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第5話

「ふーむ。贅沢を禁ずる法律とな。最近の若者の考えは分からんわい」


 葉巻をプカーっと吹かせながら父はマークス殿下が新しく作った法律について言及しました。

 聞けば、陛下が体調を崩した際に施行した法律。

 これは国民全体の王室への評価が一気に変わりそうです。

 贅沢の禁止と倹約を強制されるストレスは大きいでしょうから。


「お父様も責任を感じてください。マークス殿下がこんな法律を作った原因なのですから」


 私はあまりにも他人事な口調で新しいシガーナイフと葉巻を楽しんでいる父を咎めます。

 父がマークス殿下を挑発するようなことを仰るから――あの人は無茶苦茶な法律を作ったのです。


「まぁ、国王陛下がストッパーになると思うとったからのう。それに我が家を潰すというのなら、こんな法律を作るとは思わんかったし。だって我が家には関係ない法律なんだもん」


 倹約として貯蓄を義務付ける法律も、嗜好品に100%以上の税率をかける法律も、何もかもが父にとっては無意味でした。

 それはそうです。すでに王家から800億ゼルドを返してもらっているのですから。

 特に何もしなくても貯蓄など増える一方です。

 嗜好品を多少使ったところで父の懐の痛みは皆無なのでした。


「我が家が良くても他の家が良くないでしょう。サービス業を営む方々が特に可哀想です」


「それはお前の言うとおりだ。バーミリオンレストランなどは既に打撃を受けておる。利用する者が単純に減ったからのう」


 呑気そうに葉巻を嗜む父はバーミリオンレストランなどの飲食店などが色々と割を食っている話をします。

 それなら、何らかの対策を打った方が良いのではありませんか?


「とりあえず、希望者には国外の職を斡旋するようにしとる。まぁ、あの王子が気に入らない者は国を出ていけというスタンスを取ってくれたおかげではあるが」


「まさか、国外追放処分を逆手に取っているのですか?」


「如何にも。マークス殿下は贅沢税に反対の意思表示さえすれば簡単に追放してくれるから、やりやすい」


 煙をモクモクさせながら父は恐ろしいことを言っております。

 もうこの国を見限っているではないですか。

 まさか、お父様は――


「お父様、公爵の地位を捨てて他国に移住するつもりではありませんか?」


「さすがは我が娘、鋭いではないか。ワシの夢は世界中を旅することじゃったからな~~。いい機会だし、金を回収するだけしたら平民になるのも悪くない」


 いやいや、そんな予感はしてましたけど簡単にいくはずないじゃないですか。

 完全に王家を敵に回しますよ。家族が諸共に打ち首なんてこともあり得ますし。


「大体、お母様が許すはずがありません。そんなこと」


「ルージア、この服はどうですかぁ? 毛皮って買ってみたのは良いけれど、この国では暑くて着る機会がありませんでした」


 思ったよりも三倍はノリノリの母が毛皮のコートを何着も持ってきて私に感想を求められました。

 既に母には話していたのですね。父の行動力には驚かされます。


「雪国に行ってみるのも良いなぁ! わっはっはっはっはっ!」


 国外に逃げ出したら、真っ先に雪国に行くことが決定した我が家。

 私はため息をつきながら、笑っている両親を見て、逞しいなぁと半分感心していたのでした――。


 ◆


「マークス殿下、火急の用事だと聞いて急いだのですが、ご用件は何でしょう」


「もぐもぐ……。んぐっ……! ゴクゴク……、ぷはぁ……! もぐもぐ……」


 マークス殿下が贅沢税などの法律を施行して二ヶ月が経過しました。

 ちょっぴりふくよかだった彼はかなりシャープになっており、端正な顔立ちに様変わりしています。

 とはいえ、如何せん痩せ過ぎと思わないでもありませんが。頬が少しだけコケている気がしますし。

 倹約がそのままダイエットに繋がっているとは、この方はズレたことを言う人だと思っていましたが、筋は一応通しているみたいですね。


 

 ――いつまで、食事を続けるおつもりでしょう。

 

 

 もしや、バーミリオンレストランならタダ飯にありつけるから私に会おうとか思ったのでは?

 確かに今まで全部私が精算していましたが……。

 

「んぐっ……、モグモグ……、モグモグ……、んぐっ、んぐっ、ぷはぁ。――ふぅ、相変わらず贅沢塗れの不味い食事だ。……それで、ルージアよ。用件というのはな――」


「はい……」


「あっ! これと、これと、これは包んでくれ。持って帰るから……!」


「あの、もう帰ってもよろしいですか?」


 元婚約者の家が経営しているレストランのメニューを全品制覇する勢いで食べておきながら、その味を貶すとは本当に良いご身分ですね。まぁ、皇太子ですから、良い身分なんですけど。

 使用人たちに必死で食事を持ち帰るために、どこで買ってきたのか分からないくらい巨大な容器に詰めろと命令する殿下を見て……私はもう帰りたくなっていました。


「まぁまぁ、眉間に皺を寄せるな。今日は贅沢病に蝕まれているお前にイイ話を持ってきてやったのだ」


「良いお話ですか?」


 それだけで嫌な予感がします。

 元婚約者に会って、いいお話があると聞かされて、本当に良い話だとはとても思えません。


「実はな、贅沢税の取り立てと倹約の義務付けをより確実なモノとするために、ある組織を作ろうと思ってな。名付けてマークス倹約財団だ! カッコイイだろ?」


「…………」


「それで、な。お前に寄付して欲しいんだなぁ。この栄光ある財団に寄付できるなんて名誉なことだろ? まぁ、取り敢えず1000億ゼルドくらいでいいからさ」


 そんなバカみたいな財団に誰が寄付するのでしょう。

 それに私に言っても無駄だと思うのですが……。

 そもそも、そんな組織なんて立ち上げたら国民たちから非難轟々でしょうね。ただでさえ、既にマークス殿下は嫌われていますから。


「その規模のお金のお話は父でないとどうしようも出来ません」


「わからん奴だな、お前から父親を説得しろと言っているのだ。あの横柄な男はこれだけ倹約を強いても、税金を払っとるから、貯蓄をしとるからと屁理屈を並べて相変わらず贅沢な生活を続けておる」


「はぁ……」


「あの男は贅沢に侵食されすぎて僕の言葉に耳を傾けんだろう。だが、娘の君が倹約に目覚めたと父親に説けばきっとその素晴らしさに気付くだろう」


 目をギラギラと輝かせながら、訳のわからない高説を述べるマークス殿下。

 そんな馬鹿なこと私が説得するはずないじゃないですか。


「おかわり~~!」


 旺盛な食欲を見せつけるマークス殿下を見ながら、この方はあと一月後に800億ゼルドを払うことになったらどうするつもりなのだろうと要らぬことを考えてしまいました――。

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