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コード・オリヅル~超常現象スパイ組織で楽しいバイト生活!  作者: 黒須友香
Ⅲ 「クラス・カソワリー」殲滅指令
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CODE70 始まりの場所、ラングレー(1)


3月14日


 日本を13日昼に出発してから、二回の飛行機乗り継ぎを経てルワンダ首都・キガリへ。現地で色々あって、また乗り継ぎを経てワシントンDCへ。


 そうとう時間が経ってるはずなのに、時差の関係でまだ一日しか経ってないことになってる。感覚がマヒしそう。


 目指す研究施設、通称「ファウンテン」はワシントンDCのすぐとなり、ヴァージニア州にある。CIA本部、通称「ラングレー」からは車で一時間ほどの距離。


 キガリからワシントンDCまで、通常なら移動に二十時間以上かかるそうだけど、途中の経由地からは運よくCIA専用機に乗せてもらえることになった。

 つまり、乗り継ぎ待ち時間や入国手続きなどが短縮されるので、わずか十三時間ほどで到着できるらしい。


 移動時間中、俺たちは通信機器をフル活用して、「爆弾魔ボマー」――テオバルド・ベルマンさんに関する情報をもう一度頭に叩き込んだ。


 テオバルドさんは、俺と折賀おりが・それから世衣せいさんが中東で「アルサシオン」から奪い返した「爆破能力者ブラスター」だ。

 折賀が敵を吹っ飛ばし、世衣さんがテオバルドさんをなだめて無事に保護。その後、研究施設ファウンテンへ収容し、ほぼ制御不能だった爆破能力ブラストを、ある程度制御できる段階にまで訓練できたそうだ。


 どこでどう訓練したんだ? という疑問はひとまず置いといて。


 そのテオバルドさんが突然、施設を爆破した。

 自室の壁を破壊し、十階から外へ飛び降りた。地面に向けて小さな爆破を何度も繰り返し、衝撃を分散・緩和することで、傷だらけになりながらもなんとかギリギリ着地。そのまま、敷地から脱走してしまった。


 その様子をとらえた監視カメラ映像が送られてきた。

 見覚えのある、人のよさそうなおっさんが、ふらふらきょろきょろしながらよたよたと走っていく。

 ここんとこ冷たい感情しか見えない能力者ホルダーばかりを見てきた俺は、それだけで少しほっとしてしまった。


『誰かが、彼の父親が「首斬り人(ヘッドキラー)」に殺害されたことをリークしたらしい。情報源はいまだ不明。ベルマンはかなり動揺している。これ以上爆破を繰り返さぬよう、一刻も早く捕らえる必要がある』


 アティースさんによると、テオバルドさんはふらふらしながらもある方向を目指し、着実に移動している模様。

 街頭監視カメラ映像で、イヤホンを装着していることが判明。誰かに指示を受けて動いているらしい。


『指示が巧妙なおかげで、何度か彼の行方を見失っている。現在も、住宅街や国立公園内を勝手知ったるように裏道を縫いながら移動している。二人には彼の捜索と捕獲を頼みたい』


 俺たちが到着する時間までは、CIA本部の追跡チームがだいたいの場所をなんとか特定しておくとのこと。



  ◇ ◇ ◇



「見た感じ、正気を失っているわけじゃなさそうだけど。とんでもない殺傷能力を持っている点は、ハレドと同じ、か……」


 呟いてから、はっと気がついた。


 あくまでも「任務」を「仕事」として割り切るためには、アティースさんのように、名前ではなく「首斬り人(ヘッドキラー)」と呼ぶべきなんだ。

 でも、今さらそんな非情なコードネームを呼ぶ気にはなれない。

 横の折賀を見ても、特に表情に変化は見えなかった。


「折賀……。テオバルドさんが、誰に呼ばれて何を目的としてるのかわからないけど。まさか、あの人まで殺さなきゃいけないなんてことには、ならないよな……?」


 ハレドの件で、他の捕獲任務にまで恐れを抱くようになってしまった。

 もしもテオバルドさんが、爆破を繰り返して他人を死傷させるようなことになったら?


「ハレドのように、テレポートで突然現れるわけでもなければ、高速移動するわけでもない。殺さずに捕らえる方法はある――今のところは」


 空港内をきびきびと歩きながら、あくまでも冷静なまま折賀が答える。


「どうやって? 能力(PK)で拘束すんの?」


「拘束は長くは持たんし、爆破を止めることはできない。具体的には、体内の血流を操作して失神させる」


「できんの? そんなこと」


「やるしかない」


 確かに、意識がある限り爆破は可能らしいから、失神でもさせない限り誰も彼に近づけない。

 中東のときみたいに、能力アビリティを使い過ぎて本人が倒れるまで待つなんてやり方は、アメリカじゃリスクが高すぎる。


 かなり精密な、長距離狙撃以上に厳密なコントロールが必要になるはず。

 ギリギリまで距離をとって、遮蔽物しゃへいぶつに身を隠しながら、ある程度の時間をかけて。


「その方法――ハレドに使うことはできないのかな?」


 ダメもとのつもりで、つい言ってしまった。


 わかってる。シドニーで折賀に脚を撃たれたとはいえ、やつの移動スピードはまだ折賀と同程度には出ている。

 つまり、ルワンダの時のように、よくて相打ち状態。

 精密な操作なんてできるわけがない。それに――


「――ロークウッドがいる」


「わかってる、ごめん……」


 コーディをなんとかしないと、折賀はハレドに対して念動能力サイコキネシスを行使できない。


 コーディはこれからも、ハレドの操作役として一緒に現れるかもしれない。おそらく、能力者捕獲に駆り出されたハレドの「ヒクイドリ化」を防ぎ、対象だけを確実に殺害できるよう制御するために。

 ブレーメンでも、北京でも、徹底的に監視映像と「瞬間移動装置テレポーター使用時の波形」を洗い出した結果、ハレドのそばにいるコーディの姿が認められた。


 それでもハレドは、その両地点でヒクイドリ化した。

 捕獲対象のみならず、無関係の人間まで多数殺害した。

 そばにいたら、コーディだっていつ斬られるか……!


 自分の力のなさ加減が、こんなにも歯がゆいなんて。

 ハレドたちとの戦いで、俺にできることなんて、本当に何もないのかもしれない。


 折賀。ハレド。コーディ。


 この三人は、一瞬でも能力発動が遅れたら自分の死に直結するような、ギリギリの刹那せつなの世界で戦っている。この世界には、現代の最新軍事兵器だって届かない。


 一瞬で結果が分かれる世界。

 その一瞬に、どんな覚悟でのぞむべきか。そこで勝負が決まる。


 迷いなく相手を殺そうとするやつと、できれば相手を殺さずに済むよう願うやつ。

 どっちがより早く動けるか。答えは明白で、残酷だ。


 以前、アティースさんが言っていた。病院で、タクの検査を待っていたときだ。


(まともな人間なら、誰だって人を殺したくなんかない。その心根こころねが、現場では一瞬の判断の遅れにつながるかもしれない。それでもあいつは、あいつでいる限り、その一瞬を捨て去ることはできないだろうな)


 折賀はもう、覚悟を決めている。

 これ以上、ハレドにもコーディにも――そしてパーシャにも、人殺しなんかさせないために。

 そのためなら、こいつは自分の手に汚れ仕事をも引き受ける。


 だから、俺にできることは、その決心がにぶらないようにすることだけなんだ。



  ◇ ◇ ◇



 ワシントンDCの空港では、飛行機を降りたとたん目の前にダークスーツの男が現れた。本部から派遣されてきた案内人か。


 彼についていくと、空港ロビーの一角にしゃんとした立ち姿で待っていたのは――


「アティースさん!」


「やっと来たか。連続出張で悪いな」


 ほんの少しだけ微笑みながら、両手で俺たちの肩をポンッと叩く。

 この人はこんな、さりげない動作がいちいちカッコいい。


 全員で駐車場へ移動し、局員が運転するBMWに乗り込んだあと、アティースさんが助手席から軽く振り返って言った。


「今回は本部がらみだから、私も参加させてもらう」


「本部がらみ? 研究施設ファウンテンに近いからですか?」


「それだけじゃない」


 車が空港の外へ出る。窓の外で、景色が目まぐるしく変わっていく。

 初めて見るワシントンDCの景色に目を奪われる余裕は、今はない。


 と思ったら、視界が一気に青くなった。きれいな深い青色をたたえた、湖のように大きな川が広がっている。

 桜が有名な、ポトマック川!


 残念ながらまだ満開じゃないけど、白やピンクの小さなつぼみを無数につけている桜並木が、車内からでもよくわかる。

 美弥みやちゃんに見せてあげたい景色が、またひとつ(以下略)。


「ベルマンはまだ逃走を続けているが、どうやらラングレー――本部に向かっているようだ」


「あの人が、本部へ? 何故……」


 俺と折賀は顔を見合わせた。


 俺たちは、どんな状況であの人を捕獲しなきゃならないんだろう?


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