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第2話(マークス視点)

「マークス様、ここのところ毎日出て来られていますが、大丈夫なのですか?」


「はっはっは、大丈夫だよ。大丈夫。今日は贅沢三昧してる不埒な婚約者と婚約を解消してやったんだ」


「えーーっ! あの、ルージア様と別れてしまわれたのですか!?」


 今日も僕は王都の外れにある平民たちの居住区の酒場に足を運ぶ。

 お忍びで王子が店にくるというシチュエーションが好評で、僕はここではめちゃめちゃモテていた。

 いやー、男に生まれて良かったよ。しかもルージアと別れた話をするとみんなが一斉に驚くんだもんな。

 そんなに僕がやったことが意外だったのかな? よし、ここぞとばかりに庶民派の王子ってとこをアピールするぞ。


「まぁ、僕は倹約こそ美徳と考える新しいタイプの王子だからね。贅沢病に冒されたバカな貴族の女なんてこっちから願い下げなのさ」


「ルージア様ってそんなに贅沢な方でしたの?」

「私はバーミリオンブランドの宣伝のために着たい服とかも我慢したり、食べたい物も我慢してるって聞きましたけど」


 おや? どうもおかしいな。ルージアが贅沢者だって言われてもっと同調されると思ったのだが……。

 ははーん。この子たちは平民だから貴族って生き物にそんなに詳しくないんだな。

 あの女が着てる服の値段が何十万ゼルドするのかとか知らない世界の話なんだ。


「でも、ルージア様の先月の頭頃に着ていたドレス素敵だったわー」

「あれって、一千万ゼルドはするみたいよ。セレブ御用達みたいな」

「この前のバーミリオンホテル主催のパーティーで着てたのは二十万ゼルドくらいだから、手が出ないこともないけどね」


 何か僕を置いてきぼりにして、ルージアの話題で盛り上がっているのだが……。

 なんだ? あいつって、庶民の敵だと思っていたが人気があるっていうのか?

 これはいけない。まずい、まずいぞ……。



 ――平民たちも贅沢病に取り憑かれている。



 やはりバーミリオン家はこの国を腐らせる害敵だ。

 国家がこのままでは、このままでは贅沢と怠惰に塗れて死んでしまう。

 僕が変えなきゃ! 僕が何とかしなきゃ! 皇太子であるこのマークス・ハウルトリアが病によって死にゆくこの国の医者となり倹約という薬を処方せねばならん!


 ふっふっふっ、こういう危機感っていうのは燃えるね。国を救うという大義を背負うって状況は非常に唆るじゃないか。


 だが、その前に素朴な庶民の女の子に僕の心を癒やしてもらうとしよう。


「なぁ、エミル。僕もフリーになったから、さ。一晩どうだい?」


「あっ、ごめんなさい。殿下、この店はそういう店ではないのですよ」


「へっ……?」


 何か普通に断られたんだけど。確かにこの店の娘とは一度もそういうことにはなってないが、奥ゆかしいだけかと思ってた。

 婚約者がいる王子とは付き合えないみたいな。だって、僕は皇太子だよ? 皇太子が誘ったら、普通はさぁ……。


「じゃあ、ジル。君はどうだい?」


「えへへ、殿下に誘って貰っちゃいました~~。でもぉ、私にもお仕事がありますのでちょっとごめんなさ~い」

 

「あれ……?」


 また断られたんだけど?

 今日は調子が悪いのかな? 全然、いつもヤれたのに……。

 

「ちょっとマークス殿下、あっち系の店にも行ってたんでしょう?」

「それ聞いたことあります。お小遣い沢山もらえたってジェーンが」

「ジェーンって、月に何人とヤッてたっけ? 病気とか殿下は大丈夫なのかしら……」


 ヒソヒソ声で僕のことを話す庶民の女の子たち。

 まさか、そうなのか。あー、そういうことか。

 

 僕のことを取り合いになって職場の雰囲気が壊れるのを嫌がったのか。

 なるほどね。いや、それは僕の配慮不足だった。

 いや、やっぱり奥ゆかしい庶民の娘はいいなぁ――。


 今日は父上に呼び出された。

 大体の理由は分かっている。ルージアと別れたことを報告していなかったからだろう。

 まぁ、あんな報告いつでも出来ると思って昨日は遊びに行ってしまったからな。

 もちろん、高い店には行かない。庶民の店でちゃんと安く済ませている。

 何十万ゼルドもするワインなど飲まん。一本、数千ゼルドで十分に楽しめるのだ。

 王子が来る店と評判になっても宣伝料は取ってないし、飲食代を割引するぐらいで良いと寛大なところも見せてるし、町での僕の人気も上がっていることだろう。


 ――やはり、民が居てこその王族だからな。


 平民に愛されぬ皇太子など、国を背負う資格はない。僕はこの国の歴史を変える男になってやるのだ。


 さて、父上にも婚約破棄を報告せねば――


 ◆


「この大馬鹿息子がァァァァァァァァ!!」

「――っ!?」


 謁見の間に入った瞬間だった。

 僕は国王である父上にアホみたいに大きな声で怒鳴られてしまう。

 嫌だなぁ。父上……、いきなり僕のことを怒鳴るなんて酷いじゃないか。


「うわっ、と。やれやれ、どうしたのです? 急に大声を出して、驚いたじゃありませんか」


「驚いたのはこっちじゃ! 貴様、本気で自分がしたことを分かっておるのか!!」


 ふーん。思った以上に怒ってるみたいだな。

 まぁ、父上はバーミリオン公爵と古くからの知り合いらしいからね。だから、公爵に死ぬほど媚を売られて仕方なく僕との婚約を結ぶことを許したんだろう。

 しかしなぁ。私情を挟んで息子の婚約を決めるのは頂けない。

 贅沢な女が国を崩壊させた例がいくつもあるということを父上がご存知ないのは残念だ。


「父上、ルージアは贅沢な女です。常に最高級品を身に着けて、最高級レストランで高級食材に塗れた飯を食い、湯水の如く金を使っておりました。このまま婚姻すれば、あの女が王室の予算を食い潰すことは自明の理です」


 僕は簡潔に分かりやすくルージアの危険性を主張する。

 あの女が僕と会うたびに金を何万ゼルド使っているのか、こんな女が王家に嫁いで来たら王室の金を食い荒らすに決まっているのだ。

 これだけ必死の表情で訴えている僕の心が通じぬはずかない。父上にも熱い血が通っているはずなのだから。

 

「予算を食い潰したのはお前の方じゃ! バーミリオン公爵は多額の納税以外に二十年以上にも及び、無利息で王室に融資してくれていたのだ! 催促もすることなく、今日まで良い関係でいてくれたにも関わらず、お前の不始末で借金を返すように請求してきおった!」


 なんだ、そんなことか。金を借りていたのは知らなかったな。

 ただ、はした金を貸したくらいで大きな顔をするならば……いっそのこと返してしまった方が良いのでは……? そもそも弱みをいつまでも放置しておくわけにはいかんだろう。


「だったら返せば良いでしょう。父上、金に踊らされるのは為政者としてどうかと思いますよ。ポンと借金を返して、バーミリオン家にこれ以上増長させないようにしましょう」


 我が国の国家予算は一兆ゼルド。一個人から借りた金額なんて微々たるものだ。

 倹約はせねばならんが、贅沢病の諸悪の根源たるバーミリオン家に大きい顔をさせないために借金くらいは返して綺麗な体にならなくては。


「8000億ゼルド……」


「はぁ?」


「8000億ゼルドだ! 8000億ゼルド! バーミリオン公爵は国家予算の8割相当をまるっと返せと申してきおった! 明日、お前は土下座でも何でもして、謝ってこい!」


 バーミリオン公爵に8000億ゼルドも借りていたという父上。

 そんなバカなことがあるか。きっと父上は騙されている。

 おのれ、贅沢病の根源――悪の巣窟バーミリオン家め!

 明日、この僕が乗り込んでビシッと説教してやる!!

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