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短編大作選

バンズなふたり

「すみませ一ん」

「は一い。今、お伺いします」

「飲み物はいいよね」

「うん。大丈夫」

「はい、お待たせしました。ご注文をお伺いします」

「ダブルバーガ一を、ふたつください。以上で」

「ダブルバーガー、ダブルですね」

「あ、はい」

「かしこまりました。20分ほどお時間いただきますけど、大丈夫ですか?」

「はい」

「では、少々お待ちください。失礼します」


「ダブルバーガ一が二つの場合、ダブルバーガーダブルって頼めばいいのか」

「いや、ダブルが被ってて、ややこしくない?」

「そうだよね。なんか、お店専用用語みたいなやつかもね」

「専用用語って言い方、合ってるか? 言うなら、専門用語でしょ?」

「ああ、ダブルバーガーダブルみたいになってたか。用って字が、二回登場してたか。ごめんごめん」




「ではでは、例の話を始めますか?」

「しますか? あれね」

「ハルナの恋についてね」

「何も教えてくれないからね」

「推測するしかないんだよね」

「いったん、水飲んでいい?」

「私も飲みたい。飲んで落ち着こう」

「うん。手のひらに人って書いて、飲んだりさ。落ち着くために何か飲むのが、人間だからね」

「そうか。そうだね」


「『今日はおごるよ』って言ったのにさ。ハルナ、大事な用事があるって、言ってたんだよ」

「普段断らないのに、断るってことは。そういうことだよね」

「うん。恋かLOVEか。LOVEか恋かだよね」

「ハルキ君との恋でしょ」

「うん。ハルキ君とハルナ、似てるから。お似合いだよね」

「えっ、それ名前だけじゃなくて?」

「名前とか名前とか、名前とかだよ」

「名前だけじゃん」


「オプションをフルに付けたのに、断られたんだよ」

「オプション付けたのにダメなら、恋愛関係でキマリだね」

「ハンバーガ一に、ポテトとコーラまで付けたのにな」

「ハンバーガーポテトコーラと、ハルキ君を天秤にかけたら。そりゃ、ハルキ君だよね」


「でもでも、ハルナってさ。お弁当のごはんのエリアにさ。ぎっしりフライドポテトが、敷き詰められてたときさ。かなり、叫んでたよね」

「すごい喜んでたね。今までで、一番嬉しいみたいにね」

「うん。最近、動画でバズった、動物園のサルみたいな声でね」

「まあ、ハルキ君と何かあるってことで、決まりかな?」

「絶対そうだよな」




「最近のハルナの様子。変わったと思わない?」

「恋の予兆とか、確かにあったよね」

「ミチコヌンの大ヒット曲『恋しちゃった』。最近、ずっとリピート再生してるから、恋だよね?」

「うん。ハルナは絶対恋してるよ」

「カラオケでその曲を、10連続で歌ったこともあったしね」

「そうだね。恋だ恋だ」


「今日の昼休みのハルナ。机に、ずっと突っ伏してたよね?」

「ああ、机カメレオンしてたね」

「机カメレオン?」

「そうだよ。一体化してたじゃん」

「あれね。机の上部を、すべて覆い尽くすやつね」

「あれは緊張を含んだ、突っ伏しだったね」

「うん。放課後に、ハルキ君と何かある、突っ伏し方だった」

「デ一卜に漕ぎ着けたか。放課後、告白するためにもう、呼び出していたかだよね」


「ため息も、思い切り吐いてたよね?」

「いつもの倍くらい、じゃなかった?」

「あっ、そういうことか」

「えっ、何か分かったの?」

「うん。謎はトロトロに溶けた」

「謎はすべて解けた。みたいなやつじゃないんかい。そっちの溶けるかい」

「うん」

「それで、何が分かったの?」

「息を倍くらい吐いていた。息を濃く吐いていた。濃く吐いていた。濃く吐く。だから、ハルキ君に告白することを遠回しに、こっちに伝えてたんじゃない?」

「匂わせ的な?隠語的な?」

「そうそうそうそう」

「それだ! それか?」




「ホントずっと言ってたよね、ハルナ。ハルキ君のこと、カッコイイって」

「うん。言ってた言ってた」

「どう思う? やっぱりカッコいいと思ってるよね?」

「カッコいいよ。話してると、いつもドキドキするもん」

「あれっ、そんなに親しかったっけ?」

「うん。私はハルキ君と、それなりに仲がいいと思ってるよ。連絡先は知らないけど」

「えっ、ハルキ関係者?」

「そう。ハルキ関係者」


「なに関係?」

「世界史だけの関係だけど」

「カラダだけの関係、みたいに言わないでよ」

「いや、言ってないから。クラス違うし。本当に世界史の選択授業でしか、会えないからね」

「ああっ。選択授業が終わったら、終わるタイプの関係者ね」

「まあ、合ってるけど」


「ハルキ君は、どんな人が好きなんだろうね?」

「私は、何も知らないよ」

「えっ? それなりに、話はしているん

だよね?」

「うん。天気バナシをして、テレビバナシもしたよ。でも恋バナシは、そのふたつ上だから」

「ランクが、ふたつも上なの?」

「そうそうそう」


「じゃあ、私が聞いてみようか?」

「なんで? 話したことないでしょ?」

「ないけど。私のお姉ちゃんの友達のね。友達の友達の弟がさ。なんと、ハルキ君の友達らしくてね」

「スゴいじゃん。ハルキ関係者じゃん」

「そうなの。ハルキ関係者なの。だから、お姉ちゃんに聞いてみようと思って」

「そうしようよ」

「じゃあ、連絡してみるね」


「ねえねえねえ?」

「ねえは、3回もいらない。1回でいいよ。今、お姉ちゃんとメールやりとりしてるから」

「ねえねえねえねえ?」

「あれっ? 言葉間違えたかな。あと一回付け足してよ、なんて言ったかな」

「ねえ。恋に気付いてないフリしてさ。ハルナにそれとなく、アドバイスを送ろうよ」

「いいんじゃない?」

「お姉さんから、いい情報が来たらすぐに送ろう」

「うん」

「来るかな?」




「あっ、来たよ情報」

「どう?」

「ハルキ君ね。ハルナのこと、好きすぎてヤバイらしいよ。でも、勇気がな

いみたい」

「両想いじゃん。やったじゃん。突き進め的な。突き進め的なの、送ればいいかな。送るよ。送っちゃうよ」

「送っちゃえ。イノシシの絵文字とか入れて、送っちゃえ」

「送ったよ」

「よしっ」


「コンビネーション、良かったんじゃない?」

「ナイスコンビだよね。相棒のことバディって言うから、ナイスバディだね」

「それは、いいスタイルの時に、言うやつね。まあ二人とも、スタイルはいい方だけれども」

「私たちって、ダブルバーガーでいうとバンズじゃない?」

「そうかな。主役を両端ではさんで、見守っている脇役的な?」

「そうそうそうそう。隣り合うふたつのパティを、引き立てる的なね」


「あれっ? ここのダブルバーガーのパティって、隣り合ってたっけ?」

「あれっ、間にレタスとかあったかな?」

「バンズの壁があったような」

「ベルリンの壁的な?」

「うん、そんな感じの」

「じゃあ、ふたりの間にも、愛の壁があるかもね」

「まあ。ダブルバーガーを、ふたりの恋愛の縮図にした場合はね」

「メニュ一表に、写真が載ってないから、分からないね」

「料理が来たら、確認しようか」

「絶対、真ん中バンズだわ」




「こちら、ダブルバーガ一でございます」

「はい。ありがとうございます」

「以上で、お揃いですか?」

「はい」

「失礼いたします」


「美味しそうだね」

「どうなってる?」

「パティが、重なり合っているよ」

「あら素敵」

「じゃあ、ふたりも大丈夫だ」

「そうだね」


「これをこうして潰して、食べるのがいいんだよね。口が、そんなに広がらないし」

「私は、潰さなくても食べられるよ。バラエティ一番組で、大笑いしてからね。口がバカになって、カバみたいにガバガバ開くんだよね」

「なんて?」

「口がバカで、カバみたいにガバガバで」

「ハとカの類いのやつを、多用しないでもらいたいな」

「ごめんごめん」

「いただきます」

「いただきます」

「うん、美味しい。美味しいね?」

「サイコ一だね。食べ物ランキング1位

だよ」

「私も」




「あっ、そこの紙を取ってくれる?」

「うん。はいどうぞ」

「ありがとう。手が汚れるものほど、美味しいからね」

「はいはい」

「ハルナとハルキ君は、重なり合うダブルバーガーのパティ。それで私たちは、それを応援する最高のバディだね」

「パティとバディね。上手いこと言わな

くていいよ」


「私、頭いいでしょ?」

「まあ、それほど上手くもないけど」

「おいおいおいおい」

「ハルナとハルキ君は、ナイスパティ。私たちは、ナイスバディだからね」

「よく意味分からないよ」

「意味分からない? 分かるでしょ?」

「でも私たち、ほぼ何もしてないよね。突き進め的なことと、イノシシの絵文字を送っただけだし」

「うん、かなりショボいよね」


「あっ、ヤバい」

「えっ、どうしたの?」

「ハルナに送ったメールの文章が、変だった。『突き進め的』で止まってた。『突き進め的』しか、書いてなかった」

「『突き進め的』だけでも伝わったよ。ほらっ。イノシシの絵文字も、付けたんだし。大丈夫だよ」


「やっちゃった。イノシシじゃなかった」

「えっ? なんの絵文字にしたの?」

「おしゃれプードル。しかも3連で」

「まあ、伝わってると思うから。いいじゃん」

「ああバーガーが、あと一口になっちゃったよ」

「美味しいものは、すぐ終わっちゃうからね」

「ごちそうさまでした」

「ごちそうさまでした。美味しかった」




「ん。ハルナから返信来たよ」

「なんて?」

「メッセありがとう。勇気出たよ。プードル。だってさ」

「えっ、プードルって、絵文字のだよね?」

「いや、カタカナで」

「カタカナ? 『何でプードルの絵文字なの?』みたいな返信なら、分かるけど」

「プードルは、アニマル言葉で、最高

の仲間って意味があるらしいよ」

「花言葉みたいな感じで、アニマル言葉があるのか。それで、プードルには、最高の仲間って意味があるのね?」

「ないよ」

「嘘かい!」


「ふたりのツーショット写真、来たんだけど」

「私にも来た」

「幸せそうでよかったね」

「よかったよかった」

「ねえ、小腹すいてない?」

「えっ? 食道を食べ物が、大量に通ってから、ホントすぐだよ?」

「ラーメン屋に行かない?」

「はっ? ご飯は大腹。パンは中腹。麺は小腹に入る。だから、ハンバーガーで中腹は満たされたけど、小腹はまだすいてる的な?」

「そうだよ」


「もしかして、あれ? あれじゃない?」

「何が?」

「ハズレてたら、ごめんね。プードルから、ヌードルが思い浮かんで、そこからのラーメンじゃない?」

「そうだよ、スゴいね。よく分かったね」

「私たち、最高のバディだからね」

「そうだね」

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