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第10話(マークス視点)

 な、な、何なんだこいつらは――。

 皇太子を攫っておいて、巨大な馬車で王都のど真ん中を堂々と逃走するなんて。

 誰も、この僕が攫われているというのに助けようと動かぬではないか!

 僕の顔を見忘れたか! この僕はマークス・ハウルトリアだぞ! 皇太子なんだぞ!


「おい! お前ら! なんで僕を助けに来ないのだ!」


「無駄ですよ、殿下。この馬車の窓は二重構造になっています。殿下が叫ぼうと外には届きません」


 ルージア、貴様! 婚約した仲である僕がこんな目に遭っているのによくもまぁ、そんなにすましていられるな。

 なんでこの女は動じないのだ? さっきも自分の何倍もある大男を無表情で投げ飛ばしていたし……。


「ちょっと待て! 声は聞こえずとも、顔は見えておるだろうが! なぜ、無視されねばならんのだ!?」


 声が聞こえぬという理屈は分かった。

 だが、窓から僕の顔は外に完全に見えているのだ。

 僕が必死で外に向かって訴えている姿を見れば只事ではないとすぐに分かるではないか。


「……それを私に言わせますか? 殿下」


「はぁ? 訳が分からぬことを言うでない」


「娘は殿下が街の人々に助けられる価値がないと思われていることを言いたくなかったのですよ」


「な、な、なんだと!? そんなことはあるか! ぼ、僕は人気者なんだぞ!」


 バーミリオン公爵のやつ。言うに事欠いて、僕が王都にいる国民たちに嫌われているみたいなことを言いやがって。

 僕は毎日のように町に出て見回りをしてきたんだぞ。

 王宮に引きこもっているみたいな従来の王子とは違う。ネオ王子なのだ。

 

 そんな僕が国民から愛されないはずがなかろう。


「マークス殿下って、飲食店で無銭飲食を繰り返しつつ税金を上げられましたでしょう? その辺りから、評判が悪くなっていたみたいですよ。くすっ…」


「お母様……! 殿下を煽るようなことは仰らないで下さい」


「ぬぐっ……! 僕がいつ無銭飲食など! あれは宣伝になると思って良かれと思っただけだ!」


 嘘だろ……! 僕が腹を空かせているときに、宣伝になると気を使って飲食店を回っていたことが無銭飲食をしたという噂になっているのか?

 それだけで、僕の評判はここまで下がるのか……。

 

「殿下の主張はどうあれ、料金を払わずに飲み食いをすれば無銭飲食ですからな。これは、ワシも悪かったと思っとります。そもそも、バーミリオンレストランの飲食代を最初に請求したときに、二、三度無視されたことくらいで引き下がるべきではありませんでした」


「はぁ? お前らが勝手にもてなしたいから、贅沢なメニューを食ってやったんだ。金を支払うと倹約にならぬではないか」


 その上、バーミリオン公爵はルージアと飯を食ったときに料金の請求を無視したことまで持ち出す。

 こいつらの贅沢病に付き合って迷惑してたのに、金まで要求する守銭奴ぶりに腹が立っただけなのに。

 金が欲しけりゃ、欲しいと頭を下げれば払ったさ。


 どいつも、こいつも、勝手な主張ばかりして――誰も僕を助けないとは何事か!


 馬車はまるで旅行へでも行くかのごとく緩やかに王都を抜け出した――。

 

 ◆


「な、な、な、何だここはァァァァァ!! お、王都よりも人が多いぞ……! 町も賑わっているし……!」


 ここは田舎だったはずだ。

 農夫くらいしか住んでいない、何もない町だったはずなんだ。

 それが、それが、いつの間にこんなにも多くの人が住み、多くの店が商売をするようになったんだ。


「殿下、税金を取り立てているのに何処に何人くらいが生活を営んでいるのかご存知なかったのですかな?」


「う、うるさい。僕はアイデア専門だからそういう実務的なことはヘムロスに任せていたのだ」


「陛下はこちらに王都を移転しようと考えていたのですよ。ま、それもあなたのせいで無理になりましたが」


 ち、父上がバーミリオン公爵の領地などに王都を移転しようと考えていただと!?

 いい加減なことを抜かしよって。あの壮大なハウルトリア城を捨ておいて別のところに移住など出来るものか。

 王とは、それに相応しい場所に住まなくてはならぬ。それは倹約国家とて同じ。

 こんな、ちょっと前まで田舎臭かったところに王たる父上が住みたがるはず――


「着きましたぞ、殿下。これぞ、国王陛下がバーミリオン家に何年もの間、融資を募ってでも完成させたかった城――新ハウルトリア城です」


「…………は、は、は、は、は、は、はぁ!?」


「ワシらも最初は陛下に入ってもらおうと遠慮していましたが、残りの借金はこちらを頂くということで相殺させて貰いましょう」


 その城はハウルトリア城の軽く三倍以上の大きさがあり、要塞と呼べるほど頑強そうであるにも関わらず、一種の芸術だと見紛うほど美しかった。

 ち、父上はこんな城を作るために借金を……?

 な、なんて贅沢な……。


 だが、畜生。この城は僕の理想でもある。

 倹約王として歴史に名を残したご褒美として貰うのならギリギリオッケーかもな。


 父上に助けてもらったら、ここに住んでやってもいい。


「お父様、ここで籠城戦を行うつもりなのですか?」


「もちろん。どうせ、殿下を人質にしたとて役には立たんだろう。ヘムロスは必ずやこちらに攻撃を仕掛ける。陛下もそれは止められんだろう。王都は既に貧困でめちゃくちゃ。国庫には金が無くなったのだから」


 ぼ、僕を人質にしてもヘムロスが兵を使って容赦なく攻め込むと考えてるのか、こいつらは。

 さっきもそんなことを言っていたが、こんな城に籠ろうとしているってことは本気か。


「国王陛下なら、お父様に頭を下げるのでは? これまでのことを水に流して、良好な関係を作ろうと――」  


「甘いな、ルージア。――既にワシらは自らの身を守るためとはいえ、国家反逆者として殿下を人質にしている。陛下はそのような反逆者に頭を下げるなどせんよ。殿下がワシらを反逆者として捕らえようとした時点で、王家とは縁を切る覚悟は出来たのだ。後戻りはしない」


 バーミリオン公爵は父上が謝罪などしないと口にした。

 当たり前だ。お前らのような邪悪な存在に頭を下げるはずがなかろう。

 父上、決して悪を許さずに鉄槌をお願いします。

 ですが、僕の安全には精一杯気をつけて!

 誰にも気付かれぬように上手く僕を救出して、それからこいつらを叩き潰して下さい!

ブクマや↓↓の広告下の【☆☆☆☆☆】で評価頂けると嬉しいです……!

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