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私はモブ令嬢A?ポジなのに友人が毎回存在詐欺だと言ってくるのが誠に遺憾である。  作者: 雪 牡丹
第二章 始まりの春と宵闇の海辺街
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湖畔の秘密と招かれざる客


湖畔が近づくにつれ、アトランティアの目はさらに輝きを増していた。馬車の速度が緩やかになり、やがて湖畔に面した広場に停車する。初めての大きな湖と、それを囲む自然の景観に、彼女は息を飲んだ。


「すごい……こんなに大きな湖、生まれて初めて見ました!」


アトランティアが興奮気味に馬車を飛び出すと、ルーカスとエマがゆっくりと後に続く。


「ふふ、気に入ったみたいですね。では早速、お嬢様のお目当てだった『湖の精霊像』を見に行きましょうか?」


エマが穏やかな笑みを浮かべながら指し示す方向には、人々が集まる美しい白亜の像が見えた。湖を背にしたその像は、何とも神秘的な雰囲気を放っている。


「湖の精霊像か……。確か、この地を治めた初代の領主様が、この湖を守る精霊を祀るために造らせたって聞いたな。領地の繁栄と平和を願ったって話だ」


ルーカスが何気なく話しながら、妹の隣に立つ。その横顔はいつものように軽妙だが、どこか遠い記憶を思い出しているかのようでもあった。


アトランティアは像の足元に刻まれた文字に目を留めた。そこには古代語で何かが書かれている。彼女は文字をゆっくりと読み上げると、その内容に少し驚いた。


「『真実を求めし者よ、湖の底に眠るものを目覚めさせるべからず』……?」


「何だその物騒な注意書きは?」


ルーカスが肩をすくめるが、エマはどこか意味ありげな表情を浮かべて像を見つめる。


「この湖には、古くから伝わる伝説があります。湖底に封じられた宝物と、それを守る存在……。ですが、ただの言い伝えだとされて久しいですし、今では観光名所の一つに過ぎません」


エマの言葉を聞きながら、アトランティアは目の前の湖に視線を向けた。その透き通るような青紫色は、見る者の心を吸い込むかのようだった。


しかし、その美しい湖面が突然、さざめき立つ。風とは異なる不自然な波紋が広がり、遠くの空が薄暗く染まり始めた。


「……エマ、この現象、何か知ってる?」


ルーカスが眉をひそめると、エマは険しい表情で首を振る。


「わかりません……。こんなことは、記録にもありませんでした」


「兄さん、あの湖の中心を見て!」


アトランティアの指さす先には、湖面に現れる黒い影。そして、湖の中心からゆっくりと何かが浮かび上がり始める。それは巨大な石のような物体だった。


「……こいつは一体何なんだ?」


石の表面には奇妙な模様が刻まれており、どことなく像に刻まれた古代語の文字と似ているようにも見える。


「これは……!」


エマが何かに気づいたように声を上げた瞬間、湖畔に集まっていた人々が一斉に悲鳴を上げて逃げ出した。湖の中心から浮かび上がった石が、突然大きく揺れ、まるで生き物のように湖面を撥ね上げたのだ。


「ティア、危ない!」


ルーカスがとっさに妹を抱きかかえ、馬車の陰に隠れる。湖からは何かが現れようとしていた。


「これは領地を守るための試練か、あるいは……」


エマの表情が険しさを増し、アトランティアはその不穏な気配に、胸が高鳴るのを感じていた。


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