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コード・オリヅル~超常現象スパイ組織で楽しいバイト生活!  作者: 黒須友香
Ⅱ 「コード・ガンドッグ」、始動!
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CODE51 少年よ、廃車の山を越えて行け!(7)


「あの子はまあ、よく知ってる近所の子だ。たまに面倒見てやってたんだ。オモチャもよく修理してやってな。親にオモチャを捨てられそうになったって言うから、全部ここで預かってやってんだよ」


 ゴーグル越しに女の子の動きを追いながら、フォルカーがしみじみと話す。

 モニターの向こうでは、折賀おりがが女の子と手をつないで敷地外に向かって歩いている。このまま安全な場所まで連れてってくれるんだろう。


「ったく、ここは危ねえから勝手に入ってくんな、っていつも言ってんのにな……」


 フォルカーの言うことが本当なら、彼はゴーグルから送られている信号を通して女の子の動きを感知しているにすぎない。

 本当に、肉眼ではもうこの子の姿を見れないのか……?


「なんで、急に見えなくなったんだ」


 日本で彼と直接顔を合わせてから、まだ四日しか経っていない。


「さあな。力の使い過ぎ、かもしんねえ」


 その言葉は、俺の心臓を躍り上がらせるに十分だった。


「お前らも気をつけろよ。まだはっきり解明されてねえけど、力の使い過ぎは明らかに体に過大な負担をかける。特にあの黒コート少年、今までそうとう無茶な使い方してきてるだろ」


 否定できない……。


 俺も折賀も、目をやられたら能力アビリティ自体が終わる。目がやられなくても、いつか別の弊害が生まれるかもしれない。


「まあ、俺の場合はそれだけじゃない。『テレポーター』の影響の方が大きいかもしんねえな」


 テレポーター?


 テレポート……『瞬間移動能力』か!


「『テレポーター』ってなんだ!?」


 思わず前のめりになって聞き出そうとする俺に、フォルカーはニッと口角を上げながら、椅子の背もたれに頭を預けた。


「お前さんらは、俺たちが『瞬間移動能力者』を抱えてると思ってんだろ?

 正確に言うと、俺たちが抱えていたのは『瞬間移動装置を作れる能力者』だ。今は、装置はあるけど、製作者の方はもういない」


「なんで?」


「知的好奇心ってやつか? どっかの異次元だか時空の狭間だか、見たくなっちまったらしくてな。 自分で装置使って飛んでって、肉片になって戻ってきちまった」


 うげ!? !?


「まあ、それを使いまくってる俺らも、いつ体が変になっちまうかわからんよなあ。お前さんらより先に世界中の能力者(A・ホルダー)を手に入れるために、俺はもうけっこう飛ばされてんだ。――コーディも」


 ――!


「あいつの捕獲を頼んだのは、それでなんだ。あいつ、あんたに会うために進んで装置を使おうとしてたからな。このままじゃあいつの体もマズいし、早いうちにあんたらを始末しないと組織構成員としての立場もマズくなる――一応ボスの娘だから、使い捨てられるとまではいかないだろうけど」


「ボスの……娘!?」


 思わず声を上げると同時に、背後に気配を感じた。

 見ると、いつも以上にダークブルーの炎を揺らめかせた折賀がいる。

 折賀は荒々しく音を立てて近づき、俺とは反対側のフォルカーの横に立った。


「取り決めだ。パーシャの居場所は」


 フォルカーは黙って、手元のキーボードを操作する。

 ぎこちないながらも、最低限の動きでモニター上に何らかのファイルを呼び出した。


「この中を見れば、わかる」


 ジェスさんなら、今すぐファイルを吸い上げられるはず――

 俺は折賀を見た。ずっと知りたかった情報が、これでわかる!


 ――はず、なのに。やつの『色』は、まだ緊張を一切解こうとしない。


 折賀が凝視するモニターの隅に、ゴツい車が三台ほど現れて停車した。まるで、中東で乗せられた警察の装甲車みたいだ。次に中から、全身を真っ黒い装備で固め、自動小銃で武装した人間がバラバラと降り立って走っていく。この様子は、まるで――


 フォルカーは即座にファイルを消した。


「お前ら。取り決めを破って、特殊部隊を呼んだのか」


「いや、そんな――」


 俺が言い終わるよりも先に。


 廊下で亀山のおっさんが何かを叫び、いくつもの半長靴の足音が小刻みに連なって。


 息を整える間もなく、いくつもの銃口がいっせいに俺たちに向けられた。



  ◇ ◇ ◇



 フォルカーが舌打ちする。折賀は「バカな真似はするな」とささやく。


 リーダーらしき男がマスク越しに早口で何かを言い、俺たち三人はあっという間に囲まれて床に押さえつけられた。

 

 ちょっ、痛えし乱暴すぎ! 何がどうなってんだ!?


 男のひとりが折賀の左手首の端末を取り上げようとしたが、別の男がそれを止めた。

 男に何かを言われ、折賀は身を起こして端末を操作する。

 そこから聞こえてきた音声は、ジェスさんでもMAYAちゃんでもなく――


『二人とも、状況が変わった。部隊の指示に従ってくれ』


 アティースさん!


 折賀が険しい目で俺を見る。


 どうなってんだ。本部に気づかれないように、今回はオリヅル指令部との連絡は取らないはずだったのに。


『ヴェンデル・フォルカーおよびミア・セルヴァは、これより本部派遣チームの保護下に入る。「オリヅル」チーム四人は、部隊が空港まで送り届ける。そのまま速やかに帰国すること』


「ちょっ、アティースさん!」


 ダン! とひときわ乱暴な音を立てて、まだ床に押さえつけられている俺の眼前に黒い革靴が降り下ろされた。

 自由のきかない頭を持ち上げると、仕立てのよさそうなグレーのスーツをまとう脚が続く。脚の持ち主は、なぜかこの場でただひとりスーツに身を包んだ、三十代くらいの黒いくせっ毛の男。


「伝達は以上だ。二人は我々が責任を持って保護する。ご苦労だった」


「まだあんたの名前を聞いていない」


 折賀が問うと、男は「そういえば、まだだったな」とさげすむような目で俺たちを見下ろした。


「ロドニー・シーウェル。肩書は、科学技術開発部の副部長だ」


 CIA本部の、ってことか。


 今さらながら、ここがアメリカで、CIA本部からそう遠くない距離にあるってことを思い知らされる。


 アティースさんは、本部にバレないように立ち回ってくれてたはず、なんだけど。やっぱりバレたんだろうか。


「二人をどこへ連れていく。『ファウンテン』か?」


 折賀が食い下がる。「ファウンテン」ってのは、本部と同じヴァージニア州にある、超常現象研究施設の通称だ。


「すでにわれわれの管轄だ。きみたちにはもう、関係ないんだよ」


 シーウェルとかいう男の態度は、あくまで事務的かつ嘲笑的。こいつ、ろくな『色』をしていない。


「二人を捕獲したのは俺たちだ。二人は俺たちが必要とする情報を持っている。せめてそれを聞き出すための時間を――」


「なら、きみたちの上司に確認してみるといい」


 折賀の抗議に答える、冷たい声。端末から、再度アティースさんの声が届く。


美仁よしひと甲斐かい。二人を取り調べる権限も、工場内を捜索する権限もすべて彼のチームに渡ったんだ。――すまない』


 アティースさん……。


 彼女の力は及ばなかった。俺たちは、パーシャの居場所も、「アルサシオン」のボスの正体も、情報という情報をすべて本部に奪われてしまった。

 本部には、「アルサシオン」に通じる内通者モールがいるはずなのに。二人がこの先どんな目に遭わされるかわからないのに。


「フォルカー……フォルカー!」


 拘束され連れていかれるフォルカーの後ろ姿に、どんなに力の限り叫んでも、結局何の情報も得られなかった。

 コーディの居場所も、フォルカーの後ろ姿とともに、あっけなく消えてしまった。



  ◇ ◇ ◇



「エルさん。『ファウンテン』ってどんなところなんですか?」


 空港でようやく本部の目を離れた俺たちは、人の少ないエリアの隅に集まった。

 三人は空いている長椅子に座って。いつもならその辺で寝ている折賀は、ひとりで窓際に立ち、外に視線を向けている。


「甲斐さんは、あまり知らない方がいいと思います」


 その返答自体が、ヤバい場所なんだと語っているようなもんだ。


 アティースさんと初めて会ったときのことを思い出す。

 研究のためなら俺の目をえぐり出すのもいとわないような研究員が、大勢いる施設……。

 今まで極力考えないようにしてたけど、それは決して消えることのない、俺たちの組織が抱える闇の部分。


「折賀も行ったことあるんだよな? 確か、施設で例の双子に会ったって……」


 折賀は黙って俺を見る。

 ぱっと見平静に見えるけど、コートとジャージの下に今、どんだけ複雑な思いを抱えていることか。俺だってそうだ。


「あそこの全貌は、俺たちにもわからない。見られるのはほんの一部だ」


「今まで俺たちが捕獲した能力者ホルダーたちは? 大丈夫なのか?」


 イタリアで捕獲したフェデさん。中東で捕獲したテオバルドさん。


 ほかにも、俺が加入する以前に折賀たちが捕まえた人間が、何人もいるはずだ。


「大丈夫だと思う。あそこにはアティースの知り合いもいる。アティース自身も、何度も足を運んで確認している」


 それでも、目が届くほんの一部しか確認できていないんだろう。


 俺たちだって、いつ連れていかれるかわからないんだ。

 俺と折賀、美弥ちゃん、亀山のおっさん。それに、タク。

 バレたら、笠松さんや、折賀の母さんまで……。


「私が『ファウンテン』へ行きます」


 エルさんのりんとしたよく通る声が、男三人に向けられた。


「あそこには私も伝手つてがあるんです。何かひとつでも情報が入手できないか、調べてみます」


「――頼む」


 エルさんの言葉に、折賀の低い声が続いた。


 ふと顔を上げると、大きな黒い瞳が俺の顔をのぞき込んでいる。黒鶴くろづるさんだ。


『甲斐。あの娘のこと、頼まなくていいのか』


「…………」


 コーディのことが、チームに理解されるかどうかはわからない。でも、いつかはわかってほしい。


 やっぱり俺は、誰に何と言われようと、あいつのことはほっとけない……!


「エルさん。コーディ……コーディリア・ロークウッドのことも、調べられるだけ調べてもらえませんか。

 彼女は、『アルサシオン』のボスの娘、なんだそうです。このままあの組織にいたら、彼女はきっとダメになってしまう……」


 三人の、それぞれの思いをはらんだ視線が俺に向けられた。


 特に、折賀がどんな目で俺を見ているか――怖くて、見返すことができなかった。



 俺にとっていちばん大切なのは、美弥みやちゃんだ。これは絶対に変わらない。


 でも、今いちばん取り戻したいのはあいつなんだ。

 折賀も、美弥ちゃんも、きっとわかってくれるよな?


 いざとなったら、俺も施設ファウンテンへ行く。フォルカーやミアさんから、少しでも手掛かりになる情報を聞き出すために。


 たとえどんなに時間がかかっても。


 コーディ、絶対助けに行くからな。






Ⅱ 「コード・ガンドッグ」、始動!


 <了>


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