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コード・オリヅル~超常現象スパイ組織で楽しいバイト生活!  作者: 黒須友香
Ⅲ 「クラス・カソワリー」殲滅指令
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CODE60 南半球海上にて・「首斬りヒクイドリ」を捕捉せよ!(4)(※絵)



挿絵(By みてみん)



「ダメだ! 折賀! 戦うなーッ!!」


 叫びながら、体は意思に反して枝と葉っぱの猛攻撃を受ける!


「あぎゅっ! ふががががっ!」


 両腕でなんとか顔をガードしながら、植物にもみくちゃにされて落ちていく。

 急に肩にドスン! と衝撃が来たかと思うと、見知らぬ大地に全身がゴロゴロと転がった。

 やっと動きが止まって、目を開けると、目の前に黒くて長太い「針」のようなものが。


「いでっ!」


 そいつに軽く頭を引っかかれた。

 小さな音が遠ざかっていく方を見ると、グレーの可愛いまんまるフォルムがトテテッと走り去っていくところ。


 コアラだ! 俺、コアラに触っちゃった!


『浮かれてる場合じゃないと思うが……』


 そうだった――って、なんで黒鶴くろづるさんがいるの?


甲斐かいがあの高さから落ちて軽傷で済んだのは、私がサポートしたからなんだぞ』


「ありがとう助かったー! じゃなくて! 黒鶴さん、こんなに折賀おりがから離れられたっけ?」


『服の中を見てみろ』


 ジャージの中をのぞいて、さらにポケットに手をやると、入れた覚えのない固い物が見つかった。


 ポケットの中に、やつのパスケースが入ってた。いつの間に!


美仁あいつなりに、今回の任務に危機感を抱いていたんだろう』


「いやマズいよ! 黒鶴さんがそばにいないと、また死にかけるようなことがあったら……」


『それよりここから逃げるぞ。人が来た』


 黒鶴さんの言うとおり、数人の男たちが叫びながら近づいてくる。

 彼女の案内に従って、そのまま木々の合間を走り抜けた。さよならコアラ!



  ◇ ◇ ◇



 俺は動物園の敷地内に落っこちたらしい。


 頭上を、さっき見かけたゴンドラがゆっくりと下方へ移動している。動物園とフェリー発着所を結ぶ、便利な交通機関だ。


 高い場所にある動物園の敷地からは、視界いっぱいにシドニーの青い海が見える。

 日光を反射してきらきらと輝くシドニー湾の向こう側に、シティエリアのビル群が立ち並び、右側にはおなじみのオペラハウスとハーバーブリッジも見える。こんなときでなきゃ、絶好の眺めなんだけど。


 黒鶴さんサポートのおかげで、背中のボディバッグに入れといたタブレットは無事だった。イヤホンも大丈夫っぽい。


「アティースさん、甲斐です。折賀が『首斬り人(ヘッドキラー)』と!」


『あいつはきみから「首斬り人(ヘッドキラー)」を離す気だ。身を隠すよう何度も呼びかけてるが応答がない。今ハーバーブリッジ上空で対象と接触中だ。きみからもなんとか呼びかけてくれ』


 接触中って! やつの視界に入ったが最後、首斬られちまうじゃねえか!


 折賀だって、視認さえできれば相手に干渉できるけど、移動スピードはあっちがはるかに速いんだ。視認するより先に首を斬られる!


「ざけんな折賀! 今すぐ身を隠せ! でなきゃ俺をハーバーブリッジまで連れていけ! なんのために特訓したと思ってんだ! 二人で敵を狙撃するためだろうがーーッ!!」


 いやでも鼓膜に響くように叫んでやると、すぐに『うるせえッ!』と返答があった。よかった、まだ元気だ。


 数秒後、急に体が浮きあがった。

 ゴンドラ客に、今度は上昇しながら手を振る羽目になった。

 眼下が海になる。放物線の頂点まで浮き上がり、落下を始める直前に、ガシッとジャージの首根っこをつかまれた。


 折賀はくるりとターンし、俺を片手でぶら下げたまま大ジャンプでハーバーブリッジを目指す。

 俺は空気抵抗にもまれながら、敵の接近に備えてなんとか目を凝らし続けたが、幸いなんの攻撃も受けず、二人でハーバーブリッジの頂上に足を着けることができた。



  ◇ ◇ ◇



 二人で身を低くして、鉄骨の影に身を隠す。


 といっても完全に隠れるわけじゃない。

 居場所はバレバレだろうけど、鉄骨群が複雑に絡み合うこの場所は、首斬り人(ヘッドキラー)が俺たちをとらえるためには何度も失速・方向転換を余儀なくされるはず、という判断だ。

 加えて、ここなら誰もいないので、他人をやつの攻撃に巻き込む心配もない。


「今、世衣せいたちがパーシャの所へ向かっているそうだ」


「じゃあ、やつは俺たちでなんとかしないとな」


 パーシャが指示を変えない限り、首斬り人(ヘッドキラー)は世衣さんたちではなく俺を狙うはず。

 近づいてくればすぐに察知できるよう、鉄骨の影から俺の目――「甲斐レーダー」の範囲を広げて捜索を続ける。

「オリヅル」で特訓を続けた結果、俺の目はある程度『色』を見る距離をコントロールできるようになっていた。


 折賀はゴーグルを装着する。俺はタブレットを起動する。


 折賀は膝をつき、能力(PK)銃を構えて狙撃体勢に入る。

 俺もかがんで、折賀の頭に手を置く。


 パスケースを返したかったけど、こいつはたぶんすんなり受け取ってはくれないだろう。

 言い争ってる時間もない。折賀に何かあったら、俺は空中ダイブしてでも黒鶴さんをこいつのそばへ届けるしかない。


「何回、首に攻撃されたんだよ」


「六回」


「マジか。あと九回しか防げねーじゃん」


 それも理論上の話だ。

 アティースさんが急ごしらえで作らせた、超金属製・対首斬り人(ヘッドキラー)防刃(ぼうじん)ネックガード(見た目は首輪)。こっちの想定以上にやつの斬撃が深かったら、もっと早く限界が来てしまう。


 足場のはるか下では、貧乏神効果で事故った車のせいか、一部渋滞が起きて通行人たちをいらつかせている。

 誰も橋の上部に注目する人はいない。

 と思ったら、渋滞で停車中の車の窓から身を乗り出した子供が、思いっきり俺たちを指さしてる。お願いだからやめてー。


 そのとき――


 雲が動いた、気がした。

 風向きが変わる。俺たちの方向へまっすぐに伸びる、黒いもやが見えた!


「来るぞ!」


 頼むぞ甲斐レーダー!


 やつの失速の瞬間をとらえ、次に動く方向を指し示せ!



  ◇ ◇ ◇



 そのスピードゆえに、海上すら走り、空中すら駆け上がる。まさに超常兵器!


 俺たちに動きを予測させないためか、やつはまっすぐ近づこうとはせず、わざと大きく旋回を繰り返す。


 海面を蹴り、観光客を乗せたフェリーの側面で方向転換。施設襲撃時よりもターンが速い!


 でもまだ想定内だ。やつの進化を見越して、俺はチームの指示に従って数段上の速度でトレーニングを繰り返してきた。まだMAYAちゃんの方が速い!


 折賀が狙撃時にイメージするアサルトライフルは、最大射程距離およそ三百メートル。

 折賀はイメージする銃器を変えて距離を伸ばすよりも、この範囲内でより精密な狙撃ができるよう訓練を積んできた。この距離に入れば狙撃できる!


「三百!」


 射程圏内! そのまま誰の目にも止まらない軌道と速度でブリッジの下方に到達し、複雑な鉄骨群をジグザグに駆け上がる。俺たちを斬れる距離まで一気に詰めてくる!


 タブレットに指を滑らせる。大きく旋回してくれるおかげで、なんとか目がついていけそうだ。こうなったら、やつが減速する瞬間より先を見極めてやる!


「――ここだ!」


 タップとほぼ同時に折賀の体が動く!


 撃った! でもやつは止まらない!


 クソッもう一度! ――ここだ!


 さらに発射! 


 やつの動きが止ま――らないッ!


「ダメだ来ちまうッ!」


 焦りで呼吸が乱れる。息が止まる。失敗した!


 その瞬間、折賀が急に立ち上がった。

 左手で俺の右手をつかみ、自身の右手を空に掲げる。急な動きに、タブレットが俺の手を滑って鉄骨の下へ落下してしまう。


 折賀の体が振動したかと思うと。


 目の前を、ひとりの人間が落下していった。

 茶色のジャケットを着た、アフリカ系の男。


 俺は何が起きたかわからず、ぼうっとしたままブリッジの下を見下ろした。

 男がしぶきを上げて海中に没していくのを、ただ茫然ぼうぜんと見送った。

 折賀の声で、やっと我に返る。


「アティース、至急捜索の手配を。おそらくまだ生きてるが、脚を撃ったからあのスピードは出せないだろう」


「脚を、撃った……? 命中したのか?」


「ああ、だから落ちた。見ただろう」


 もう一度海面を見る。青い海と誰かのボート以外、何も見えない。


 まだ、呼吸が戻らない。心臓がバクバクなままだ。


「なんで? 俺、指示に失敗したよな?」


「失敗したのは俺だ。指示通りに撃てなかった。だからライフルからショットガンに切り替えた。致命傷にはならなかったが、動きを止めることはできた」


「…………」


「お前の指示がなくても命中したのは、それまでの指示でやつの動きの予測ができたからだ。お前はちゃんとやった。考えすぎるな」


 こいつの言葉……信じていいのか? それとも、俺が落ち込まないようにわざと言ってる?


 問いただしたところで、言葉を変えたりはしないんだろうな。


 ショットガンは、威力は低いが一度に広範囲に散弾を発射することができる。

 折賀はやつの失速のポイントを大まかに予測し、広範囲に撃つことで見事やつに命中させた。

 最後は、ほとんどこいつひとりの力でやったんだ。


 折賀はああ言ってくれたけど、自分が役に立ったような気にはなれなかった。


 俺は――いつかちゃんと、チームの、こいつの役に立つ戦力になれるんだろうか。




 そのころ。フォルカーが示した座標の地点、住宅街クレモルネにて。


 到着した世衣さん・矢崎やさきさんらと、「(アー)」の強襲部隊との間で、突如銃撃戦が開始されていた。


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