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ハバナイスデイズ!!~きっと完璧には勝てない~  作者: 415
第6幕 何事も重いくらいが丁度いい
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第23話 悪い予感ほどよく当たる

 天逆町に謎の病が流行して数日、街並みはガラリと変わっていた。

 外を歩く人は皆無で、昼も夜も関係なく町は静寂に包まれている。

 相反して病院内は患者で溢れかえっている。謎の高熱に多くの人々が悩まされ、医療関係者はてんやわんやしており、戦いの日々が続いていた。


 だが、1人の患者が死亡したことで自体は一変する。

 その患者は、身体中がドロドロと崩れ落ち、蒸発するという異質な最期を迎えたのだ。

 明確な変死。それが与える恐怖は人々に伝染し、果ては天逆町限定の戒厳令が敷かれてしまった。

 天逆町を一時的に危険区域に指定し、無許可の出入りを禁ずる命令は、当然ながら町民の反感を大きく買った。

 しかし決定が覆ることはなく、陸の孤島と化した天逆町は、ゴーストタウンに変貌を遂げていた。


「お客さん……来ませんねぇ」

「暇すぎ。ケンスケ何か面白いことやって」

「雑なフリやめてよニィナちゃん」


 岩戸屋の住民は病気こそしていないものの、暗くなった町の雰囲気、そして依頼の無い日々を悶々と過ごしている。

 忙し過ぎるのも考えものだが、何も無いことも気が滅入る現状は、子供を飽き飽きさせるには充分だった。


「……」

「ナギさん、ここ最近ずっと元気無いですけど何かありました?」

「いや……何も無ェ。ただ、この流行病は……そう簡単に治まらないと思ってな」

「ナギは何か知ってるの?」


 ナギヨシは机に目を向ける。厳密には机の中にある、まだ2()()()()()()()()()()()()ミコトの写真に目を向けていた。

 彼の中にはこの流行病が、ミコトの命を奪った奇病と同じ症状という限りなく確信に近い思いが巡っていた。

 

「……さーな。詳しくは分かンねェ」

「すごい含んでる言い方。なんかムカつく」

「ナギさんって自分のこと全然喋らないですよね。オウカさんに聞いても教えてくれないし」

「大人っていうのはそうそう自分のことは喋らないの。お子ちゃまには分からんかー」


 ニィナとケンスケは、ナギヨシの態度に顔を合わせてムッとする。

 何かを言い返そうとする2人を遮る様に、突然岩戸屋の呼び鈴が鳴った。


「ほら、バイト共。楽しい楽しい仕事の時間だぞー」

「もー、タイミング悪いなぁ。行こうニィナちゃん」

「ナギ、この仕事終わったらナギのことちゃんと教えてもらうから」

「へーへー。はよ行ってこい」


 2人は客人を案内するため部屋を出ていった。


 カチカチと響く時計の音。ザーザーと収まることを知らない大雨。

  1人残されたナギヨシはジッと集中して、室内に続く扉を睨みつけた。

 数十秒の時が流れる。だが客を待つこの数十秒があまりにもナギヨシにはあまりにも長く思えた。

 それは説明するにはあまりにも大雑把な感覚。

 あえて言うなれば漠然とした剣呑。

 肌を刺す嫌に冷たい空気が身体にまとわりつくのを感じる。


「ケンスケッ!ニィナッ!!」


 突然、ナギヨシは立ち上がり声を荒らげる。

 それと同時に岩戸屋の壁を壊しながら、2人が吹っ飛んできた。

 舞い上がる埃が落ち着きを見せると、酷く身体を痛めているケンスケとニィナの姿が露になる。


「ナギさん……!」

「ナギ……!」

「おい、テメーら無事か!何があった!?」


 ナギヨシは2人を庇う様に前に立ち、すぐに迎撃の姿勢を取る。

 爆音を立てる心臓は、これまでに無いほどの危険信号を発していた。

 鼓動の高鳴りに合わせ、漠然とした悪しき予感の正体が重い足音が近付いてくる。

 

『随分と呑気な暮らしをしているじゃないか。平坂ナギヨシ』


 目の前に現れたのは、全身を黒衣に包み、特徴的なガスマスクをした長身の男だった。

 

「一体どこの誰ですかテメーは……!業務妨害でしょっぴくぞコノヤロー。なんで俺の名前を知っていやがる……」

『お前が知らないのも無理は無い。何せお前は()()()()()()()。あの時の俺は……ただの医者だ』


 ガスマスクの口から発せられた異排聖戦という言葉。

 それはこの男が世界の禁忌(タブー)に関わっていることを意味していた。


「テメーももう一度戦争したい身ですかァ?キャラ被ってんだよ前のヤツと。悪ィが俺じゃなくて国に直接喧嘩売ってくれや。暇じゃねーんだわ」

「そうか?お子様を雇うくらいだ。随分と暇でヌルい生活を送っていたんだろうな。彼らは()()()()()()の代わりか?」

「……ッ!?」


 ナギヨシの額に一筋の汗が流れる。

 ミコトの死因は謎の奇病による病死とされている。それが事実であることは、彼女を看取ったナギヨシが1番理解していた。

 だからこそ彼はミコトの死を受け入れられずも、何処か諦め、回避しようの無い不幸と納得していた。

 だが3年たった今、似た奇病がこの町で蔓延している。

 そして現れた目の前の異排戦争経験者。

 それはナギヨシの過去、そして勇魚ミコトの死を知る人物。

 提示された情報は、ナギヨシの混乱を加速させる。


「あぁ、そうか。お前はまだ重要なピースを持っていないのか。クックックッ……我ながら褒めてやりたいよ。過去の自分を」

「……テメー、マジに何者ンだ」

「俺は“爛れた男”カグツチ。天逆町にウィルスをばら蒔いた張本人。そして……」


 ――――お前の女を殺した男だよ。

 

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