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最終話

「ゲヘル盗賊団のリーダー、ゲヘルを捕縛。ズルース伯爵がその後ろ盾だったことも判明し、身柄を拘束されたみたいですね」


「結構、結構。マークスを泳がした甲斐があったというものだ。はっはっはっ!」


 父の目論見どおり金鉱山の利権を隣国と結託して奪おうとするズルース伯爵とその手先である盗賊団のリーダー、ゲヘルは泳がせていたマークスという餌に食い付き釣り上げることに成功しました。

 

 この国には隠れてゲヘルのような悪党を飼いならし、略奪品の横流しをしたり、利権を奪ったりする貴族がいます。


 そんな貴族にとってマークスの悪評は隠れ蓑として利用しやすいと考えたのでしょうが、父は彼を監視させていましたので、ゲヘルの接近にいち早く気付く事が出来ました。

 そして、そのゲヘルを追跡してズルース伯爵との繋がりを白日の下に晒すことに成功したのです。


 バーミリオン財閥は規模の大きさゆえにそれなりの被害を受けていたのですが、当時のハウルトリア国王は捜査に乗り気ではなかったのか、ほとんど動いてくれなかったらしいです。


 そんな流れもあって、国王になった今……父は大捕物をしているのでしょうが――。



「……それで、マークスを取り逃がしたのはワザとですか?」


 私は父に一番気になったことを質問しました。

 ゲヘルに担がれたマークスは当然のことながら現場に居たでしょう。

 にも関わらず、彼が捕まったという報告はありません。

 これは妙な話です。作為的なものを感じます……。


「ゲヘルの確保を優先したまでだよ。マークスなど安全な牢獄に閉じ込めてもつまらんし。そろそろ、あやつに自分の犯した罪に対する罰が下るじゃろ」


「……趣味が悪すぎます。国民が迷惑してるのです。早く捕まえるべきでしょう」


 父の悪趣味が出ました。

 おそらく、後ろ盾も無くなり……更に盗賊まがいのことをしたマークスが町中で国民たちから非難されて、リンチでも受ければ良いとお考えなのでしょう。

 それでも、私はあの手の人間は追い詰められると何をするか分かりませんし、行動力だけはありますので暴走すると多大な被害が出るのではと懸念しています。


「はぁ~~、お前も心配性だのう。では、好きにするがよい。ワシは放っておくから、お前がマークスを見つけて捕まえるなりすればいい。王宮に閉じこもっていても暇であろう?」


「ウォーキング感覚で指示を出さないでください。しかし、嫌な予感がしますから……マークスを見つけ次第、拘束します」


 こうして、私は元婚約者にして元皇太子のマークスを捕まえるために動くことにしました。

 彼のことをよく知る元世話係のリリアを連れて。 


「食い意地が張っている方ですから、飲食店でも探れば直ぐに見つかるかと。お腹が空いたら、ひょっこり顔を出しますから」


 リリアは犬猫を探すみたいな感覚でマークスはお腹が空いたら見つかると予測しました。

 そ、そんなに簡単に見つかるものでしょうか――。


 ◆


「ぼ、僕は王子だ! いや、この国の王になる男だ! そんな僕にこんなこと! ぶへっ――!」


「何が王子だ!? 何が王だ! ふざけんな! この食い逃げ野郎!」

「オラオラオラオラ、てめぇには恨みしかねぇんだ! ここで晴らさせてもらうぜ!」

「あんたのせいで、こっちが商売にどれだけ苦労したか!」

「お前がうちの親父の店を襲ったから……!」


「うぎゃあああっ! 痛い! 痛い! やめてくれぇぇぇぇ!!」


 リリアが案内してくれたマークスが好んで通っていた元王都にある食堂の前であっさりと彼を見つけることが出来ました。


 しかし、目の前に広がるのは凄惨なリンチでした――。


 どうやら、マークスは食い逃げをしようとしたらしく、それを許さない店主や彼に恨みを持つ者たちが集まり彼に暴力を振るっているみたいです。


 彼の服装は既にみすぼらしく汚れており、顔はパンパンに腫れ、体中に打撲などの痕がついておりました。


 そんな酷い状態にも関わらず自らを王子だと、未来の王だと主張出来るのですから、ある意味では大したものだと思います。

 無駄に気高い……とも言えますが……。


 今のこの状況だと丸っきり煽りにしか作用せずに人々の暴力は一層苛烈になっていました――。


「それで、助けるのですか? あの人を……。この状況でマークスを助けようなんてすると確実に顰蹙を買いますよ」


 リリアは集団リンチに遭っているマークスを助けるのか否かを尋ねます。

 そうですよね。ここで彼を助ける真似などしたら、私にも敵意を向けられるかもしれません。


「だとしても、助けないわけにはいかないですよ。これ以上、放っておくと死んでしまいますから」


 私はマークスを助けようと前に一歩踏み出しました。

 もはや、戦敗国の王子というより犯罪者ですが見殺しにするのは寝覚めが悪いですから。

 どのみち、牢獄に入って処刑されるとしても誰かを殺人者にするよりかはマシです。



「もういいでしょう。マークスの行いは処せられるべきことですが、それはバーミリオン王宮が執り行います……」


「「――っ!?」」


「ルージア王女! しかし、マークスを野放しにしたのはあなたの父上ですよ!」

「そうだ! 王宮が日和ってるから俺らが代わりにこいつをぶん殴ってんだ!」


 私がリンチを止めようとすると、殺気立った人々がやはり反発しました。

 彼らの言うことは正論です。父がマークスを放置するからこんなことになっているのですから。

 

「確かに彼を放置したのは父のミスです。ですから、マークスによる損害などは父が損害額の倍額を補填します。ここは、私たちの顔を立てて頂けませんでしょうか?」


「うーむ。ルージア様がそういうのなら……」

「補償金が貰えるなら私たちも別に……」


 私は何とかこの場を納めようと集団リンチをしている人々を説得しようとします。

 その甲斐があって、皆さんの手が止まってくれました。

 ふぅ、これでやっとマークスを拘束――。


「はーはっはっは! よくぞ僕を迎えに来た。流石は僕の妻となる予定の女だ! 褒めてやるぞ! さっさとこの馬鹿共を僕から引き離せ! というか、殺せ!」


「んだと、このクソ野郎!」

「誰が馬鹿共だ! 馬鹿はお前だろ!」


「ぐぎゃーーーーーーーーっ!!」

 

 調子に乗ったマークスに反発した人々は再び彼に暴力を振るいます。

 もう駄目かもしれません――。


 ◆


「かはっ、かはっ……、このバカ女共! もっと早く僕を助けろ! クソッタレ!」


 マークスの煽り文句のせいで暴力は一層酷くなりましたが、何とかこの場を納めて彼は解放されました。

 血反吐を吐き出しながら、悪態をつくマークスからは異臭が漂っています。

 もはや、王子だったときの面影は一切無くなっていました。


「おい、何をボサッとしている。早く飯をもってこい。気が利かないバカ共だな」


 何でしょう。この方、凄いですよね……。

 あれだけ、凄惨なリンチに遭って、傷だらけなのにも関わらず……、もう王子などと誰も認めていないにも関わらず、こんな態度が取れるのですから。

 

 この方、どうしたら心が折れるのでしょうか……。


「ルージア様、どうします?」


「もちろん、拘束して牢獄に入れます。その後、死刑になるとしても我が家が決着をつけるべきですから」


 改めてマークスの処遇をどうするのか尋ねてきたリリアに私は牢獄に彼を閉じ込めると告げました。

 この人を牢獄に入れたとて、反省などしないことは分かっています。

 しかし、それでも国家君主が変わるまでの騒動に発展したこの事態。

 その中心人物であったマークスを放置するなどあり得ないです。


 父の言うとおり放置しても野垂れ死にするだけだと分かっていても、悪事を企む者を釣る餌になりうると分かっていても、人々に迷惑をかける可能性を無視する訳にはいきません。


 今回は死者が出ていないから良かったものの、お金で解決出来ない問題は必ず出てきます。

 結果的に国の為になるとしても見過ごせません。


「な、何だ!? お前ら! 僕を誰だと心得る! 真のハウルトリア王国の王、マークス様だぞ! 縄を解け! ルージア! お前、ボサッと見てないで助けろ!」


 マークスは憲兵に縛られて、涙目になりながら助けを求めます。

 ですから、助けて差し上げているのですよ。こんなところで、こうしているより牢獄の中の方が余程居心地がいいでしょうし。


 

 ◆ ◆ ◆



「なんだ、もうマークスを見つけて拘束したのか。仕事が早いのは結構だが、真面目すぎるのう」


「お父様の撒いた種で、これ以上の被害が出るのは看過できませんから」


「ワシが間違っていると主張するのだな……」


「今回の件に関してはそうですね」


 父はマークスを捕らえたことを告げると、つまらなそうな顔をされました。

 どうやら、思った以上に早く拘束したことが気に入らなかったみたいです。


 バーミリオン財閥が悪徳貴族と隣国から受けた損害額がかなり多かったらしいですから。


 ですから、父が国王になって一番力を入れていることが隣国に利権を売ろうとしている貴族の特定でした。


「まぁ、よかろう。ズルース伯爵を捕らえたし、他の連中も同じ餌には簡単には食いつかんだろうし」


 無表情でそんなことを呟いて頷いた父の執務室から私は出て、自室に戻ろうとしました。

 しかし、その途中で息を切らせた兵士に私は呼び止められます。


「ま、マークスが脱獄しました……!」


 いや、さっき投獄したばかりですよ。

 いい加減、疲れてきました――。


 ◆


「思えば、あれから色々なことがありましたね……」


 私はたった一人、抜け殻のようにガランとした宮殿でここまでのことを思い返します。


 やっと捕まえたマークスはハウルトリア王家に代々仕えていたという役人の孫の憲兵によって元国王共々、逃されました。

 父はその憲兵がいつか逃がすだろうと、マークスが捕まるのを待っていたのだろうと、これで裏切る可能性がある者をまた洗い出せると喜んでいました。


 私はいい加減にして欲しいと思いつつ、マークスの足取りを追います。

 そもそも、国中がマークスの敵ですから憲兵が如何にハウルトリア王家に忠誠を誓っていようと簡単に逃亡など出来なかったみたいです。


 憲兵と元国王は案の定、リンチに遭って倒れており、マークスだけが彼らを置き去りにして一人逃亡を続けるという状況に……。


 しかし、彼にとってはそれは不幸の始まりだったのかもしれません。


 とある悪魔崇拝者たちが、倹約政策で多くの人間をどん底まで突き落としたマークスを悪魔の生まれ変わりだとして、彼を捕まえます。


 そして、マークスに降魔術を用いて彼に悪魔を憑依させました。


 悪魔となったマークスはというと、途轍もない力を持ち……バーミリオン王国に多大なる被害を――とならなかったことが不幸中の幸いです。


 何故なら、マークスは悪魔になった途端に首を切り落とされて生首の状態で台上に置かれて崇められていたのですから。


「おおっ! ルージア、丁度良いところにやって来たな。そろそろ、城に戻りたいんだ。あと、ずっと首元が痒くてな掻いてくれないか?」


 生首になっても、ヘコまない彼は死なないんだそうです。

 除霊師の力を借りれば、と思いましたがマークスのボディに悪魔が馴染みすぎて霊を出すことが出来ないと。

 世界でも最高峰クラスの除霊師でないと無理だと匙を投げられましたので、地下牢に厳重に閉じ込めておくことにしました。


 そんな中で父が突然に病死しました。

 医者によると病を隠しておいてほしいと頼まれたらしいです。

 

 どうも、最近は調子がおかしいと思っていましたが、自分がもう長くないとご存知で、急いでバーミリオン王家を盤石にしないとまた混乱が起こると焦っていたみたいです。


 

 ――つまり、私が父の跡を継ぐことになりました。

 正直に申しまして私など、王になる器ではありません。

 もっと言えば、父のように商才があるわけではありませんので、この先のことを考えると怖いです。


 しかしながら、どんな逆境でも不屈の魂で折れなかった元婚約者を知っていますので、その前向きさだけは見習って前を向いて生きていきます――。 

 

 きちんと、周りを気にしなければなりませんけどね……。




殿下が倹約に目覚めて婚約破棄されました


 ~完結~

※最後までお読みくださってありがとうございます


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