CODE87 激突! 戦慄の美少女チャイナシスターズ!(※絵)
4月26日
大学フェアと美弥ちゃんとのデート、折賀と一緒に役割語シスターズと激突――という、非常に忙しい一日を過ごした次の日。
「イルハムと范三姉妹についてのブリーフィングを行う」
いつものように「オリヅル」メンバー、指令室に勢ぞろい。
すごいな、もうシスターズの姓までわかったんだ。
「昨夜SNSにアップされた動画がこれだ」
アティースさんが告げると、ジェスさんの操作で壁面の大型モニターにSNSの動画が映し出された。
海の上をすべる丸いホバーボード。その上に立って、ハンドルにつかまってる低身長の男。
アコンカグアのときと同じベージュのスーツ姿で、一瞬さっと映ったかと思うと、すぐに停泊中の船の影に消えてしまった。
動画タイトルは「怪異の瞬間! これはUFOか、それとも空飛ぶ謎のおっさんか!?」そのまんま。
「アコンカグアでコンビが見たのはこの男で間違いないか?」
アティースさんの問いに、間を置かず折賀が答える。
「そうだ――と言いたいところだが、特徴が同じ、としか言えない」
「そこが問題だな」
モニターに別の動画。
今度は海じゃなくて、なんと普通に町中を移動してる。しかも手にソフトクリームなんて持ってる。
さっきの動画よりも大胆にアップで映ってる。だけど。
「顔、ぼやけてんな……」
顔だけじゃなく、全身がぼんやりとしか映ってない。
周囲は人間も景色もはっきり映ってるのに。手にしたソフトクリームですら、くっきりとうずまきが見えるのに。
まるでワイドショーでいわくつきの証言をする匿名希望の出演者みたい。
「イルハムの能力、『肉体へ何の干渉も受けない』に、あらゆる通信機器や電波の干渉についても追記した方がよさそうだ」
「ええっ、じゃあ撮影しても自動でぼかし加工が入るってことですか?」
世衣さんもさすがにビックリ。アティースさんの報告が続く。
「つまり機器によるあらゆる探知をすり抜け、顔認証システムにひっかかることもない。『ハゲ頭に黒ぶち眼鏡、低身長に前かがみに曲がった背中』という特徴がはっきりしているにも関わらず、人間の目による地道な目撃証言を集める以外に追尾手段はないということだ」
今度はエルさんがふむふむとうなずいた。
「甲斐さんの録音で声は拾えましたけど、映像が拾えないのでは何かと不利ですね。亀山さんの念写でも同じなんでしょうか?」
「試す価値はあるな。今度会いそうなときは連れて行ってくれ。あとはコンビが絵を描いて、全身の3Dモデルデータを作成するかどうかだな」
「え、俺絵なんて描けませんよ」
俺が口をはさむと、ちょっぴり脱力したような笑いが指令室を満たした。
エルさんがにこやかに説明してくれる。
「甲斐さんはやっぱり面白いですねー。アプリ操作で顔を作るって意味ですよ。美仁さんは、訓練受けてますからささっと似顔絵描けますけどね」
マジか。やっぱスパイは絵心あった方がいいんだな。
「目撃証言により、あのホバーボードとともに普通に飛行機に乗って入国したことはわかっている。瞬間移動装置は使っていないらしい。使えない、のかもしれん。やつはあらゆる能力を弾いてしまうからな」
「あれ、じゃあパーシャの探知能力にかかったわけじゃなく……」
「やつが『A』に発見されたのは、イスラエルで范三姉妹を助けたからだ」
モニターに、今度は女性三人が並んだ写真。
全員顔立ちはきれいだけど、着ている服はきれいとは言えない。
薄汚い布を被って、まるで中東あたりの難民みたいだ。
「范朱鈴、紫鈴、翠鈴。年齢は十九、十七、十五。
イスラエルで暮らしていたが、原理主義組織による爆撃で親を亡くし、見てのとおりの難民のような暮らしを続けたのちに再度爆撃に巻き込まれた。
吹っ飛ばされかけたところをイルハムによって救われ、以来、三人そろって追従しているらしい。イルハムはそのときのニュースをたどって発見されたと思われる」
確かに、よく見ると女性たちのうち二人は昨日会った「赤」と「緑」。
口調と行動はめちゃくちゃだけど、昨日は二人ともまともな服を着て、写真よりずっと身ぎれいだった。そんな過去があったとは……。
「あのー、ボス」
今度はジェスさんが眉をハの字にしながら顔を出した。
「その范姉妹がですね、たった今、生放送出演中でして」
またモニターが色を変える。
映し出されたのは昼間のバラエティ番組。出演してるのは――
『日本! 最高ですわー!』
『お寿司おいしいアルヨー!』
『私たちー、イスラエルからまいりましたけど中国人ですのー!』
『人呼んで! 超絶美人姉妹アルヨー!』
「わー! 出たよ役割語シスターズ!」
俺の目の前で、ですわとアルヨが街頭インタビューに答えてる。ただ今絶賛オンエア中。
場所は都内のオタクの聖域。何故か二人ともチャイナドレス。
しかも二人して、そばに立ってるメイドさんたちを押しのけて変なポーズをとり始めた。周りの男どもがスマホをかざして撮影会始めちゃったよ。俺、もう帰りたくなってきた……。
『もう二度と! あのような醜態は晒しませんわ!』
『今度こそ決着つけるアルヨ! 首洗って待ってるがヨロシ!』
『首輪つけた駄犬ども! いつもクソダサいジャージばかり着てるあなたがたを、文字どおりの負け犬にして差し上げますわ!』
『いつも怖ーい上司にドゲザさせられてる、知ってるアルヨ! 二度とドゲザできないくらい叩きのめしちゃうアルヨ!』
「全国放送で宣戦布告されちゃいましたねー」
矢崎さんが、憐れむような目で俺と折賀を見てる。
叔父さん、あの二人に壊滅日本語だけでなく、いったい何を吹き込んでらっしゃるの?
「あの二人はたいした脅威ではないんだが、なにしろ目立つ、な」
アティースさん、笑いをかみ殺してる。
亀山おっさんは「チャイナ、スリット、太もも、スリット」とブツブツ呪文を繰り返してる。俺たち、今度このおっさん連れてくんだっけー。
番組内では、ひきつった笑いを浮かべたインタビュアーが中継を切り上げようとした、そのとき。
『ああんっ、イルハムさま! お待ちになってー!』
『我たちも乗せてってほしいアルー!』
などと叫びながら、二人がささっと姿を消してしまった。近くにハムもいたんだ。
折賀が急に声を上げた。
「ジェス、SNSで目撃情報を片っ端から集めてくれ。今から追いかける。甲斐、行くぞ」
「へえっ!?」
行動速すぎ! この急展開にはいまだに慣れねえ。
「待ってても向こうから来てくれるんだろ?」
「だからだ。美弥のそばにあんなやつらを呼んでたまるか」
「あ、そういえば。今日このあとタクと約束してんだった。しかも行き先、ちょうどあそこだったわ」
「先に行く。岩永拾ってさっさと来い」
即断即決、折賀はひとりで走り出す。ジャージ姿でオタクの聖地へ。
ジェスさんの「オレも生メイドさんに会いたいヨ~」という嘆きを聞きながら、俺は慌ててタクに電話をかけた。
「タクー、なんかラノベのイベントに行くって言ってたじゃん? 『猫耳セーラー服は異世界で逆襲しちゃう』だっけ? あの話、『激突! 戦慄の美少女チャイナシスターズ!』に変更してもいい? 場所はだいたい同じなんだけど。あと余計なエロいおっさんひとり連れてくけど」
「スリットでぴちぴちですよ〜まぶしい生太ももですよ~。タクさん、双眼鏡の準備はいいですか~」
この瞬間、タクの俺を見る目が変わったのは間違いない。
ち、違うからねっ!
俺が用があるのは、生太ももじゃなくてハムのおっさんの方なんだからねっ!
『甲斐。チームに入ってから、ケーキ屋店長だったおっさんと怪しい噂が立ってるって、ガチ?』
そっちかーい!!




