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コード・オリヅル~超常現象スパイ組織で楽しいバイト生活!  作者: 黒須友香
Ⅲ 「クラス・カソワリー」殲滅指令
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CODE53 最速の刺客・「首斬りヒクイドリ」出現!(2)


 フォルカーが、十一人の警備員とともに侵入者に殺害された――


 施設に潜伏中のエルさんと、ジェスさんとお仲間ハッカーたちがかき集めた各映像・音声データの寄せ集めでやっとそこまでつかむことができた。が、まだはっきりと確認できたわけじゃない。


『ボス、八階へ確認に行く許可を』


「やめておけ。万一侵入者に出くわしたらお前も斬られるぞ」


 現場の状況を確認しようとするエルさんをとどまらせ、代わりにアティースさん自身が即刻現場へおもむくと、チーム全員に告げた。


「私がこの目で確認する。警備の甘さを追及し、あの高慢な副部長から、侵入者の情報とフォルカーから奪った情報をすべてもぎ取ってやる。美仁よしひと、お前も一緒に来い」


 アティースさんに突然視線を向けられ、折賀おりがは姿勢を正した。

 そこへ矢崎やさきさんの懸念をにじませた声が続く。


「ボス、施設に近づいて、美仁くんこそ侵入者と接触するようなことがあったら――」


「わかっている。こいつはこれでもチームの秘蔵っ子だ。施設ファウンテンには立ち入らせない。こいつを連れて行くのは、本部ラングレーの方だ」


 アティースさんは数歩前へ出て、折賀の前に立った。


念動能力(PK)はいつまでも使えるわけじゃない。今のうちから情報作戦立案と交渉の現場を学んでおいた方がいい。お前は、いずれ情報員を指揮する側に立つんだ。行くか?」


「わかった」


 折賀は納得し、即座にアティースさんとともに指令室を出た。

 二人とも、さすがに行動が早い。そのあとを、少し遅れて黒鶴くろづるさんがふよふよと追いかける。


 アティースさんは、折賀がいずれ国際情報官になりたいと思っていることを知っていて、そのために必要なやつ自身の能力を評価してくれてるんだな。


 二人が国籍を超えて情報工作の世界に並び立つ姿が、近い将来、実現するような気がする。



  ◇ ◇ ◇



 ――で、相棒に置いて行かれた俺は、日本で何すべきなんだ?


甲斐かいくん、ちょっとこれ見て」


 世衣せいさんに呼ばれて、ジェスさんのそばへ。

 ジェスさんの目の前にあるモニターでは、さっき見たばかりの監視カメラ映像が繰り返し再生されている。あの、黒人っぽい男が映っているシーン。


「この男、『色』は見える?」


 鮮明とは言いがたい映像に近づき、目を凝らす。


「特に、見えないです」


番犬ガード化してたってことかな。でも番犬ガードに事前に指令を与えるためには、現場の状況を把握できる手段がないと」


「施設に内通者モールがいて、手引きした可能性もありますね」


 世衣さんと矢崎さんが話し合ってるそばで、俺はひとり違うことを考えていた。


 ――番犬ガード。「コーディ(あいつ)」なら、危険な能力者ホルダー番犬ガードにすることができる。


 でも、それはあり得ない。あいつが、フォルカーを殺害する指令なんて出すはずがない。それとも、催眠ヒプノシスをかけるあいつと指令を出すやつは別なのか?


「にしても参ったね。ロークウッドに続いて、またも美仁くんとの相性最悪な相手が出てくるなんて」


「へッ?」


 コーディの名前と衝撃の事実がいっぺんに出てきて、思わず変な声を上げてしまった。


「折賀と相性最悪って、なんで?」


 世衣さんに変わり、矢崎さんがモニターを指しながら説明する。


「この映像を見る限り、侵入者は姿を見せずに相手を殺害できる可能性が高いです。相手を視認しないと念動能力(サイコキネシス)が発動しない美仁くんには、倒しづらい相手ってことになりますね」


 確かにそうだ。やつの念動能力(PK)は欠点だらけだ。それを補えるほどの戦闘能力があるからと、俺は心のどこかで安心してしまっていた。


 ふいに、折賀の言葉を思い出した。

 やつの思念に根強く残る少女・リーリャが、折賀に残したという予言。


(いつか、俺の前に、俺が絶対に勝てない男が現れる。そいつとは絶対に戦ってはいけない。そんな内容だった)


 折賀の天敵。コーディは男じゃないから除外。

 これから現れるのか。それとも、今回のこの男なのか。


 折賀はいつか、決して勝てない相手の目の前に立つことになる――



  ◇ ◇ ◇



「二人のサポートとデータ検証は私らでやっとくから、甲斐くんはいつもどおり働いといで」


 世衣さんに言われて、いつもどおりバイト勤務に出た。


 正直、バイトどころじゃない。コーディに頼まれたのに、フォルカーを死なせてしまったかもしれないんだ。少しでも早く、正確な情報が欲しい。


 でも、俺が指令室にいたところで、たいした役には立てないんだよな……。


 これから情報世界の中枢に乗り込もうとしてる折賀とは、すげえ違いだ。

 俺の存在意義と言ったら、今は美弥みやちゃんを迎えに行く、それだけだ。


 バイトをあがって、いつもどおり美弥ちゃんの高校へ迎えに行く。ひとりで迎えに行くなんて初めてだ。


 レイくんは森見もりみ先生が迎えに行ってくれるから、俺の仕事は美弥ちゃんをバイト先のケーキ屋「ハニー・メヌエット」まで送って、バイトが終わったら二人でお母さんのお見舞いに行って――


 ――んん? ふたり?


 夜はどうすんだ?

 レイくんがいるけど、お子様だからさっさと寝ちゃうし。そのあと、美弥ちゃんと二人っきりってこと?


 適当な理由をつけてあの子の部屋にお邪魔しても、俺の体を曲げちゃいけない方向に曲げるやつがいない!


 なんかうまいこと言って俺の部屋(折賀の部屋だけど)へ引っぱり込んでも、俺を天井にめり込ませるやつがいない!


 どどどどうしようっ!?


「甲斐さん、福笑いみたいな顔になってるけど、どうしたの?」


 ヤバい、顔戻さないと今度こそ美弥ちゃんに通報される。


「えーとね、折賀は急な出張が入ったから、しばらく帰ってこないと思う」


「出張って、また何かの研修? 学会?」


「えーと、何だったかな」


 捕獲任務コード・ガンドッグのたびに似たような名目でごまかしてるので、だんだん苦しくなってきた。

 美弥ちゃんの中では、俺たちはアティースさんやエルさんが所属する「超常現象研究室」の手伝いに駆り出され、超常現象学のさらなる発展のために貢献している模範的な超能力者なのだ。


 ケーキ屋へ向かう途中、美弥ちゃんの携帯が鳴った。

 電話に出た美弥ちゃんの顔が、はい、はい、と応答するごとにだんだんとくしゃくしゃになっていく。なんの電話?


「甲斐さん、病院から。お母さんが、目を覚ましたって」


 このタイミングでッ!


 美弥ちゃんは自転車を病院方面へ向けて、勢いよく漕ぎだした。



  ◇ ◇ ◇



「わたし、今日は病院へ泊るから」


 美弥ちゃんのお母さん――折賀おりが美夏みかさんに向かって、美弥ちゃんはきっぱりと言った。

 俺のつかの間の「二人っきり幻想」は、こうしてはかなく消え去ったのでした……。


「ごめんねえ。この前は、起きたと思ったらまたすぐ眠っちゃったねー」


 お母さんは相変わらず。あのときのように、健康そのものの輝く笑顔でベッドの上に身を起こしている。


 このお母さんが、なぜ何度も寝たり起きたりを繰り返すのか。

 知っているのは、ラーメン屋で真相を聞いたときの四人だけだ。アティースさんはとっくに何か気づいているかもしれないけど。


 今回起きるのが早かったのは、笠松かさまつさんの能力アビリティが衰えてきたんだろうか? それとも、故意にそうなるようにした?


 どっちにしろ、またあの二人がここへ来る。もう一度この人を眠らせるために。


 そのとき、部屋の外に見覚えのある『色』を見た。

 トイレと言いながら席を外し、病室の外へ。

 しばらく通路を進んで角を曲がると、笠松さんがいた。


「どうも、甲斐くん。三週間ぶりですね」


 あのときと同じ、ダークブルー。

 なぜ名乗り出ないのか知らないけど、この人は、折賀と美弥ちゃんの――。


「あの、叔父さん……樹二みきじさんは?」


 キョロキョロとあたりを見回しても、そばにいるはずの人物がいない。

 笠松さんは、心得たように穏やかな声で答えた。


「今回の帰国は、私ひとりです。樹二は研究施設ファウンテンで起きた事件の調査のためにアメリカに残っています」


 調査って、今日起きたばっかの事件だぞ。

 CIA長官のことをロディって馴れ馴れしく呼んでたし、やっぱり叔父さんは本部とかなり密接に繋がってんのか。


「じゃあ、笠松さんはなぜここへ? 二人のお母さんが今日目覚めるって、わかってたんですか?」


「美夏は、ついさきほど私が目覚めさせました。まだ誰にも、樹二にも話してませんが、私は昏睡させた相手を自由に覚醒させることができます。今日ここへ来たのは、樹二がいない間に美夏に確かめたいことがあったからなんです」


 彼が「美夏」と呼ぶのを聞いて、確信した。

 この人は、本来なら美夏さんの夫となったはずの人だ。


 なぜそうならなかった? いつでも起こせたって? 樹二叔父さんのいない間に、何をしようってんだ?


 軽く混乱し始めた俺に、彼は深みのある落ち着いた声で語り始めた。 


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