、なんで大事か、わかる?」
「え、だって、あったほうがいいじゃないですか?」
「あの、サラの内面を描くシーンは、物語的に大事なんだよ」
「ん~、なんとなくそんな気はしますけど」
「あれはね、サラの心のスタート地点なんだ。その後、映画を通してサラの内面は変化していく。物語は、主人公の内面の変化を描くもんなんだよ」
「え、サラって主人公なんですか? 初耳」
「内面の変化で言えば、サラ>シュワちゃん>ジョンって感じになるかな? それより、面白いのは、キャメロンがこれをばっさり切って、それで『完成』としたことなんだ」
「なにが面白いんです?」
「つまり、創作のセオリーを崩してでも。そのほうがより面白い、と判断したんだよ」
「そうですかあ? あたしはあったほうがいいと思いますけど」
「ま、今は特別編がデフォになっちゃってるからね。とにかく、僕の言いたいのは、彼はそれほどストイックに、要らない部分をカットしちゃってるってことなんだ」
「なるほど」
「彼は劇場公開版で完成って言ってるからね。特別編はあくまで『特別』なんだよ」
「ふ~ん。創作って、難しいんですね」
「小説も同じだよね」
「あたしは、せっかく書いた文章を削りたくないですよ?」
「それが人情ってものさ。なまじうまく書けたりすると、カットするのがもったいないもんね。せっかく考えた設定も、入れたくなるもんね」
「あたしは、できるだけ入れるものと思ってたんですけど。違うんですね?」
「そうだね。とにかく、要らない部分はカットするのも大事だよ」
「じゃあ、次回はとしゆきさんの出演をカットします?」
「……それは堪忍して。このエッセイは僕がいなきゃ(汗)」
「そのほうが読まれるかもしれませんよ?」
「責任者、出てこい!!(泣)」
今日の相方は、『ロボットの好みは?』https://ncode.syosetu.com/n5738ln/からでした。




