護る
激しい剣撃が容赦なくこちらに襲いかかる。
シエルさんが手を構えるとさながらカメの甲羅の様な巨大なシールドが現れ、男の攻撃から自分達の身を守る。
これがあのカメの、トロの能力……。さっきの攻撃もこうやって防いだのか。
「くっ……!!」
激しい攻撃に耐えてはいるが、守ってばかりでは状況は変わらない。シエルさんも明らかに苦戦を強いられている。
俺にはこの状況を打開する術が何もない。このシールドの中から身動きもできず、この攻防の行く末を見守ることしかできない。何も出来ない己の無力さがもどかしい。
そしてこの膠着状態もそれほど長くは続かない。
「流石に硬いな」
しびれを切らし男の手が止まる。諦めて帰ってくれたりは……。
次の瞬間、強烈な威圧感が辺りを覆い、俺とシエルさん2人とも、身体が思わず硬直し圧し潰されそうになる。
ふと顔を上げると、その威圧感の正体が男の背後に堂々たるその姿を現していた。
「……ド、ドラゴン」
「そんな………」
そりゃそうか。理由は知らないが俺を殺す気で来てるんだ。そんな簡単に諦める訳がなかった。
人間の3倍はある身体。その身体に比例して広がる羽に長い尻尾。溢れんばかりの強者の風格を纏って、青の竜王が空に立つ。
シエルさんが再びシールドを展開する。だが男が剣を一閃、それと同時にドラゴンも攻撃を放つ。
今まで必死に耐えていたのが嘘のように、たった一撃で、一瞬で、呆気なくシールドが破られてしまう。
「そんな!? トロの盾が!!」
驚きとダメージで呼吸を乱し、シエルさんがついに膝をつく。
「次はお前だ、想護」
男がゆっくりと剣を向ける。
「……!!」
「ダメっ!!!」
想護
他者を想い、護るように。そんな人になれるようにと両親が願いを込めてつけた名前。
そうだ、狙いは最初から俺だと言っていた。シエルさんが巻き込まれる理由はない。俺の行動は決まっていた。
男が攻撃の構えをとった瞬間からすでに身体は動き出していた。
今まで前に出て守ってくれていたシエルさんから少しでも離れながら前へと飛び出す。
相手が剣だろうがドラゴンだろうが関係ない。簡単に死ぬつもりもない。無謀でも何でも、護るって一度心に決めたなら。
目の前が光に包まれ、全てがスローモーションになる。あぁ、これが走馬灯ってヤツか。
一瞬、されど永遠のような時の中で
『護る』
その願いに呼応して、胸の奥から聞いたことのない、けれどいつも聞いていたかのような、相反する感覚の不思議な声が頭の中に波紋を浮かべて響き渡る。
(呼んで)
呼んで? 誰を?
思い浮んだ1つの名前を、ありったけの力を込めて叫ぶ!!
「クシ!!!!!!!」
浮かんだのは愛猫の名前。
胸の熱い何かが飛び出し弾けて、それが集まり再び身体に入ってくる。
永遠に感じた時間が動き出す。目を開ければ攻撃が止んでいる。いや、俺が受け止めたのか?
全身が少し痛む。だがさっきまでの何もできない無力感が嘘のように身体の底からチカラを感じる。それに身体も軽い。
男も、そしてシエルさんも目を丸くして驚いていた。俺も頭とお尻に違和感を感じ、その違和感の正体を確かめてみる。
「……!!」
ネコだ、ネコの尻尾と耳が生えている。
今まで無かったものが突如として生える違和感。しかし触ってみると、ちゃんと神経が通っているのか動かし方が直感で分かる。
こんなの戦闘中でなければ暫く触っていたい。だが生憎向こうも状況を整理し再び戦闘態勢に、と思ったが少し様子がおかしい。
「最高、…いや最低だ。私も…、俺も………」
顔を手で覆い男の表情が見えない。言葉も感情も無茶苦茶で、底の見えない男の姿に恐怖が湧いてくる。
「ならば此方も出さねば無作法というもの」
また来るのか!?
実力の底も感情もまるで見えない。不気味なオーラを放つ男と向かい合う。
「そこまでじゃ!」
突如聞こえた老人の声が、この戦いに終止符を打つ。そういえば人を呼んでたと言っていたな。
「すまんな、シエル。遅れてしまって」
「お爺ちゃん…」
体力の限界で座り込んでいたシエルさんが安堵の表情を浮かべる。
「…ハイドラ」
「………」
老人の呼び掛けに男が剣を納めそのまま無言で立ち去っていく。見かけに依らずこの老人があの男より実力者っていうことか。
「君も無事で何よりじゃ」
「はい、ありがとうございます」
「色々と説明せんとな。まずは…」
ここで緊張の糸が切れ、シエルさんと同様に俺もその場に膝から崩れ落ちる。いつの間にか耳と尻尾もなくなっていた。
「…まずは、少し休もうかの」
神樹と呼ばれる木の下で、とてつもなく長く感じた喧騒の末、暫くは満身創痍の身体を休めることにした。
すみません。
2ヶ月も間が空いてしまいましたが第3話更新です。
なるべく早めに次の更新ができるよう頑張ります。




