消えた時間の街: 最後の贈り物
ユミがシヅカ町を解放した数日後、都会での日常に戻っていた彼女のもとに、奇妙な手紙が届きました。封筒は古びていて、差出人の名前もなく、ただシンプルに「シヅカ町」とだけ書かれていました。
手紙の中身を開くと、そこには短いメッセージが書かれていました。
「もう一度、町へ来てほしい。あなたに渡すべきものがある――シヅカ町より。」
ユミはその内容に驚きましたが、何かが彼女を再びあの町に呼んでいるのだと感じ、迷わず旅支度を整えました。あの不思議な町で、まだ自分が果たすべき役割があるのかもしれない。そんな予感が彼女の胸を満たしていました。
シヅカ町に戻ると、以前のような不気味な静けさはなく、普通の時間が流れている町がそこにありました。人々は微笑みながら通りを歩き、穏やかな日常が町を包んでいました。まるで、すべてが再び生き返ったような光景にユミは胸が温かくなりました。
しかし、時計屋だけは変わらずにそこにあり、薄暗いまま佇んでいました。ユミはその扉を押し開け、店内に入ると、あの黒いスーツを着た店主が彼女を静かに待っていました。
「戻ってきたんだね。」彼は微笑みました。「君の選択は、町に新たな未来を与えてくれた。だが、これで終わりではない。」
彼は棚の奥から、今度は美しく輝く新しい懐中時計を取り出しました。前の壊れた時計とは違い、その時計は見事な装飾が施され、ユミの名前が再び刻まれていました。
「これは、君にとって最後の贈り物だ。君はこの町を救った。そして、この時計は君がどこにいても、時間を超えて君を守るだろう。」
ユミはその時計を受け取りました。手にした瞬間、暖かな光が時計から溢れ出し、彼女を包み込みました。その光は、まるで町の人々の感謝の気持ちが込められているかのようでした。
「ありがとう…この町に、新しい息吹を与えてくれて。」
時計屋の主人の言葉が、ユミの心に深く染み渡りました。彼女は感謝の気持ちでいっぱいになり、最後にもう一度町を見回しました。人々が笑顔で生活している姿は、彼女にとって何よりの贈り物でした。
「これで私は本当に、シヅカ町から離れられるんですね?」とユミが尋ねました。
店主は静かにうなずきました。「君はいつでもここに戻ることができる。この時計を持っていれば、シヅカ町と君の絆は永遠に続く。けれど、君自身の時間も大切にしなさい。それが、シヅカ町からの最後の願いだ。」
ユミは深く一礼し、店を後にしました。彼女の手には、未来を照らすかのように輝く懐中時計がありました。
その後、ユミは都会での日常に戻りましたが、あの町の記憶と共に生き続けました。懐中時計はいつも彼女のそばにあり、困難な時や迷いが生じた時、時計の光がそっと彼女を導くように感じました。
シヅカ町の人々の笑顔、時計屋の主人との会話、そして彼女が下した決断――すべてが彼女の心の中で強く刻まれ、彼女を前へ進ませる力となったのです。
町はもう二度と時間の中に迷うことはありませんでした。そしてユミ自身も、彼女の人生の時計を自らの手でしっかりと進めていきました。