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消えた時間の街  作者: わど
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消えた時間の街

ある日、若い女性のユミは都会の喧騒から離れたくて、小さな田舎町へ一人旅に出ました。古い地図を頼りに、観光客があまり訪れない「シヅカ町」という名の場所に行くことを決めました。この町は、インターネットやガイドブックにはほとんど情報がなく、地元の人たちの間でもほとんど知られていない秘境のような存在でした。


到着すると、シヅカ町はその名の通り非常に静かで、どこか懐かしい雰囲気が漂っていました。石畳の通りや木造の家々、井戸がある広場、そして小さな商店街。まるで昭和時代から時間が止まっているような感じでした。ユミはその静けさに心が癒され、カメラを片手に町を歩き回りました。


しかし、町を歩いているうちにユミは不思議なことに気づきました。時間が全く経っていないのです。お店の前で掃き掃除をしていた老婦人が、同じ動作を繰り返している。時計を見ても針が動かず、日が沈む様子もなく、周囲の人々もどこか夢の中にいるように静かに過ごしていました。


その時、ユミは商店街の端にある不気味な小さな時計店に気づきました。好奇心に駆られて店の扉を開けると、中には黒いスーツを着た初老の男性が一人、古びた時計を修理していました。「ようこそ、時間のない町へ」と彼は言いました。


「どういう意味ですか?」とユミが尋ねると、時計屋の主人は語り始めました。


「この町は何十年も前に、時間そのものが消えたんだ。外の世界とは違う場所になってしまった。ここに入った者は、時の流れを失ってしまう。この町に足を踏み入れると、出ることはできない。しかし、もしあなたが自分の時間を取り戻したいなら、この時計を直せばいい。」


主人は、奥の棚から壊れた古い懐中時計を取り出しました。その時計には、ユミの名前が刻まれていました。


「これは…私の時計?」ユミは驚き、手に取ると、不思議な感覚に襲われました。記憶の奥底に、この時計を手にした自分の姿がぼんやりと浮かび上がってきました。しかし、そんな時計を持っていた覚えはありません。


「そうだ。君がここに来るのは、最初から決まっていたことだ。だが、もしこの時計を直せば、君は外の世界に戻れるだろう。でも、それは君の選択だ。」


ユミは少し考えましたが、心の中で強く感じたのは、外の世界に戻りたいという気持ちでした。時計を修理するために、一晩中かけて試行錯誤を繰り返し、ついに時計が動き出しました。


その瞬間、町全体が揺れ、周囲の景色が一瞬にして変わり始めました。時計屋も、町の人々も、すべてが消えていきました。ユミは目を閉じ、気がつくと、彼女は都会の自分の部屋に戻っていました。時計は動き続け、時間は再び流れ始めました。


だが、ユミの手には、今もその壊れた懐中時計が残されていました。


そして、その時計は時々、勝手にカチカチと音を立て、町で過ごした静かな時間の記憶を、彼女にそっと囁くようでした。



この物語はいかがでしたか?普段の生活の中に潜む不思議な空間や、時間にまつわる奇妙な出来事をテーマにしたお話でした。

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