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第12話(マークス視点)

「な、何っ!? ぼ、僕が王宮に戻れる……だって? ほ、本当か!?」


「ええ、そうですね。まもなく王宮ではなくなるかと、思われますが」


 なんだ、なんだ、なんだ、何が起こったんだ!?

 僕が王宮に帰ることが出来るだって!?


 よっしゃーーーーー!! 勝った! 勝った! ハウルトリア軍が勝ったんだ!!


 あいつら、僕に偽情報を与えて混乱させようとしていたんだな。

 父上に必死で交渉して、僕の命と引き換えにこいつら許しを乞うたのだろう。


 むふふ、よくよく考えてみれば本当に人質としての価値がなかったら僕を生かしておくはずがないもんな~~。

 

 クソッタレ共が! したり顔で僕に説教しやがって。

 クソッタレ共が! まずい飯ばかり随分と食わせやがったな!


 今は手を出さないって約束をしてるのかもしれないが、そんなものは反故だ、反故!


 僕も、こうして生き残ったからにはあいつらをぶっ殺してやる。

 この皇太子たる僕が受けた屈辱を何十倍にしてでも返してやる!


 倍返しだ! 倍返しだ! 倍返しだぁ~~~~ッッッ!!



「敗戦直後の王宮に戻れなどお父様もお人が悪い。マークス殿下はこれからより質素な生活を強いられると思われますが、ご自身の為さったことに対する業の深さが理解できるように願っております」


「んあ? 何を言っとるのだ? 敗戦……?」


 クククク、何を言い出すかと思えばこの女。

 この期に及んでまた僕を騙そうとするのだから救えない。

 ハウルトリア軍が敗けたのなら、僕を返す意味が分からん。

 王宮との取引以外でこの僕の身柄を移す理由が無いのだから。


「まー、僕も完璧な人間ではなかったということは分かったよ。三割くらいは間違っていたのかもしれないね。だが、悪かったところだけ突くほど父上も狭量ではない。七割は正解なのだから、良くやったと褒めてくれるさ」


 僕は大人だから悪かった点があったらすぐに認めるという、その辺の王子とは違う寛大さがある。

 倹約をすることは正しいことに決まっていたが、こいつらに借りた金を返さずに寄付されたことにして倹約政策の予算に最初から回せば良かったんだ。

 こいつらだって、国に貢献出来るならと喜んで反逆などしなかっただろうし。


「何を言っても無駄そうですね。それでは、お達者で――」


 なんだ、なんだ、このみすぼらしい馬車は。

 皇太子である、この僕が敵地より凱旋するっていうのに……。

 

 あー、しかしこれで腹いっぱい飯が食えるぞ。

 バーミリオン家から慰謝料もたんまり頂いたに決まってるし、国庫も潤っているだろう。

 そう考えてみれば万事上手くいったな。さしずめ、この戦いを起こした英雄ってところだろう。


 

 ――どんなふうに持て囃されるのか今から楽しみだ。



 ◆ ◆ ◆



「この大馬鹿者がァァァァァァァァァ!!」

「へぶぅぅぅぅぅあッッッ――!」


 王宮に戻った途端、病み上がりの父上から鉄の杖でぶん殴られる僕。

 ち、父上、心配の裏返しで僕に変な絡み方をしているぞ。久しぶりに帰ってきた息子に対する態度じゃあない。


「ち、父上、英雄である僕が帰ってきて、その態度は酷いではありませんか」


「誰が英雄か! このハウルトリア王家を滅ぼした元凶があああああああああっ!」


「うっぴゃあああああああっ! 痛いっ! 痛い! ちょ、止め――」

 

 は、ハウルトリア王家を滅ぼした元凶?

 えっ? えっ? えっ? 王家、滅びたの? 僕が国王になる前に?


 そ、そんなバカな話があるか――。

 ヘムロス、貴様……、父上の後ろで何を黙ってみておる。父上を止めんか――。


 ◆


「ご、ご冗談をいきなり仰るとは父上もお人が悪いです。ハウルトリア王家が滅びた? まるで、我がハウルトリアの精鋭たちが一貴族に過ぎないバーミリオン家如きに負けたような言い回しを――」


「お前は向こうに居ながら、何も知らんかったのか? はぁ、この結果は息子の教育に失敗したワシの報いという訳か……」


 父上は僕の質問に答えず、力なく首を振った。

 そして、教育を間違えただの、と失礼なことを言う。まるで僕が失敗作みたいじゃないか。


「殿下、我が国は負けたのですよ。バーミリオン家の私兵たちに手も足も出ず……。最後には食糧などの物資を求めた上で敗北を宣言しました。そもそも、国庫が空の状態から戦争など無茶も良いところでしたからなぁ」


 ヘムロスはようやく僕に近付いて、ハウルトリアが敗れたことを話す。

 ふ、ふーん。本当にあいつらの言うとおりこっち側が不利だったのか。

 だったら、尚更バカな奴らめ。この僕を生きて帰らせるなど愚の骨頂だ。

 今は駄目でも、僕が必ずやこの国を立て直し復活させてみせる。

 そうなれば、僕がもしや初代国王!? いやいやいやいや、まさか真の英雄ルートに入ったんじゃ――。


「くくくく、真の英雄かぁ――」

「何を笑っとるかァァァァァァ!!」

「ぐっぴゃあっ!?」


 しまった、想像していたら楽しくなって笑っていたか。

 

 しかし、そもそも父上が負けた癖になんで僕が殴られなきゃならんのだ。

 普通は詫びるだろ? 負けてしまいごめんなさいって。


「父上、戦に負けてイライラしているのは分かりますが八つ当たりは止めてください。負けたのは父上のせいでしょう? まるで僕に原因があるような言い回しは不快です」 


「お前のせいだわい! お前が素直にバーミリオン公爵に謝罪しとったら、ワシが病に倒れている間、お前が訳のわからん政策をしとらんかったら、こんなことにはなっとらん!」


 えーーーーっ!? 父上が責任転嫁してるぞ。

 王家としての誇りを守り、質素倹約に努めていた僕が間違っていたみたいなことを言い出すばかりか戦で負けた原因に仕立て上げるとは――。


 都合よく事実を捻じ曲げて、僕が悪いと頭の中で変換しているとしか思えん。

 そういう奴がいるってことは本で読んで知っていたが、まさか父上だったとは。


「まぁまぁ、陛下も落ち着いてくだされ。ここでマークス殿下を殴ったところで何も結果は変わらぬのですから」


「貴様も貴様だ、ヘムロス! これの教育は貴様に任せていたが、こんなに馬鹿になるまで放置しおって!」


 今度は父上はヘムロスの胸ぐらを掴む。

 今、僕のことを「これ」とか「馬鹿」とか言ったか? 父上、ちょっとお口のおいたが過ぎるぞ……。


 しかし、ヘムロスも国庫を空にしたり責任が大きいのも事実。

 責任の擦り付け合いとは醜いね……。


「兄上が宰相だったときから言っておったではないですか。バーミリオンから金を借りすぎるのは危険だと……」


「なんじゃと!?」


「先代にも、皇太子だった貴方にも、忠告はしとったのに。二人とも兄上を疎んじて失脚させましたなぁ。やっと兄上が忠告した状況になった。それだけです……」


「き、貴様! 兄が正しかったと言うためにわざと息子を――」


 驚愕したような表情をする父上。

 ヘムロスの兄なんてどうでもいい。僕は早くベッドの上で疲れを癒やしたいのだが?

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