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第8話(マークス視点)

 許すまじ、許すまじ、許すまじ、許すまじ、許すまじ、絶対に許すまーーーーーーーっじ!


 バーミリオン家、許すまじ。ルージア・バーミリオン、許すまじ。贅沢病の諸悪の根源、許すまじ。


 この僕を! この倹約王子と呼ばれていると思われる僕を! ただのケチでセコいだけの男だと!?

 倹約など出来ていない、と言っているのか。

 この僕の手腕によってどれだけ国庫が助かっていると思ってる。

 借金を返しても、国家予算に余裕が――


「マークス殿下! お願いしますよ。バーミリオン公爵に頭を下げて幾らか工面してもらうようにしてください! 返済期間の延長も含めて! 国庫が既に空っぽになりかけています!」


 国庫が空っぽになりかけてるだと!?

 僕があれだけ頑張って倹約してるっていうのに。

 ちゃんと税金も増やしたし、無駄金を使っている公共事業は全部中止にした。

 削りまくったのだ。それでも、足りんというのか。


「バカを言うな! 国家収入は大幅に上がっただろう? 僕は倹約を頑張った!」


「殿下のされたことなど、一時しのぎにしかならないですよ。これ以上、国民に負担を強いれば、国の衰退は目に見えていますし。三ヶ月に一度、800億の返済など無理があったのです!」


「貴様! 僕の財政策に不満があると申すか!?」


「ひいっ……!」


 まったく僕に意見するとは生意気な役人だ。

 こいつ、まだ王立大学を卒業したての新人じゃないか。

 僕よりは歳が上だが、勉強しかやってなかったような顔だし。確か、貴族出身だったな。大方、甘やかされて育ったから崇高な倹約精神もあったもんじゃないんだろう


「人のやり方にケチをつける前に、お前ら役人の努力不足ってことは考えられんのか? お前らの能力が低いから予算が足りんとか抜かしてるんじゃないのか?」


「そ、そんな、私たちはこの国のために尽力して――」


「では、この僕が。このマークス・ハウルトリアが国のためにお前らよりも働いてないとでも?」


「いえ、そういうわけでは決してありません。も、申し訳ございませんでした……!」


 ったく、自己を客観的に見ることが出来ずに自分のことを過大評価するやつっているよな。

 こういう奴が変に政治にやる気を出すから間違いが起こるんだ。

 役人の採用試験を今度から僕が監修しようかな? 頭でっかちじゃなくて、もっと謙虚で崇高な道徳精神を持つ者を採用せねばならんぞ。


「お前、もう役人辞めていいよ。この国の倹約精神が理解出来ずに泣き言を述べるような奴は要らん」


「そ、そ、そんなぁ――、マークス殿下! どうかそれだけは」


「ふんっ……! 生意気に僕の完璧な政策にケチをつけるからだ」


 すがりつくぐらいなら、僕に文句など言わなきゃ良かったのに。

 身の程知らずが身を滅ぼす。因果応報だな……。


「まぁまぁ、殿下。彼も謝っていることですし、許してやって下さらんか?」


「ヘムロスか……」


 宰相をやってるヘムロスがこっちに来て、この役人を許せという。

 ふむ、そうか。ヘムロスがそういうなら、許してやってもいいか。

 よく考えたら、こんなやつどうでも良かったし。


 ◆


「ヘムロス、それにしてもあの男は何なんだ? 国庫が空になっただのあり得ぬことを言っておったが」


 若い役人に国庫が空になったと絡まれたが、冷静に考えればそんなはずがあるまい。

 僕は倹約しまくってたし、国民にも無駄金は使わせず、税金もきっちりとった。返済分は簡単に補えるくらいになっているはずなのである。


「空っぽ……、とまではいきませぬが、それに近いくらいの状態にはなっておりますな」


「何ぃっ!? 何をしとる! 宰相であるお前はそうなる前に何もしとらぬのは責任問題では無いのか!?」


「はぁ、返す言葉もありませぬなぁ。ヘムロス、一生の不覚だと思っております」


 なんだ、なんだ、ヘムロスのやつ。まさか、僕の政策を怠けて行っていたのではないか?  

 こいつは忠義心に厚いと思って信頼してきたが、ここに来て僕の期待を裏切りやがった。

 まったく、どいつもこいつも使えぬ連中ばかりで気分が悪い。


「いやはや、マークス殿下がお怒りなのも尤もです。陛下のご病気もようやく回復の兆しが見え、来週には国政に復帰なさりますからなぁ」


「そうだぞ、ヘムロス。父上がお前のせいで国庫が空になったと知れば、ただでは済まさんだろう。死罪もあり得ると思え」


 この男、責任感が無いわけじゃないのか。だが、世話になったことがあるとはいえ、無能であることはそれだけで罪だからな。

 しかも、こいつは宰相という地位だ。無能な働き者ほど周囲に迷惑をかけているという言葉もある。

 やはり、許されることじゃあないだろう。


「ええ、ええ。やはりやってしまったことへの責任は取らないとなりませぬ。殿下も共に責任を取ることになることはご承知でしょうが、冷静さを失わずにいらっしゃるのは流石でございますなぁ」


「………………………はぁ?」


 んっ? なんか、こいつ変なこと言わなかったか?

 父上が復帰したら僕が責任……? 何で……?   

 

 だって、僕がやったことって倹約を政策を進めたことだけだよ? 良いことしかしてないじゃん。

 ジェーンの件も本当は誰の子か分からないけど純愛ってことにして、事なきを得ているし。


「ヘムロス、責任逃れがしたいからって、馬鹿なことを言うな。考えてみたが、僕に怒られる要素は一つも無かったぞ」


「一つも……ですか?」


「もちろんだ! 有能な僕が考えた政策は贅沢病に冒された国民たちに良薬を処方したも同然! 王都の様子を見よ! 質素で慎ましい生活を皆が行っているのだぞ。この団結は僕に皆が賛同してくれた結果だ! みんな質素にしようと努力してくれるようになったのだからな!」


 僕は贅沢なことをしていないか、毎日街に行って国民の生活をきっちりと監視している。

 雨の日も風の日もどんなに体調が悪くとも、根性のある僕は一日たりともそれを怠らなかった。


 するとどうだろう。国民たちがどんどん慎ましく、質素倹約に努めていったのだ。

 やはり、必死で頑張る人間の気持ちって伝わるんだなーって。


「国民は努力などしとりませんよ。特に平民は単純に貧しくなっただけでごさいます」


「はぁ……?」


「収入が減れば財布の紐は締めざるを得ないでしょう。殿下の倹約政策とはすなわち活動することを止めようと努力すること。経済活動が死んでいるのですよ。様々な業種の業績が悪化して、それが連鎖的に他の業種を苦しめました。――ですから、平民たちは総じて貧しくなったのですよ」


 あー、なるほどね。みんな貧乏になったから、お金を大事にするようになったのか。

 じゃあ、良いことじゃないか。金なんて後から稼げば良いし。


「陛下が貧しくなった国民たちを、バーミリオン家への借金返済に喘ぐ王室を、その状況を作り出した殿下を見るとどうお考えか分かります?」


「んっ?」


「殿下、陛下は決して許しません。このヘムロスのことも、殿下のことも。それは覚悟しておきましょう」


 ったく、ヘムロスのやつ、自分が怒られるからって僕を脅そうとするのはやめろ。

 僕が演技を見抜けなかったらどうするんだ。まったく、面倒な男だ――。

 

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