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私はモブ令嬢A?ポジなのに友人が毎回存在詐欺だと言ってくるのが誠に遺憾である。  作者: 雪 牡丹
第二章 始まりの春と宵闇の海辺街
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好奇心の塊、二度目の人生

2023/12/19 初稿でFA0(:3 )~ =͟͟͞͞(’、3)_ヽ)_


『どうしても眠れない夜は、思いを馳せて。

 痛みに耐える明け方は、次なる眠りの到来を待ち惚けて』


1冊、また1冊と(めく)られてゆく本。

今も明日もまた同じと、ただ時間だけが悪戯(いたずら)に過ぎ去った。




息を呑み込んで、声を殺し、チャンスを(うかが)う。

海底から(すく)い上げた、海辺の街角。

アリスは静かに歩いて路地に入り、裏側の世界に落っこちた。


いつものように、幼気な顔で。

無数の客人が、今日も主役(アナタ)の到着を待っている。





———幼い心は、容易く心地よいものを受け入れてしまう。

貧しい少女が実は『本物のお姫様』だったり、不遇な彼女(シンデレラ)が王子様に見初められて、ハッピーエンドってやつ。

いいよね、作者の一筆だけでそんな幸運が転がり込んできたら。


だから皆が皆、挙って夢を見る。

キラキラ輝く一番星(主人公)のみにスポットライトを当てた、あの絵本のような夢を。


どこに行っても、他力本願で。

どこかに行ってしまいたいと、現実逃避しながら。でも、今ある全てを捨てるほどの行動力も度胸もなくて。

別に、そこまでツライ訳でもないし…。

それが私という人間なのだから、今更どうしようもない、なーんて。



大陸の最西端。太古より、そこは精霊に愛された一族が治める土地であった。

恐ろしくも、美しい我が祖国(おおこく)。神の恩寵に、精霊たちの依怙贔屓(えこひいき)

この地の絶対君主たるノヴァの由来を知る者は最早いない。現存する一番古い記録を見たところで、ただ御伽話のように「昔々、こんな力を持った人々がここに住んでいました」と書かれているだけ。


常に支配者として君臨している、アールノヴァ。

こればかりは今となっても、皇室ですら揺るがすことのできない事実であり、『現実』だった。



「初めまして、僕がレイさん…この度ギルトマスターが公女様に付けた新たな師範となります。身に余る光栄、恐悦至極」


又もやとんでもねぇイケメソお兄さんを前に、圧倒的デジャヴ感。

「君臨すれども統治せず」と言わんばかりの【治外法権】や【海運の独占権】を筆頭とした、諸々。

どう転んで笑っても泣いても、今生の実家がマジヤバな件について。元パンピーは考えることを、考えるのを辞めた。

解散。


両親や兄sからこれまでの周囲を鑑みて、さてはこの世界の担当神、相当な面食いだな?

と、再確認。

後は授業日でもないのに一昨日ぶりなレイチェルちゃんが突然やって来て、いつぞやのママ上如く「紹介したい人がいるの」と宣うではないか。


それで再度流されるがまま馬車に詰め込まれた時点で、ある程度悟りの境地に片足を突っ込んではいたが。アトランティアがしょぼしょぼの眼で改めて聞けば、例の戦闘・防御魔法うんぬん関連の件だそうだ。


Re:ドナドナ案件勃発

欧米()のノリと速度感に未だ慣れない元日本人がひとり、ここに居ますよ。

レイチェル・ローズブレイド。

おま、マジでファッションモンスター兼業の、この地に舞い降りし行動力の化身か??


「リーシャンギルド・サブマスターのオリヴァー・クロムウェルと言います。どうぞ、おかけください」

「ア、これはご丁寧に」


そして話は冒頭に至る。

今日も今日とて心持ちも胃持ちも準備できぬまま外出訪問が確定し、目的地へと足を運んだ次第の引き籠り兼陰キャな私。

本日のニューフェイスを視界に捉えた瞬間、「あ、察し…」である。


マジで私のドキドキ、わくわく引き籠り生活は何処へ?

神様の野郎、ホントいい加減にして。

この新世界までもがブラック過ぎ…。

どれだけ周囲ピープルの作画がいい仕事してても、本当やだ……。


この度も開幕一番、相手の顔が良くてびっくり猫と化したし。声も大層お宜しくて、思わずその場で解散しかけるまでがお約束だった。


神様、絶対私に恨みがあるだろう、コレは。

全くもっての冤罪である。


「それで…お話というのは……」


が。

いつまでもぐだぐだ茶を濁していたら、永遠にお家に帰れないので、さっさと本題に入って頂くことにした、アトランティア。

この世界において同年代の知り合いといえば兄s以外、どこぞの幼馴染しかいないものだから、こういった場合、どう対応すれば正しい令嬢の姿なのかイマイチ分からん、知らんが……まぁ、然るべき上司には敬うタイプのお嬢たまなので安心してくれろ。


別に、泣いてなんかいないんだからね。

就活終了と共に神様にコロコロされて、異世界の体に就職しちまった人間のメンタル舐めんなよ。

基本的に豆腐より脆く、学校の歴代雑巾よりボロボロなんだぜ?

……自分で言ってなんか悲しくなってきたな。


「では、この度における公女様の師事はレイさんと、時折僕ということで契約書をお作りしますね。それで、構いませんか?」

「はい。あ、ただお願いがあって……」

「何でしょう」


到着するやいなや、傍で寛ぎ出したレイチェルちゃんはさておき。改めて、この職場(ギルド)の主な日常業務と主だった任務内容や報酬、その他諸々をしっかり優しく説明してくれたお兄さんに、アトランティアの緊張も解れていく。

素敵な笑顔が一寸ばかし胡散臭いのは見なかったことにして、終始にこやかに対応してくれるイケメンの背後に後光が見える、今日この頃。


しかし世の中には「うまい話には裏がある」、「イケメンの顔に騙されるな」という教訓(ことば)があってだな。


「契約前、最後に一つ確認させてください」

「はい、どうぞ?」

「今後、私がこのギルドで確実に浮くであろう存在なのは自覚しているつもりです。貴族、それもアールノヴァである上に、今までが今までなので。ですから、無用なトラブルを避けるためにも、あくまで『私個人』がギルドに属したと言う事で宜しいですか?」

「……そうですね、賢明な判断だと思います」


若い身空で社会の闇を垣間見続けた前世の身の上では、到底考えれぬような待遇の良さに、後ろ盾の強大さを実感しつつも。今の内に明言しておくところは、今この場で明言しておくべきだろう。

契約違反金と慰謝料の恐ろしさを、アトランティアは身をもって知っている。

なので、


「その代わりと言ってはなんですが、私個人の顔や名前が必要な時。流石に何でもとはいきませんが、可能な限りの助力は惜しみません。これからお互い、同じ船に乗った仲間ですから」

「いえ、アールノヴァの公女様にそれは…」


と、言葉半分まで首を振りかけたオリヴァー兄さんではあるが、やはり常識以上に『現実』には抗えないようだった。

その気持ちよく分かる。特に貴族社会でのヒエラルキー問題や、そう言ったアレコレはめんどくさいもんね。

些細の事で明日の我が身となって、物理的な首ちょんぱなんて日常茶飯事だもんね、この時代。


「レイチェルさんにも言われたように、今のところマナである程度の身体強化をしなければ、力仕事に関して私は役に立ちませんから。その不利益の分、これくらい当然やりますよ」

「……本当に噂通り、公女様は随分と大人びていらっしゃいますね。その御歳で、これほど見どころのあるお方だとは」


一瞬「どの噂だ?」とポメラニアンを沢山背負ったアトランティア。

しかしすぐさま「世の中、知らない方が幸せなことも多々ある」と考え直して、照れ半分悪寒半分、場を誤魔化すように微笑んだ。

元ジャニーズピーポーだけに、困った時はとりあえず曖昧に笑って流そうとする、昔からのクセである。


「ところで、そう言った時に特別手当の配布や支給はありますか?」

「それが無かったら僕もレイさんも、今頃同僚たちに集団撲滅か抹殺されてます」


ふむ。どうやらこのギルド所属の人類は実力の代わりに、クセも我も相当強いらしい。

冗談には聞こえない口ぶりで肩を竦めるイケメンと共にレイチェルちゃんに目を向け、「もしかしなくても、早まったかもしれない」とアトランティアはまだ見ぬ己の未来に思い馳せた。

ただでさえ世の中には優しい顔をした悪い人(サイコパス)なんて、ごまんといるのだ。


実体験してみない事には断言出来ないが……仮にも子供の身で、何だかとんでもない場所に足を突っ込んだ気がしてならない。

知らないうちにうっかりと、そんなつもりではなかったとしても、気付いた頃にはもう、はサスペンス小説の中だけで間に合ってます、お客様。


「改めてこれから宜しくお願いしますね、クロムウェルさん? それともオリヴァーさんの方がいいかしら?」

「どうかオリヴァーで、公女様」


まぁ、既にここまで来ては、今更やっぱナシと言い出せる性格もしていないけれど。

せめて実家の威光で強制猥褻(セクハラ)やら過度のモラハラやら、やりすぎ超過勤務がありませんように……と、祈るばかり。

突然の死も過労死も断固拒否、せめて推しの胸で息絶えたい願望が強い、どうしようもない人間(オタク)なので。


煩わしいモノや懸念は、初めからできるだけ排除しておくべきだし。

それで人間関係が上手く運べば儲けもの、後で楽できる。



「それじゃあ、お言葉に甘えて」


取りあえず、掴みは上々と見た。

達成感満載でうむ、と内心満足気に頷くアトランティア。

いつものように、肝心のところで遺憾な子が、一瞬苦笑した後、表情を改めた相手の視線を察することは終ぞなかった。



初めて訪れる森をくぐり抜け、周囲に勧められるがまま着席したアリスのように、迷子の子猫がお巡りさんに従うように。

結局のところ、『普通』を知らない子供は、大人たちの言動に寄り添う選択(みち)しかない。


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