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第9話

「国家反逆罪……ですか。これはまた、随分と急なことを仰せになりますなぁ」


 マークス殿下の求婚を断って数日後の昼下り――屈強な兵士たちを連れて彼は我が家にやって来ました。

 今度は我がバーミリオン家が国家に対して反逆していると難癖をつけてきたのです。

 そんな家の娘にちょっと前に何で求婚してきたのか理由は教えてくれませんでしたが……。


「その態度が既に反抗的だ。バーミリオン公爵……。この僕のことを心の中で馬鹿にして、舐め腐った態度を取ってることが反逆の証拠と言ってもいい」


「それで、証拠は?」 


「はぁ……?」


「いえ、法的な根拠に基づいて――我が家が国家に対して反逆している客観的な証拠はあるのでしょうか?」


 父の態度をマークス殿下が快く思っていないことは私にも見て取れます。

 しかしながら、家を罰するなら捏造でも良いですから何かしらの証拠を準備するものかと思いましたが、殿下の顔を見ると何もないのかもしれません。


 ――この方は何しに来たのでしょう……。


「以前にも話したとおり、我がバーミリオン家は国家には多大な貢献をしているという自負があります。まさに反逆とは真逆と言っていい位置付けだと思うのですが」


「金をポンポン出していただけだろう。それも王家を借金漬けにして困らせている! お前が借金を返せ、返せと五月蝿いから、国庫は空になったのだぞ! これが国家への反逆でなくて、何になる!?」


 マークス殿下の言い分はまさに言いがかりと言っていい内容でした。

 お金を無利息で借りておいてこちらが無理やり国家を困らせたと怒るとは――。

 まぁ、父も半分以上返ってこないと思って貸したとは言ってましたが。それを理由に怒られるとは思ってなかったでしょう。


「殿下、お忘れのようですが、あなたが借金を返すのは簡単だと仰せになったのですよ? 返すと決めたのも殿下。私は一言娘に詫びれば何も言わぬつもりでした」

 

「ぼ、僕が返すって言っただと? そうだっけ?」  


 演技でないことを願いたいですが、マークス殿下はご自分の発言すら覚えてないみたいです。

 ご自分で余裕だと言いながら、三ヶ月スパンで800億ずつ返すという公文書を作ってサインしたのに――。


「そこの髭の濃いあなた。殿下がここで倹約家として名を馳せる国王になる予定だから、800億など簡単に返してやると仰せになったこと、覚えていますよね?」


「は、はぁ……、それは言っていたような」

「なっ――!?」


 味方であるはずの護衛がつい、口を滑らすと殿下は絶句しました。

 あんぐり口を開けて、パクパク口を動かす光景は哀れというかなんというか……。




「うるさい! お前はいつも偉そうだ! 僕は王族、お前は家臣。その関係を考えよ! たとえ、僕が返すと言ってようが、言ってまいが関係ない! ここまで、王家の財政を苦しめたのは罪である! マークス・ハウルトリアの名に懸けて――お前ら一族を反逆者として捕えることとする!」


 まぁ、いつかはこうなりますよね。

 さて、王子様もお怒りになられたことですし、逃げ出しますか。両親は旅行気分で何だか楽しそうですし――。


 ◆


「ふははははは、最初からこうしちゃえば良かったんだ。僕が気に入らない家は潰す。倹約の邪魔をする家は潰す。王家の借金を取り立てる家は潰す。お前らをぶっ潰せば~~! 多額の金が王室に入り国は潤い、最高の倹約が出来る~~!!」


 如何にも名案を思いついたというような態度でマークス殿下は高笑いし、バーミリオン家を潰すと宣言しました。

 どうやら、私たちを反逆者として捕えて借金を有耶無耶にするどころか財産まで奪ってやろうと考えているみたいです。

  

「天下のハウルトリア王家が盗っ人みたいなことを働こうとするとは。しかもそれを倹約とは笑わせよる」


「盗っ人だと!? この僕を盗っ人呼ばわりするのか!? そもそも、ハウルトリア王家の庇護の元で金儲けをさせてもらっていた癖に、金を貸すなんて生意気なことをするとは何事だ! 寄付させてくださいと頭を垂れて然るべきだろうが!」


 父が挑発するとそれに呼応して殿下は顔を真っ赤にして怒ります。

 どうやら、盗人みたいだという認識をされるのは心外みたいですね……。実際、それ以外に形容し難いのですが……。


「お父様は悲しむでしょうな。長年、王家に尽くしてきたバーミリオン家を殿下が裏切ったとなると……!」


「バァカ……! 父上は褒めてくれるに決まっているさ。莫大な富を得て借金を帳消しにしたんだからな! 後悔しろ! 僕はお人好しの父上とは違うのだ!」


 良いことをしていると信じ込んでいる人間の考え方を変えることは難しい。

 特にマークス殿下みたいに自己陶酔して、自分の能力に謎の自信を持っている人は。


「よーし良いだろう! バーミリオン公爵! お前のことは前から気に食わなかったんだ! ここで土下座しろ! 頭を地べたに這いつくばらせて詫びるのだ」


 サーベルを片手に調子に乗ったマークス殿下は父に土下座を強要します。ニタニタと笑みを浮かべて……。

 自分がこの場を支配していることが楽しくてしょうがないみたいです。


「土下座……? はは、お断りします。この歳になると腰が重くなりましてなぁ。殿下のお戯れに付き合う気力すらなくなるのです」


「お前! この僕の命令が聞けんのか! ええい! 許さぬ! 殺してやる――!」


 しかし父は殿下に屈しません。

 そして、その態度は殿下を完全に怒らせて――サーベルの刃が父の胸元を突刺そうと伸びてきました――。


「まったく、殿下は困ったお人だ。ワシは好まないのですよ。暴力とかそういった類のモノは」


「――っ!? ぶほっ――!!」 


「「で、殿下!?」」


 マークス殿下のサーベルが父に当たりそうになる瞬間――彼は突風によって大きく吹き飛ばされて壁に激突しました。

 父の手には一枚の御札が握られています。


「職業柄、命を狙われることは多々あるので、これくらいの自衛は出来るのですよ。一枚、十万ゼルド程しますが、誰でも魔法が使えるようになったとは便利な時代になりましたなぁ」


 最新の魔道具――呪符の札。

 特殊な魔力が込められていて、札の魔力が尽きるまで魔法を使うことができる優れもののアイテムです。父の握る札には風を巻き起こす魔法が入っていました。

 砂漠の国、ジプティア王国にいる世界一の魔法使いフィーナという魔女が発明したこの魔道具は高価ですが、携帯が楽なので護身用の武器としては最適です。

 父はあの呪符を何枚も所持しています……。


「バーミリオン公爵! 貴様、殿下に狼藉とは何を考えている!? 死刑になりたいのか!?」


「はっはっは、何を言うておる。ワシらを反逆者として仕立てあげたのだ。素直に従うわけがなかろう。殿下のお望みどおり反逆者になってやったまで……!」


 遂に父が国に向かって正面をきって、反逆すると宣言しました。

 殿下の護衛も予想外のことだったのか狼狽しています。

 

「い、生きて逃げられると思っているのか!?」


「ふむ。それは、こちらのセリフだのう。お主ら、たったの十人やそこらでこの屋敷から出られると思っとるのなら、甘い考えぞ」


「――っ!?」


「そこのボンクラを人質にして逃げようと思っとるが、止められるものなら止めてみよ――」


 ハウルトリア王国からの脱出が始まりました――。


 ◆


「さて、バーミリオン家一世一代の逃亡劇だ。ゆるりと逃げようではないか」


「「…………」」


「お、おい! お前ら! 何を簡単に倒されてるんだ! 起きろ!!」


 マークス殿下の護衛、十名は父が呪符を使うまでもなく全員使用人たちに倒されました。

 まぁ、我が家の使用人は全員が世界中から父が集めた手練たちですからね。平和なこの国の兵士たちとは鍛え方が違うのです。 


「さて、これから殿下には人質になってもらいましょう。どうなるのか楽しみですよ。王家の意向が」


「何を言っている!? 僕が人質などに取られたら、誰もお前に手を出せなくなるじゃないか! 国の至宝だぞ僕は!」


 ああ、父もお人が悪いです。

 人質に取られた可哀想なマークス殿下に対して、ヘムロス宰相が……、それとも復帰なさるという噂の国王陛下がどういう対応をするのか見せて差し上げようというのですね。

 

 果たして人質の身を最優先にするのかどうかをマークス殿下自身に分からせようとするなんて、そんな残酷なことを――。


「ちくしょう。何とか逃げねば、王室はこいつらの言うことを全部聞いてしまう! 反逆者の言うことなんかを」

 

「不満そうな顔をしてますなぁ。殿下のお望みどおり、反逆者になってあげましたのに」


「……お前ら、覚えておけ! 全員、生まれたことを後悔するほどの苦痛を与えた後に惨たらしく殺してやる!」


 まるで、悪人みたいなセリフを吐くマークス殿下。

 そんなにこちらを挑発しても大丈夫でしょうか?

 こちらが逆に殿下のことを拷問できる立場なのですが。


「では、殿下。バーミリオンカンパニーに参りましょう。明日は面白いことになりますよ」


「ば、バーミリオンカンパニー? 国外に逃げるのではないのか? お前らの会社とやらがある片田舎の領地ではないか!? そんなところ、我が王家の軍隊にかかれば簡単に踏み潰されるぞ!」


 私たちは王都から離れたバーミリオンカンパニーに向かいます。

 そこは、バーミリオン財閥の本拠地と言える場所で、様々な産業の中心地です。

 尤も、ちょっと前まで人口が少なかったので殿下の認識では“田舎”みたいですが……。


 

 先代国王に好きにして良いと与えられた土地はまさに国家とは半分独立しており、独自の発展を築いていたのでした。

 現在、他国に行けなかった商売人たちや倹約政策で食べていけなくなった平民たちも多く流入しており、更なる発展をすることは間違いないでしょう――。




「くそっ! 離せ! 僕はうさぎの毛皮の敷物じゃなきゃ馬車に長時間乗れないんだ!」


 あれ程、倹約、倹約と言っていた殿下は馬車の乗り心地に対して文句を言い出しました。

 この方は自分の立場を分かっているのでしょうか?


 父はハウルトリア王家が殿下を奪われたことに気付く前にさっさと馬車を走らせました。  

 しかしながら、それは直ぐに王家に伝わります。

 なんせ、バーミリオン財閥の関係者である国民たちがこぞって大行進を始めたのですから。

 

 そう、父の逃げるは即ち、戦力の結集なのです。

 バーミリオン財閥の力で国家に対抗するための――。


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