第16話(マークス視点)
「なーはっはっはっ! 酒だ! 酒をもってこい!」
正義とは何か……僕はずっと考えてきた。そして、やっと僕は自らの正義を見つけるに至る。
そう、正義とは自分の信念を曲げぬこと。そしてどんな障害があろうと挫けずに突き進むことなのだ。
僕の目的とは真のハウルトリア王国を創ること! そのためには物資も金も必要だ!
申し訳ないとは思うが正義を貫くためには多少の犠牲は仕方ない。
正義の強奪――僕の新たな国家建設に同志が集い、それを実行した。
必要な物資が無いなら奪うしかない。無一文で大儀を果たすことは不可能だからだ。
仲間たちはちょっと気性が荒いが、僕を若大将として持ち上げてくれて、ようやく本来のリーダーの椅子に戻れたような気がした。
「若大将! 次はどこを襲う!? サウスプールの町の貴金属店か!? それとも王都の外れにある貴族共の屋敷か!?」
「うーむ。金は出来るだけ多く欲しいからな。貴金属店にするか!」
「よっしゃ! 野郎共! 武器を用意しろ! 若大将が強奪を許してくれた! いいか、これは正義の強奪だ! 罪は問われない! 好きなだけやれ!」
「「おおーーーーっ!!」」
んん~~! き、も、ち、い、い、な~~~!!
僕の鶴の一声に同志たちが力を合わせて理想郷を作るために働いてくれるのは……言いようのない程の高揚感を与えてくれる。
そう、僕の理想郷はここから始まるのだ。そもそもバーミリオンに与することが重罪に値する。
この国はハウルトリアのものだったにも関わらず、好き勝手してやがる連中に反抗もせずに従うなんて許されることじゃあないのだ。
だから、そんな不埒な連中はせめて僕の理想郷の為の糧になれば罪に贖うことが出来るというもの。
普通は強奪など言語道断な犯罪だが、僕にそれが認められる正当性はここにあるのだ。
「若大将! 隣国のジゼット王国が融資をしてくれるみたいですぜ!」
「何っ!? 本当か!? くっくっくっ、隣国まで僕の理想郷に賛同してくれるとは! 向いてきたぞ! ついに僕に運が向いてきたぞ! もう一回乾杯するぞ!」
「「おおーーーっ!!」」
き、き、き、気持ちいいーーーーーーーっ!!
この一体感……! 仲間というものの、絆というものの、素晴らしさを僕は知ってしまった。
そうか。世の中で一番大事なものそれは仲間たちとの大いなる絆――というわけか。
「しかし、若大将。一つだけ、融資を受ける為の条件があります」
「なーはっはっはっ! んっ? 条件だって?」
「へい。北の国境近くの金鉱山を占拠して、権利の一部を渡してほしいとのことです。それだけで10億ゼルドもの軍資金が……」
「金鉱山の一部……、んっ? 10億ゼルドだとっ!? よしっ! それだけあると、理想郷にかなり近付くことが出来るな! 任せろ!」
「くっくっくっ、さすがはバカ大将……じゃなかった、若大将……」
若き英雄にして、歴代最高の国王――マークス・ハウルトリア。
伝説の男となる予定のこの僕の快進撃が始まろうとしていた――。
◆
「オラオラオラ! マークス若大将の名のもとにここにある物は俺たちが頂く!」
「俺らは正義のために戦っているんだ! お前ら裏切り者は殺して良いとマークス若大将が許可を出した!」
「理想郷万歳! バーミリオンに与する者は出ていけ!」
す、素晴らしい……!
君たち、エクセレントだよ!
よくぞ、僕が言いたいことを代弁してくれた。
僕を崇めて集まった同志たちは、武器を手に取り瞬く間に貴金属店にある金目のものを奪い尽くす。
あまりの手際の良さにブラボーと拍手を贈りたくなったよ。
「ご苦労、ご苦労、いや~~、君たち良くやってくれたね」
「俺たちはマークス若大将が命じたことなら何でもやりますぜ」
僕はズタボロになった店の者たちを見据えながら、可愛い部下たちを称える。
そうか、そうか。お前らは僕のためなら何でもやるか。
今まで、下に恵まれなくて煮え湯を飲まされたがやっと使える奴らが僕の元に集ったな。
「……おのれ、マークス。絶対にお前は捕まるぞ! そして、死刑になるのだ! 今に見てろ!」
「そ、そうだ! 死刑だ! お前なんか!」
「お前は国民の敵だ! さっさと死ね!」
「むっ!? 貴様ら、誰に向かって無礼な口を利いておる! 僕は国王だぞ! 理想国家、真ハウルトリア王国の初代国王マークス・ハウルトリアだ!」
全然分かってない、バカ共がいたので僕は此処で宣言する。
我こそは真の国王だと。
これから、理想郷を創り……国民たちに真の幸福を与える神にも等しい男だということを。
ふふ、決まったな。あまりの迫力にひれ伏すこと間違いなしだ。
「あーはっはっはっ! ただの盗っ人に成り下がったバカ王子が何か言ってら!」
「なにが、真の国王よ! あんたなんか、薄汚い盗賊じゃない!」
「前々からバカだと思ったが、ここまでバカだったとはな!」
こ、こ、こいつら! 言わせておけば……! 舐めやがって!
許せん! 正義の強奪をしているだけの、この僕をよりによって盗っ人扱いだとぉ!?
「殺せ! お前ら、さっさとこの無礼者たちを殺せ!」
「おい、時間がない! 野郎ども! 次の目的地へと向うんだ!」
「「へい!」」
あ、あれ? 今、僕ってば殺せって指示したよね? なんで、ここから出て行っちゃってるのかな?
ていうか、僕がリーダーね。隣にいるゲヘルは僕の部下だから。
こっちに、頭は下げようよ……。
まぁいい。確かに次の金鉱山の占領こそ大事だからな。
見ておれ、バーミリオン。僕の優秀な部下たちの実力を――。
◆ ◆ ◆
「ゲヘル盗賊団! ようやく馬脚を現したな! ゲヘル! お前がマークスを隠れ蓑に使ったことは後ろ盾のズルース伯爵が全部吐いたぞ!」
えっ? えっ? えっ? 何が起こってるの?
どうして、僕らは暗がりの中で兵士たちに囲まれているんだ?
「チッ! バカな元王子を担いでひと儲けしろって命じたクセに捕まりやがったのか、ズルースの野郎……!」
いや、これはどういう展開だ……!? だから、僕を差し置いて何をしている?
おい、ちょっと、ちょっと。話を分かるように説明しろ!
「クソっ! おい、お前ら! ズラかるぞ!」
「「へい!」」
「とにかくゲヘルは絶対に逃がすな! かかれ!」
「「はっ!」」
うわっ! 痛い! 痛いって! 僕を踏むな! 痛っ!
ええーっと、何がどうなってるの? ゲヘル! 貴様、僕を差し置いて逃げるとは何事だーーーーーっ!
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