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第14話(マークス視点)

 王宮から誰も居なくなってしまった。

 父上は牢獄に入れられて、僕は自由にすれば良いと言われて放置される。

 ヘムロスはバーミリオン王国とかいう裏切り者の国で宰相になると聞いた。

 あいつ、一人だけ逃げやがって。僕に忠誠を誓うと言っていたのに……。

 

 しかし、バーミリオン家の連中も阿呆だ。

 まぐれで勝って浮かれているのか知らんが、このカリスマ性溢れる王子たる僕を放置するとは。  


 抵抗勢力を集めて、蜂起せよと言っているようなものではないか。

 

 ――そう、奪われたら……奪い返す!


 当たり前のことだ。僕はこの国を取り戻す。

 大丈夫だ。倹約政策などを実施して、誰よりも国の未来を真剣に考えているのは、このマークス・ハウルトリアだということは周知されていることは間違いない。


 この若きカリスマたる僕の求心力で対抗勢力をまとめ上げて、バーミリオン家を今度こそ滅ぼしてやる。

  

 ふふ、これはいい。これはいいぞ。まるで小説の主人公になった気分だ。

 土壇場からの大逆転。些か陳腐なストーリーにも感じられるが、カタルシスがあるではないか。


 そうだ。これは門出なのだ。

 無能な父上に代わって僕が真のハウルトリア王朝を築くための――。 


「真のハウルトリア王朝……。くくっ……」 

「あの、元殿下……!」

「うっぴゃあッ――!!」  


 いきなり声をかけられて、僕はびっくりして飛び跳ねる。

 なんだ、リリアか。心臓が口から出るかと思ったぞ……。 

 そっか、こいつだけは僕のために残っていてくれたのだな。

 恐らくリリアは僕に惚れている。やはり男としての魅力というのは何よりもの求心力なのだろう。  


「リリア、よく残っていてくれた。礼の代わりに抱いてやろう」


「……しばらく会わない間に気持ち悪さがレベルアップしていますね。冗談ならやばい人ですし、本気ならもっとやばい人ですよ」


 僕がリリアに抱擁しようとすると、彼女は身を翻してそれを躱す。

 まったく、照れ屋だな。ここには誰もいないし、恥ずかしがることはないんだが……。

   

「意外と初心なんだな。そういう所も唆るが……。とにかく僕への忠誠心を示してくれて嬉しいよ」


「はぁ? 何を勘違いしているか分かりませんが、私はミーちゃんを探しているだけです。見ませんでしたか?」


「んっ? 僕の革命軍創設に尽力するために来たのではないのか?」


「ここまでされて、通常運転なのは流石ですね。しかしながら、私はルージア様の世話係として再就職が決まりましたから。給金が五倍に上がり、ミーちゃんに良いものを食べさせてあげられそうです」


 おいおい、いつものジョークは止めてくれよ。

 全く笑えないんだが……。

 この僕に惚れているはずのリリアがどうしてルージアのような性悪女の世話などするのだ?

 

 ははーん。なるほど、そういうことか。


「うむ、読めたぞ。お前は敵地でスパイ活動をするのだな! バーミリオンを内部から破壊するために! リリア、僕のために命懸けで……何と愛らしいんだ……!」  


「これからは会話が成立しない主に仕えなくて良いと考えると、感動すらしてくるので不思議ですね。――もういいです。私はミーちゃん探索に戻ります」


「ま、待て! せめて別れのキスを――へぶっ!!」


「生理的に無理なんですよ。身の程をわきまえて下さい」

  

 リリアにキスしようとすると、彼女の拳が顔にめり込んだ。

 い、痛い。僕の美しい鼻がもげてしまいそうだ。

 リリアめ……。どこで、バーミリオンの手先が見ているか分からないからって、ここまで用心深く僕の敵であることをアピールするなんて――。 

 やはり、頼りになるなぁ――。

 

 ◆


「蜂起せよ? 寝言は寝て言えよ! バカ王子! おっと、もう王子じゃないんだっけか!」

「マークスさん、あんた偉そうにしてるが、もうアタシらと同じ平民。悪いことは言わねぇ、命があるだけありがたいって真っ当に働きな」

「元王子さん、仕事探してるって言うんなら皿洗いさせてやってもいいぜ」

「腹減ったって? あーダメダメ、野良犬に餌やっちゃ駄目ってマスターに言われてるから」


 なんだ、なんだ、なんだ。平民共っていうのは、簡単に王子である僕に手のひらをひっくり返すのか?

 あれだけ、よくしてやった恩を簡単に忘れられるのだから、その変り身の早さには正直言って引いてしまった。

 

 僕に皿洗いしろとか、真っ当に働けとか無礼じゃあないか。

 そもそも、今も昔も僕は真面目にやっている。


「バーミリオン家が国を統治してくれて、本当に助かった。ようやく景気が良くなってくれた」

「いやー、新しい仕事がどんどん入ってきて大忙しだ。バーミリオン様々って感じだぜ」

「お前、よく死刑にならなかったな。オレは殺してやりたいって正直思ってるけど」

 

 しまったな。バーミリオン王朝に不満を持っている連中は多いに決まっているのに、みんな連中を恐れて本音を言えなくされているぞ。


 そして、ハウルトリア家のことを悪く言うように強制されているのか僕はこいつらに悪口ばっかり言われる。

 

 どうしたものか。あー、そうだ、そうだ。

 一番の味方になってくれるだろう者の所に行くのを忘れていた。



「まぁ、マークス様、お久しぶりですねぇ。ええ、ええ、マークス様から頂いた養育費のおかげで、元気な子が生まれそうです」


「そ、そうか。それは何よりだったな。ジェーン」


 そう、僕の一番の味方になってくれるであろう女――それは僕の子を妊娠しているジェーンである。

 彼女には養育費として実に十億ゼルドもの大金を渡した。

 役人共は手切れ金とか失礼なことを言っていたが、次期国王候補である子供を育てる大切な金だ。だったら、それは養育費であろう。


「あー、でもぉ。マークス様ってもう王子様じゃあないんですよねぇ。私たちと同じ平民になっちゃったんでしたっけ?」


「そ、それは、まぁ……、そうとも言えるかもしれんが、僕はそう思っていない。何故なら、僕はバーミリオンを打倒して、真のハウルトリア王国を創る男になるからだ!」


 ――決まった! これは言うまでもなく決まってしまった。

 真のハウルトリア王国を創る男――こんなにも格好いいセリフに痺れない女がいるのだろうか? いや、いない……!


 きっと、ジェーンも僕にときめいて――。


「はぁ? 何を言ってんの? あんた、格好つけてても平民だから。てか、金持ってないんでしょ? 何しに来たの?」


 んっ……? ちょっと雰囲気変わったか?

 いきなりのジェーンの豹変ぶりに僕は心が追いつかなくなっていた。

 まぁいいか。ジェーンも質問してくれたことだし、本題に移ろう。


「いや、だから。養育費って二人の金だろ? だから、ちょっと僕も拝借させてもらおうと思ってね。二億でいいからさ」


 蜂起するためには何かと金がいる。

 だから、僕はジェーンに融資を頼みに来た。養育費から二割くらい借りて、真のハウルトリア王国を建設したあとに返そうと提案したのである。


「別に焦らなくていいよ。ゆっくりでいいから。君は身重だから中々――」

「帰んな……!」

「へっ……?」


 低くて、迫力のある声がジェーンから放たれて僕は耳を疑った。

 いや、今……帰れって言った? 妊婦を労る優しい僕に対して?


「帰れって、言ってんだよ! 二度とここに面出すな! この文無しナルシストが! キモいお前なんか、金が無いのに相手にできるかってんだ!」


「ひぃっ……!」


 僕はあまりの迫力の強さに気付けばジェーンの家から出て行ってしまった。

 侮っていた。妊娠中はストレスが溜まって人が変わったようになると聞いていたが、あそこまでとは――。

 

 母親になるということは、大変なのだなぁということを学んだ――。

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