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グルーマン

作者: せおぽん
掲載日:2026/01/31

俺の名前は、今居則夫。

友人は皆、俺をグルーマン(糊男)と呼んでる。

俺は、大した才能はないんだが、誰とでも友達になる事ができるんだ。友人が困っているときには、役に立ちそうな別の友人を紹介する。人と人とをくっつける。だから、グルーマンさ。



「グルーマン。サンキュー!君のおかげで彼女の機嫌が直ったよ」


街を歩けば、そんな風に声をかけられる。


「いいレストランだったろ。シェフが友人なんだ」

「グルーマンに教えて貰ったと伝えたら、喜んでたよ。あと、これ少ないけど……」


差し出された封筒を、俺は手で制した。


「やめてくれよ。金なんかいらない。そのうち何かで手を貸してくれれば良いさ」


俺が求めているのは現金じゃない。いつかどこかで、この「縁」が誰かの助けになれば、それでいい。


「グルーマンさん!」


不意に、一人の女性に呼び止められた。見覚えのある、だがずいぶんと大人になった顔。



「君は、確か15年前に子犬を貰ってくれた子だね」

「はい、ジョンは先日……」


彼女の瞳が少し潤む。それだけで、その先は言わなくても分かった。


「そうか。……元の飼い主にも伝えよう。君も来るかい」


並んで歩きながら、俺は彼女の横顔を盗み見た。

「それより、君、だいぶ疲れているようだけど……」

「はい、実は……失業してしまって……、ジョンの治療で貯金も…」


俺は何も言わず、ただ目的地へと彼女を促した。


「そうか、大変だったね。おっと、ここだよ。ここがジョンの産まれた家だ」


庭先から元気な鳴き声が響く。わんわん。


「きゃあ、ジョンそっくりの子犬!」


彼女が声を弾ませたのと同時に、家の主が顔を出した。

「やあ、グルーマン。久しぶりだな」


「ああ、あの時の子犬の主人を連れてきたんだ。先日、亡くなったそうだ」


彼女が深く頭を下げる。「ごめんなさい」


「仕方のない事だよ。あの子を愛してくれてありがとう」


主人の温かい言葉に、彼女の肩の力が少し抜けたようだった。俺は主人の顔を見て、さりげなく切り出した。


「ところで、君はブリーダーを始めたんだろ?」

「ああ、でも人手が足りなくてね。住み込みだと、中々…」


その言葉を聞いて、彼女の目が大きく開かれた。俺はそれ以上、口を挟まない。


やがて、彼女が涙を浮かべながら俺の方を振り返った。


「ありがとう……ございます、グルーマンさん。このお礼は……」

「礼なんていらない。友達だろう?」


俺はポケットから、使い古した携帯電話を取り出した。今時珍しい折りたたみ式の、いわゆるガラケーだ。


「スマホ? こいつとは長い付き合いだ。別れるのはもう少し先にするよ」


指先に伝わるボタンの感触を確かめ、パタンと俺はそれを閉じた。




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