2 始まりの終わりの新エピソード
イケメンで、あまたの女子を泣かせるハーレムゲームの主人公の幼馴染
この世界は前世自分がプレイしていたハーレムゲームの世界で幼馴染がその主人公だと気が付いた僕は、彼の恋路を応援していたはずなのに!
『隠しエンディングは2種類!そのうち一つはBLエンディングです♡』
僕は前世にプレイしていた、ハーレムゲームのパッケージにされていた帯の文言を思い出した。
2 始まりの終わりの新エピソード
イケメンで、あまたの女子を泣かせるハーレムゲームの主人公の幼馴染
この世界は前世自分がプレイしていたハーレムゲームの世界で幼馴染がその主人公だと気が付いた僕は、彼の恋路を応援していたはずなのに!
『隠しエンディングは2種類!そのうち一つはBLエンディングです♡』
僕は前世にプレイしていた、ハーレムゲームのパッケージにされていた帯の文言を思い出した。
目の前には親友ラルクの顔。
僕の立ち位置は、この世界の主人公であるラルクの親友として彼が、沢山の女性と交際をし、一人に選ぶことを決めるその日まで、影日向となり支えるモブだったはず。
そして、ここはエンディングの告白の丘。
本来ならば、ゲームのヒロインがここに登場して、今頃華麗なエンディングムービーが流れているはずなのだ。
こんなピヨピヨの真っ黒くせ毛で冴えないチビな僕がムービーのヒロインの場所に立っていると想像しただけでがっかりする。
プレイヤーだってこんな僕と結ばれるラルクより、華麗で可憐な美少女たちとの思い出のシーンを振り返りたいはずだ。
僕がこの3年ラルクにしてきたことといえば、女の子との交際を手伝うために陰ひなたとなり走り回っていただけなんだから。
そんな面白くもないエンディングが流れてしまう。
「ちょ……ちょっとまって!」
ぐるぐると頭の中が駆け回り、僕は近づいてくるラルクをぐいぐいと押した。
僕たちが通っていた魔法学園には魅力的な女性がたくさんいた。
それなのに、なんで僕?
「ラルク、炎魔法の使い手のカリンさんと付き合ってたじゃないか?」
僕よりも背の高い彼を、抗議をするように見上げる。
中等部入学式で同じクラスになったカリンさんは、燃えるような赤毛に金の瞳の由緒正しき炎魔法の使い手だった。
彼女ってかわいいよな?と、ラルクは彼女を見てすぐに興味を持ったのだ。
「ああ、彼女は見た目は綺麗だし、魔法の才能も素晴らしい素敵な女性だけど、性格がキツくてさ、俺よりもっとふさわしい人が彼女にはいると思うんだよね」
数年前の事を思い出すように、ラルクは梢に揺れるピンクの花を見た。
プライドの高い彼女は、なまじっかのデートプランでは納得しないし、時間やタイミングも難しかった。
プライドが高く華麗で勝気な彼女に認めてもらうために、ラルクと一緒に生徒会に入ったり、学年でもすべての教科を常に10位以内の成績を収めるために、朝晩のトレーニングに勉強に励んだ日々が思い返される。
体育系が得意じゃない僕は、早朝のマラソンは苦手だったけど
冬の朝に彼女と出会うイベントがあることを知っていたから、朝の弱いラルクを毎日たたき起こしてトレーニングにいそしんだのに……。
「じゃ、じゃあその後付き合ってた、水魔法の使い手で双子のミシェルさんや、リュミエルさんは?」
そう、ラルクはカレンさんとのイベントをいくつかこなした後、事もあろうに一学年下の双子の姉妹へ興味を移した。
しかも、二人共と付き合いたいと言い出した彼の願いを叶えるべく奔走した僕の日々。
奇麗でかわいい双子の女の子との両手に花ルート。
水色の髪に青いサファイヤの様な瞳のそっくりな彼女達は、お互いがお互いにコンプレックスを持っていて。
双子である自分たちは、お互いの全てのことが同じであることが必要だと思っていた。
ミシェルさんは本当は快活で、歌や踊りが好きであったのに対し、リュミエルさんは静かに本を読んだり、散歩したりすることが好きだったから。
二人に合わせたデートプランをそれぞれに用意し
二人同時に交際を進めて行くルートで、二人の好感度を均等に上げていかなければいけなかったが故の、采配や手助けの日々。
デートのダブルブッキングなど苦労が絶えない時期だったことを思い出す。
あの苦労の日々を思い出すと、ちょっと涙が出そうになったが、そんな僕の気持ちには気が付かず
「ああ、彼女たちは彼氏っていうより、お兄ちゃんが欲しかったぽいから」
無駄にイケメンなラルクは何の事も無かったかのように、前髪前をかきあげるような仕草をしながらそんなことを言う。
淡い花弁の舞い散る中、前世のゲームのスチルを思い出しながら
イケメンは何をしても絵になるな。
なんて一瞬現実逃避した。
いかんいかん!
「じゃ、じゃあ。生徒会の副会長だった風魔法の使い手のシルファさんは?」
グリーンの三つ網の髪にエメラルドの様な瞳の眼鏡女子。
眼鏡をはずすと美少女!
という鉄板の設定のヒロインである三人目の彼女の名前を出せば
「彼女とは恋人っていうより、仕事仲間っていう感じだったよなあ」
しれっとそんな風に返された。
カレンさんの時に学業に励んでいた僕たちは、シルファさん攻略はそれほど苦ではなかった。
基本的に高ステータスを維持時ながら学校関係のイベントに従事しておけば、彼女とのイベントは簡単に上がっていく。
彼女との接点は主に生徒会で、ラルクとのかかわりもほぼ学校内のイベントや、それに付随する関連系の出来事が多かったから。
それにしたって、彼女は美人だし淡い緑の髪はみているだけでも癒される
ちょっと冷たい印象はあるけれど、こまめに尽くしてくれるし
料理も上手、家庭的でこまやかな心遣いの出来る秀才美女ですら
生徒会長でもあった、ラルクにとっては恋人ではなく、ビジネスパートナーとしてしか見れなかったという事なのか。
僕の三年間は何だったんだ?
と膝をつきそうになる僕の脇の下に腕を差し込み、抱きかかえるようにしてラルクが支えてくれた。
「大丈夫か?急にいろいろなこと言ってごめん」
彼にぶら下げられるように支えられながら、僕は頭の整理が追い付かずにいた。
「あのさ、返事はすぐじゃなくていいんだ」
彼の言葉にそっと顔を上げれば
「これからまだあと、三年間又同じこの魔法学園の高等科で過ごすことになるわけだから、返事はサクラが落ち着いてからでいいんだ。
だから、中等科の卒業の今日、気持ちを伝えておきたくて……
だってさ、この場所で卒業式の日に好きな相手に告白すると、その恋は実るって言うだろう?」
セリフがあのゲームのそのままに、ラルクの口から紡がれる。
そう、そしてこのまま、場面は花吹雪になってエンディングロールが流れ、キャプチャーを見ることが出来るはずだけど、ここは現実だからそんな風に区切りは来ない。
ちょっとまって、ちょっとまって!と頭の中でひたすらストップがかかる。
勿論、ラルクの事は好きだ。
幼馴染の親友として。
現実今の僕と彼の関係は、家が隣同士で、更に家柄が近いため、家族ぐるみでのお付き合いも多く。
気安く互いの家を行き来しうる間柄だ。
お互いに兄がいることと後継ぎ問題に関係がないことで、気楽に暮らせることも大きい。
しかし、彼は光魔法の担い手で、この国に少数しかいないと言われる魔法使い。
方や僕のほうも魔法を習得はしているが、特に大きく目立つわけでもないこの国においてはさほど珍しくもない土属性の魔術を扱う魔法使いだ。
お隣さんで幼馴染という環境さえなければ、それこそ光をイメージするふわりと癖のある金の髪に湖面に移る新緑のようなエメラルドグリーンの瞳、すらりと背の高も高く、老若男女からのファンも多い彼に、僕がお近づきになれることなんて奇跡でもなければ絶対に無理だ。
かたや、僕のほうは、癖のついたで真っ黒な髪と瞳、背も小さく、小柄で見た目はもっさりとしている。
今まで、女の子に告白されたことなど一度もなく、年齢=彼女いない歴を更新中
自分自身に恋愛イベントが起きることなど、前世でも今世でも一度もない。
そんな僕だったから、そういったイベントに関しては、彼の恋愛を成就させて、そのエンディングを見ることが目標にしていた。
だから急なこんな展開正直困る!
「なあ、一つだけ聞かせて?」
気が付けばじりじりと迫られている僕は、無意識に後ずさりしていたらしく、その告白の樹に押し付けられるようにして、彼に迫られていた。
返事すぐじゃなくていいって言ったのに?
何でーー?!
「な、なに?」
だらだらと、蛇に睨まれた蛙というのはこんな感じだろうかと思いつつ、ラルクのエメラルド色の瞳を見つめ返せば、その瞳の中には途方もなく困った顔の僕が映っていた。
「今、俺の事どう思ってる?
好き?嫌い?どちらかだったらどっち?」
ずるい!
その聞き方は。
ずっと幼馴染で、嫌いだったら恋愛の手伝いなんてするわけないし、そんなのわかりそうなものなのに。
でも、彼が聞きたい好きか嫌いかがそういうたぐいの事でないことも、分かりきってる。
「ねえ?どう思ってる?好きか嫌いかのどちらかだったら?」
だんだんと近づいてくる顔、声。
どちらか、なんて。
「どちらか……だったら、そりゃ好きだよ…だって僕」
だって僕が、好きでもないやつのために、いろいろとするわけないだろ?
そういおうと思ってたのに
そっと顔を持ち上げられて、そのまま唇を重ねられる
あ、さっきみたいな触れるだけのやつかな?って思って油断してたら、そのまま重ねた唇がどんどん密着してきて、強引に唇を割られて、舌がからめとられた。
急な展開に僕は頭が追い付かず、動きが固まってしまう。
そんな僕の咥内を嵐みたいに蹂躙して、嵐みたいなその感覚に涙がこぼれそうになる頃、漸く僕は息をつくことが出来た。
「な……?な……っ」
僕が肩で息をするようにして、ラルクを見上げる
「もしかして、サクラってこれがファーストキスだった?」
しれっとそんなことを聞く幼馴染
そりゃそうですよ!お前の恋愛のお手伝いばっかりで、まったく非モテの俺になんてこと言うんだ!
そしてなんてことするんだ!
「わ……わるいか!」
漸くそれだけ言えば、ラルクは割りびれる様子もなく、笑顔で言った。
「サクラの初めて、もっといろいろもらう予定だから覚悟して」
その笑顔がまぶしくて、綺麗で。
キラキラ光る薄紅の花弁の中
これは、まずい。
ああ、僕。
幼馴染だけど、男同士だけど。
僕。
好きになっちゃうじゃないか。